変態王子と笑わない猫。〈6〉

stars ぼくたちはわかり合えない。だから回り道ばかりする。ぼくが落ち込んでいたから、こんなことまでさせてしまったんだ。ぼくらはどこまでいってもひとつになれないけど。ぼくらはどこであろうとひとりじゃない。

変態王子と笑わない猫。〈6〉 書影大

年末恒例、ちょっと変わった修学旅行の季節がやってきた。果たして誰の意思なのか、ぼくと一緒の班になったのは、小豆梓と天敵・副部長!? 「最後の旅行なのに――ずるい。です」……一方、学年の違う月子はのけ者扱いに拗ねまくり、暗黒魔王ポイントをもりもり貯めていく。魔王×猫像×天敵ときたら、何も起きないはずがなく――「げへげへ。女の子のパンツ食べたい」「ぎゃー! なに言っちゃってんの!?」……この冬、彼と彼女の関係に重大な異変が?
爽やか系変態ラブコメ、待望の第6弾! 優しいコミュニケーションの物語は、新たなる青春のステージへ――。

どうしてこうもすれ違い続くんだろう。

そう思わずにはいられないくらいに、陽人と月子の関係というのはシビアなバランスの上に成り立っているんですよね。というか、前巻であんなにロマンティックな引きをしておきながら、キスしてなかったってどういうことですか!? 餌をちらつかせておきながら、ずっと待機状態とか、生殺しにも程があります。……でも、なんだかキスをすっ飛ばして、過剰な触れあいに至ってるんですが、月子の中では、キスするよりも身体のあちこちを触られる方がハードルが低いってこと? ぎりぎり自分の理性がなくならないように最後の一線は死守しているようですが、冒頭のハグのシーンとかは妙に色っぽい感じでしたよ爆発しろ!

ハタから見たらもう恋人のような二人なんですが、そこには梓もしっかり絡んでいて、ここに来てようやく小豆梓の逆襲といっていいようなシーンもあったりで、月子が自負していた正妻の地位も一気に脅かされ始め、恋のバトルも梓本人にはよく分からないうちにライバルに大打撃を与えたりと、陽人じゃないですが見ている方がはらはらするような会話もありましたねえ。全然コメってないよ!?

そして、表紙の副部長。ここまで変態入っているとは誰が予想しただろうか。まぁ、陽人に対する容赦ない言葉とその語彙のバリエーションはむしろ露骨なくらいにヤバい単語も含まれていたのですが、猫神様のいたずらで陽人と精神が入れ替わってからの彼女の所行は、変態王子を上回る変態王とでもいわんばかりの暴走ぶりで軽く引きます。ここまで突き抜けた変態的な性癖の持ち主とは、鋼鉄さんの件がなくても同族嫌悪的な意味で、副部長は陽人を嫌っていたんじゃないかと思えてしまいますね。結果的に、深い付き合いのできる友人ができていなかった彼女の、一番近い異性の友人的なポジションに陽人が収まったっぽいのは果たして良いことなのか(笑) 陽人の身体で人生ハードモードを経験したせいか、少しだけカドの取れた彼女は悪友的なポジションで今後どういう風に関わってくるんでしょうかね?

肝心の月子との関係は、よりいっそうこじれていってる風でもやもやしますね。前巻のエピソードから月子の独占欲というか、陽人の中にある自分という存在が占める割合の大きさを気にするばかりで、彼の気持ちをないがしろにしがちだった違和感。物語を通じて、今まで少しだけ治まっていた、陽人への執着が一気に噴出したような感じがするんですよね。それが悪い方向に作用して陥ってしまった危機的な状況。それを解決した方法が、陽人の身を挺した自爆テロ的な行動というのがやるせなさ過ぎます。どうしてそういう選択肢しか選ばなかったのか、そこにいたポン太の友情さえも裏切って孤立に向かう道を歩こうとする行為。思い出という積み重ねを得ることができないためか、自分も含めその場で感じる痛みというのに鈍感になってるように感じますね。月子を傷つけまいとするために取った彼の行動が、よりいっそう彼女を望まぬ形で傷つけてしまう。彼女にまで「無理」だといわせてしまった陽人の自己犠牲の行動はこの先どんな波乱を生んでくるのか。どうにも致命的なヒビがお互いの間に生じてしまったようでいたたまれないですよ。

感情を取りもどす、その最終目標に至る前に、満足なコミュニケーションも交わせないような重篤な関係に陥ってしまった二人。近づいては離れ、けれどまた少しずつ近づいていこうとする彼ら。一方が近づくことを諦めたのなら、もう一方が取ることができる方法はそれほど多くないですよね。彼のためにできることをしようとした彼女の想いが報われないなんてバッドエンドはよして、ここからまた一歩ずつ近づき始める、再スタートに期待したいです。

hReview by ゆーいち , 2013/05/11

変態王子と笑わない猫。6

変態王子と笑わない猫。6 (MF文庫J)
さがら総 カントク
メディアファクトリー 2013-03-22