変態王子と笑わない猫。

stars すぐうそをつき、神様のせいにしてなんでもかんでもごまかして、人の言葉に頼るぼく。建前があってもなくても、肝心なときに肝心のことを言わないぼく。それでも自分を嫌いになれるほど、変われたわけじゃない。だけど、大事な女の子のことぐらい、本音でぶつかるときがあってもいいじゃないか。

変態王子と笑わない猫。 書影大

横寺陽人は頭の中身が煩悩まみれな高校二年生。ひょんなことで“笑わない猫像”に祈ったら、心で思ったことがいつでもどこでも垂れ流しになってしまった!
人生の大ピンチを救ってくれたのは、クールでキュートな無表情娘、筒隠月子――「頭の先から尻尾の終わりまで撫でまわしたくなる感じの子だなあ」「変態さんですね」「ち、違っ、褒め言葉の一種だよ!?」「裁判沙汰の多そうな変態さんですね」「!!??」とにもかくにも猫像のせいで喪われた本音と建前を奪還しようと、ふたりは協力してアニマル喫茶に行ったり水着を買いに行ったりお嬢様のペットになったり――ん?
第6回新人賞<最優秀賞>受賞、爽やか変態×冷ややか少女の青春迷走ラブコメ!

今まで手を出してなかった人気作を読んでみよう期間継続中です。

アニメ化もされてる『変態王子と笑わない猫。』ひとまず1巻を購入してみました。カントク絵可愛いしね!

いや、本当にイラスト良い感じです。もともと本の内容はともかく、イラストデコのシリーズの存在は認識していただけに、表紙、カラー口絵だけでなく、モノクロの挿絵もクオリティが高くて見応えがありますね。物語に合わせたイラストという意味ではベストマッチだなあと、この1冊を読んだだけでもしっくりきてますから。

と、イラスト褒めそやしても仕方ないですね。本編もイラストに負けずに楽しい内容でしたよ。個人的には主人公の陽人の性格やら行動やらが最初はなじめずに妙な生き物を見る目で生暖かく見ていたんですが、彼と対になるヒロインズ、月子と梓の二人が魅力的で仕方ない。笑わない猫像によって本音を表すことができなくなってしまった無表情な月子と、一方で陽人の建前を得て表面上はいっぱしのお嬢様になったくせに、少しテンパるとあっさりメッキが剥げて地が出てしまう表情豊かな梓。どちらも楽しく物語を彩ってくれる華やかなヒロインでしたよ。

表情がない、感情を上手く表現できないという制限を、小説という媒体は上手いこと読者に伝えてくれますね。この辺は作者の力量もあると思うのですが、ちょっとした言葉遣いやタメ、仕草、主人公の視点から見たそんな情報で、なかなか伝わらないはずの月子の気持ちが割と読者には伝わってくる。肝心の主人公は変態のくせに、変態のくせに、あるいは変態だからこそ、そんな少女の気持ちを(物語的に)都合良く勘違いして、さっぱりラブな方面にいこうとしないのがやきもきしてしまいますが。

そんな主人公のあさっての方向への理解の深さの最大の犠牲者が梓なんだろうなあと。彼女の抱えてる問題が、物語中盤の盛り上がりでもあるのですが、ラブコメにしてはヘヴィだなあなんて思いつつ、主人公の勘違いが結果的に解決に繋がってみたり。その前に、その建前のない言葉でさんざん勘違いさせて、悪意無なく、善意であるがゆえの無邪気な勘違いがまたしても少女を深く傷つけたりと、痛々しい部分もあるんですがその分、その後の月子に励まされての陽人の行動はなかなか主人公していて良い感じです。まぁ、言ってることはかなりひどいんですが、こればっかりは彼女の恋ごころにさっぱり気づけないがゆえの残酷さだよなあ。もっと上手く騙して欲しいって、そんな遠回しな言い方じゃあ通じませんよ、梓さん。でも、建前のない、表情がころころ変わる素の彼女が素敵だというのは同意ですね。妙に見栄っ張りなところも、テンパって涙するところも、妙に不幸属性な所も魅力ですよね!

そして、こっちが本命? 本音を奪われた月子の方は問題がさっぱり解決せず棚上げ? まぁ、物語的に彼女と陽人の関係がここから始まるというスタート地点でもあるのですから、これくらいの距離感がちょうど良いのかな。にしても、月子の陽人への信頼というか好意が、割と初期の段階から高いのが気になります。あの出逢いで一体どこに好感を持つ要素があると(笑) 本音ダダ漏れの変態王子モードの陽人に対しても呆れつつツッコミを忘れず、そして見放さない月子さん、マジ女神。そりゃあ、陽人が妹にほしがるのも分かる気がするよ。けれど妹という立ち位置が面白くないのが当の彼女。もともと姉と妹という関係で悩ましく思っていた分、そういう血の繋がりで切り離すことのできない関係よりも、お話のようなロマンスに憧れているお年頃。本来の表情豊かな彼女だったらこのシーンだとどんな顔をしているのかななんて文章を読みながら想像したりして二度お得。いやいや、無表情でもしっかりとその場面での気持ちが分かるだけに、にやにやが止まらないわけでもありますが。

だけれど、このオチは何だー!? 何も解決していない(笑) 美味しいところは全部、変態王子を上回るまさかの変態発言と、笑わない猫像が持っていったー!? 主人公、その場に居合わせただけ? 最後の一押しの役には立っているけれど、月子を救うヒーローにはなれなかったかあ。そもそも、彼女の目の前の問題としては姉との気持ちのすれ違いがあったわけで、それが解決した部分についてはハッピーエンドではあるけれど。エピローグで言うように、物語はまだまだバッドエンドルート続行中。彼女の表情を取りもどすまで、変態王子と表情を無くした猫のような少女の関係は続いていくのです。ああ、こういう形でうやむやになるのは残念だけれど、月子の気持ちは分かるような気がしますね。

お互いが笑い合っていて幸せな気分になれる、ああ、まさしくハッピーエンド。ラブストーリーとしても文句なしでしょう。言外にそんな約束が含まれているのかどうか、陽人の気持ちはそこまで恋を予感させるものではないけれど、少女の方は期待しているのが手に取るように分かるのが微笑ましい。続いていく協力関係、そこから変わっていく先輩と後輩の関係。陽人が望むような兄と妹の関係で落ち着くのか、それとも月子が望んでいるような別の形に変わっていくのか、これは、続刊も追いかけなきゃいけませんねえ!

hReview by ゆーいち , 2013/04/27

変態王子と笑わない猫。

変態王子と笑わない猫。 (MF文庫J)
さがら 総 カントク
メディアファクトリー 2010-10-21