やましいゲームの作り方〈2〉

このページは約 6分22秒で読めます。

stars 死んだあの瞬間、全部なくなったはずのすべてを、幸い俺は心の整理をつけながら、お前の中に少しずつ少しずつおっことしていけるんだよ、だから奪うとか言ってんじゃねえよ、せいぜいありがたいとそう思え!! ……そうだよ。頼むよ。死んだ方がいいとか言わないで、なんでもいいからその体でなにかしようとしてくれよ。俺みたいなバカ親に言われっぱなしで終わるなんて、それこそバカ息子だろ……。

やましいゲームの作り方〈2〉 書影大

おっさんの存在が自分の中から消え去りそうになったあのとき、「このままじゃ無責任だ!」的なことをおっさんに訴えた。そんな一瞬の気の迷い をどこかの誰かが聞いていたのか、おっさん自身がそれを可能にしたのか、とにかく僕の中に留まった――記憶の一部と、ときどき身体の主導権が戻ることと引き替えに。こうなるとわかっていたら僕はあんな訴えをしただろうか。そして――平栗さんを巻き込んで、この中田ろみ子先生とシナリオリテイクに励まなきゃならない、そんなことがわかっていたとしたなら?
お仕事モード全開の第二巻!!

2巻にして早くもクライマックス感漂う盛り上がり。いやいや、これぞ荒川工のストーリーテリングと言わんばかりのお話の流れで、琴線揺さぶられまくり。これですよこれ! 格好いい親父とその背を見て育つ息子、こういう構図で家族を描いてみせるのはなんともらしくて、じんときてしまいますね。

ヒロインの位置に平栗さん、そして噂の金髪ロリの大物ライター田中ロミオもとい中多ろみ子も登場し、主人公の忍を中心にしたラブでコメな展開を中心にやろうとすれば全然行けただろうに、それをやらずに成仏しきれない親父・龍介と周囲の人間、そして息子の忍との関係を主軸にお話を展開するというのはなかなかできるものじゃあないと思いますが、あえてそういう展開に持ってくるのが俺得過ぎて大変です。

前巻からもそうでしたが、この作品は今の段階では決してラブコメになってないんじゃないですかね。父親と子どもの掛け合いが大部分を占めているというのもそうですが、龍介が心を砕く相手というのは、残されてしまった同僚や作りかけの作品というのもありますが、何よりもその身を挺してかばった息子である忍なんですよね。父と子という最も近い関係でありながら、決してお互いに理解し切れているわけではない相手に対して、軽口をたたき合いながらも心の底では思い遣ることを忘れない。そういう細やかな事柄を積み上げて描いていく親子関係というのが本作の魅力でもあると感じてしまいます。ネタバレ的ですが、このままずっと忍とその中にある龍介の二人三脚でエロゲー業界を乗り切っていくのかと思ったら、忍の切り札とも言うべき龍介は今巻をもって退場。なにも残さないわけではないけれど、彼の力なく、素人同然の状態で難題に挑むことになる忍が、ここから主人公としてスタートすることになる、まさにプロローグ部分がようやく終わったとも言えるわけで。

そう考えると、ここまでの物語は、今までの物語は、死に損なっていた龍介が、心の整理を付けながら、自分が伝えきれなかったことを、この奇跡みたいな猶予期間を使って、忍へと託すまでの、龍介を主人公とした物語だったのかも知れませんね。平均年齢高めなソフトマシーンの社員たちも、直接は龍介との繋がりがあった人たちであり、逆にこれから物語の中心に位置しそうな平栗さんやろみ子は年代的にも忍の側の人間になると。キャラクターたちの物語への登場の割合がだんだんと後者へ偏ってきている感じがしたのは、お話の主人公が龍介から忍へとまさしく変わっていく流れだったからこそ抱いた感想なのかも知れません。

そして、龍介は紛れもなくいい男でしたね。対外的には決してほめられた人間ではなかったとしても、彼が残したものは確かにみんなの中に刻まれていて、だからこそ心残りを精算し、大切な思いを少しずつ漏れこぼしていきながらも最後に残った宝物である忍と、自分が消える直前にああも自然に今までのわだかまりなく、親子に戻れたのだから。彼が言うように、この短い時間の中で、忍の中に落としていった自分の欠片が、息子を成長させる糧となるのなら、親冥利に尽きると言っても過言ではないんでしょうね。妻を亡くし、息子と別れることになった彼が、最後の最後に妻の桜と再開できたという救いもまたベタではありながらも感動させられてしまいますね。あれだけの短いシーンで忍の母親像をきっちりと描いてくれるあたり、もう上手すぎです。

ああ、もう、新キャラのインパクトもあったはずなのに、終盤の父子の物語に全部持って行かれましたよ。ろみ子のモデルである田中ロミオも家族計画などで家族の在り方を素晴らしい形で描いてくれていましたが、本作もまたツボにはまりすぎてヤバいですね。荒川工という作家を知る契機になったLienでも、父と子の関係を見事に描き、そして本作ではその構図を逆転したように残される息子、逝く父という構図で絆を描いて見せた、個人的にはもうこの段階でお腹いっぱいですよ。

けれど、本当の戦いはこれからだ! 父という自分の中の大切な存在を亡くし、素人の忍に残された課題は決して軽くはないプロのお仕事。彼を手助けする心強い味方は増えたけれど、ここから忍は龍介ではなく忍自身として社会と向き合っていかなければならないのですね。魑魅魍魎がうごめきそうなエロゲー業界の中で、彼はどのように生き抜いていくのか、物語はいよいよ本番突入といったところでしょうか。

生々しい業界裏事情みたいな語りがなくなるかと思うと少し残念ですが、最後の引きを考えると、この感動を返せとばかりにあっさり再登場とかの可能性は決してゼロじゃあない? せめて基礎用語講座は残して、知らなくてもいい裏情報をさらにつまびらかにしていって欲しいですね。

hReview by ゆーいち , 2013/05/19

やましいゲームの作り方〈2〉

やましいゲームの作り方2 (ガガガ文庫)
荒川 工 nauribon
小学館 2013-05-17

    スポンサーリンク

    Trackback URL

    No Trackback to やましいゲームの作り方〈2〉

    Still quiet here.

    Comments are closed.