はたらく魔王さま!

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stars いいか勇者エミリア、俺は、この世界で正社員になってみせるぜ。いずれ俺は、店長を超える。そして、正社員となって金と社会的地位を積み重ね、いずれはこの日本で、多くの人間を膝下に跪かせる実力者になってみせる。その力を武器に、俺は再びエンテ・イスラに攻め込むんだ! どうだエミリア! お前にそれが止められるか。

はたらく魔王さま! 書影大

世界征服まであと一歩だった魔王サタンは、勇者に敗れ、異世界『日本』の東京・笹塚にたどり着く。
そんな魔王が日本でできること。それはもちろん“世界征服”!!――ではなく、駅前のファーストフード店でアルバイトをしながら生活費を稼ぐ、いわゆるフリーター生活だった!
その頃、魔王を追って時空を越えた勇者エミリアもまた、テレホンアポインターとして日本経済と戦っていた。そんな二人が東京で再会することになり――!?
六畳一間のアパートを仮の魔王城に、今日も額に汗して働くフリーター魔王さまが繰り広げる庶民派ファンタジー。第17回電撃小説大賞〈銀賞〉受賞作登場!

アニメも好評ということで、発売時に購入してそのまま地層の深くに埋もれていた本を発掘したので読んでみました。ちょー面白かった。なんか、最近こんなのばかりだ。自分で決めて買っておいて放置しちゃあ、いろいろ申し訳が立ちませんな。速攻で続刊も買っておりますのでご容赦を。

異世界で暴虐の限りを尽くした魔王と参謀が、勇者から辛くも逃げだしやって来たのは異世界=地球。もといた世界エンテ・イスラ征服の夢を捨てきれず、悪魔たちの王としての振る舞いをしようにも、失われる魔力、異能、残されたのは脆弱と軽んじていた人間と同様の肉体のみ。冒頭の言葉も分からず、生活の拠点もなく、明日さえままならないかつての魔王とその参謀。公権力に厄介になり、一から生活の基盤を積み上げていく涙ぐましい努力は、なんか別のところで役に立ちそうな生々しさが感じられます。

っておい! まさか、バイト先を探すところから彼ら――真奥と芦屋ふたりの日本での生活が始まるとは思いませなんだ。初めは昨日のことのように思い出されるかつての覇道の続きを夢見て、悪魔らしい言動をしていたかと思いきや、だんだんワーキングプアに染まっていく様に涙が止まりません。これがかつて魔王軍のトップに座し、人間世界を壊滅の一歩手前まで追い込んだサタンとその部下の末路とは。そりゃあ、同じような立場に身をやつした勇者エミリア=恵美もぶつけようのない怒りに駆られようというものです。

異世界では命を賭けて戦いあった二人なのに、日本での生活の所帯じみた庶民の生活をしながら、宿敵同士な雰囲気を醸し出してもハタから見たら痛い中二病患者か痴話ゲンカの延長にしか見ませんよねえ。お互い本気に嫌がっているようでいて、ときどき妙に息の合ったところも見せられたり、腐れ縁で因縁という血なまぐさい関係のようなのに、そこまでお互いが憎しみに囚われているような感じがしないのが不思議。

恵美の方は、魔王を確かに憎んでいたはずなのに、真奥は憎しみ切れないという矛盾に悩み、そして自分が想像していた悪逆非道のはずの魔王が真奥として人と平和に暮らしていることに納得ができない……というよりも、今までの自分が抱いてきた恨み、戦う意義を彼にぶつけられないことに苦しんでいるんでしょうかね。父を殺め、祖国を奪い、多くの人間に仇成したはずの魔王が、この異世界では人の世界に自然に溶け込み、人を当たり前のように救っている。果たして、恵美がエミリアであったときに抱いていた魔王への憎しみというのは本当に魔王=サタンに向けられたものだったのでしょうか。その答えが出ないまま、やって来たのは異世界からの刺客。

ああ、確かに真奥が言うようにB級みたいな展開だ。お役御免になったかつての英雄も排除して自分の権威を維持しようだなんて、ありきたりにもほどがある。この辺あっさり看破してみせる真奥の推理はさすが悪巧みさせたら悪魔のようだ、いや、悪魔なんですが、悪巧みにかけてはさすが本職には叶わないなあとか。ギリギリの状況でいきなり生まれた勇者と魔王の共同戦線。敵の敵は味方とばかりに即興ながらも良い感じに戦う二人。好き勝手する敵の大暴れまでも利用して、一発逆転の目が出てからの展開は痛快で気持ちいい。それでも、ここまできて人死にが出ないのは、この作品の方向性なんでしょうかね。真奥の方も誰かが死ぬということの重みを理解しはじめてみるのか、魔王の人助けなんて珍妙な構図もまた、彼がそうなら納得できそうな妙な人徳を感じます。

しかし、この異世界での生活、いつまで続くのやら。真奥の野望をそのまま叶えようと思ったら何年かかるか分かったものじゃないのですが。それまで六畳間での男だらけの共同生活は一体誰特? いや、見ていて割と楽しいんですが。

果たしてこの小市民な魔王と勇者の現代での生活、いったいどんな結末へ向かって進むのやら。当座の敵は資本主義社会そのものな気もしますが、頑張れ、負けるな!

hReview by ゆーいち , 2013/06/02

はたらく魔王さま!

はたらく魔王さま! (電撃文庫)
和ヶ原 聡司 029
アスキーメディアワークス 2011-02-10

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