俺が生きる意味 1 放課後のストラグル

stars 人の命も、人の想いも平等だけど、人と人との関係はそうじゃない。誰かを優先することは、決して恥ずかしいことでも、非道なことでもないんだよ。だからね、斗和。いざというときは切り捨てる勇気を持ちなさい。近い将来、必ずその日がやってくるはずだから――。

俺が生きる意味 1 放課後のストラグル 書影大

誰かを選ぶということは、選ばなかった誰かを犠牲にするということだ――。
ある日の放課後、高校生の斗和は、仲のよい2人のクラスメイトから同時に告白を受ける。どちらを選ぶか、斗和の中で答えは出ていた。
だが、平穏な日常は唐突に崩壊する。突如として現れた“見えない壁”によって学校は外部と隔離され、生徒たちは“人喰いの化け物”が徘徊する学校に取り残されてしまう。
大切な人達を誰一人死なせたくないと、斗和は必死に抗うが――。
濃密なサスペンス演出が冴える衝撃のパニックバトル、ついに開演!! この衝撃は心臓を抉る!!

怖い怖い怖い! 痛い痛い痛い!

何このパニックホラーすごい。ぐいぐい引き込まれて最後の一文に放心。これ、連続刊行でなかったら、悶々としたこと間違いないですよ!?

構成が非常に巧みに感じられます。冒頭の、本編とは関係のないプロローグからして意味不明ではあるのに、この作品の舞台が現代ぽくてけれど現代出ないというのを示唆しています。そして、本編内では、どうやらこの世界はかなり未来を舞台にしてるんじゃないかって疑念まで浮かんできます。2000年前に大災害が起き、それ以降、人類にも様々な突然変異が生まれているという説明。髪の色や、目の色、そして一部の人間が備えていると思われる異能の力。文明が大災害から2000年かけてようやく現代と思しき水準まで回復したとしても、そこで暮らす人々は、現代人とはかなり異なっているのかなあ。

設定として語られている、超日本都市とか、プロローグで語られた「お父様」とか、世界観の根っこに重要そうなキーワードが横たわっているみたいなのに、その説明の少なさがさらに深読みをさせてしまいますね。気になることといえば、色の名前が章タイトルにも、登場人物の名前にも多用されているし、妙に色を強調する描写も目に付きます。作風と切って捨てるには、どうにも狙って描いてる感が強いので何かの伏線かなあと思いつつも、最後まで読んでしまうと、それさえも読者を惑わすためのミスリードなんじゃないかとか思えてくるふしぎ!

そういう疑問点をいくつも感じながら、けれど、読んでいる最中は、突然現れた異形に食い散らかされていく学校の生徒たちの無残な末路にドキドキしっぱなしなんですよね。たった3体しか化け物は登場していないのに、その圧倒的な存在感たるや。ファンタジー世界の登場人物のように、戦うことが当たり前ではない、普通の人間は逃げ、無駄な命乞いをして、そしてすでに人間が種の頂点でないことをこれ見よがしに突き付けるようにあっさりと死んでいく。死に際の描写が生々しいせいか、こっちまでぞくぞくしてきますよ。ペタペタさん怖すぎぃ!

主人公(?)の斗和はそれでも機転を利かせながら生存ルートを辿っていきますが、万能ではない彼も、常に選択を迫られます。すなわち、誰を生かし、誰を見捨てるのか。極限状態でなければ浮かんでこない思考、それでも、斗和は自分の命さえもその計算の中に入れ論理的に割り切って行動しようとする、逆に異常ともいえる行動を取って。効率や確率を優先し、気持ちを考えていないというのは、作中でも指摘されたりしてますが、そういう風に生きてきたと所々で語られる彼の師匠との会話を見ると、こうなることが予想されあらかじめ技術や思考を仕込まれていたようにしか思えないんですよねえ。

うざい友人の卓二が言うように、『師匠』の存在が架空のものだとしたら、その言葉は一体誰の言葉なのか? 異能さえも、人類が進化の過程で獲得し得た力だと定義されている本作の世界観からすると、これこそが、斗和の持つ異能だったりしたら、面白いですね。超能力というよりも、自分の脳の中にあるもう一つの仮想人格といった感じですが、単純な二重人格とかとはまた違う設定だったりして。まぁ、単なる妄想でしょうか。

一人また一人と確実に生徒たちの命は削られていき、このままでは全滅エンドな予感がひしひしとするんですが、果たして彼らが最後の希望としている、外部からの救援なんてものはあり得るのでしょうかね? 学校の敷地の外部に出ることができない異常事態は、この世界が完全に外界と切り離されているとしか思えない描写です。他の生物の気配がなくなったことや、世界が色あせてしまったような描写、何よりも、この惨劇が起きている舞台はここだけなのかという根本的な疑問もあります。人類が捕食される側に回ったってことは、全世界的にこんな有様になっていそうなものですがそういう情報もないだけに、この物語がメタフィクションだったりするどんでん返しも疑っちゃいますね。それはそれで予想外ですが、物語についてのうんちくとか挟まれたりしてるので、この作品の構成自体が何かトラップになっていそうな気もするんですよねえ。

あれこれ疑問点を重ねても、本巻の結末は覆らないし、その先が気になるのは確か。ああ、見事にハマってる。あとがきを読むとしてやられた感が満載ですね。続きがここまで気になるお話もなかなかないです。あと少し、2巻の発売を楽しみに待ちながら、この絶望感をもう一度味わってみようと思います。

hReview by ゆーいち , 2013/04/07

俺が生きる意味 1 放課後のストラグル

俺が生きる意味 1 (ガガガ文庫)
赤月 カケヤ
小学館 2013-03-19