エスケヱプ・スピヰド 四

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stars 君は少しだけ、ぼくに似ている気がしたんだ。

エスケヱプ・スピヰド 四 書影大

黒塚部隊によって、《蜂》と《蜻蛉》、そして竜胆の体が奪われた。九曜たちは仲間を奪還するため、鬼虫四番式《蜈蚣》弩将の井筒を目覚めさせようとする。しかし理論上は正しいはずの蘇生実験は、失敗を繰り返していた。
そんなある日、叶葉は帝都《東京》の町中で行き倒れている少女を助ける。“クルス”と名乗る少女は、去り際に「南が明るくなったら逃げろ」と叶葉に告げた。そして彼女の言葉通り、南から敵襲がはじまり――?
果たして九曜は自らの半身《蜂》を取り戻すことができるのか。そして謎の少女・クルスの正体とは!? 最強の兵器たちが繰り広げる神速アクション第4弾!

続々と登場する前大戦の亡霊たち。いや、鬼虫にしろ、甲虫にしろ彼らは彼らで今を生きているのは確かだけれど、やはり自分たちが生きていた時間は、あの大きな戦いの時をおいて他にはないと考えている人物も少なからずいるのでしょうか。

変わっていく者の代表格としてはやはり、主人公の九曜なんでしょうね。都度、挿入される過去の鬼虫たちとのエピソードでは、融通の利かない生真面目で自身を兵器として律しようとする冷たさが感じられましたが、叶葉と出会ってからの彼の激変は、やはりかつての戦友たちをして変わったと思わしめるほどのものなんでしょう。それを頼もしく思うか、危ういと思うかはまた人それぞれですが。叶葉が抱えたまま、まだ言葉にできないこと――九曜が自分と同じ人間であったかも知れないという疑念――をぶつけられるくらいに、二人の信頼関係が深まるときも近そうですね。というか、この二人の円熟した夫婦のような雰囲気はもうね、爆発しろと言いたくなるくらいに自然で、当たり前のようにいちゃいちゃしやがって……っ!

新たに登場した鬼虫。四番式と伍番式。蘇った者と、死んだままの者。一体どちらが幸せだったのか。長い時間をおいて、いきなり目覚めさせられた井筒の違和感と、言いしれぬ不安、そして焦りは、戦いに身を置きながらも、最後まで戦い抜くことができない戦士であるがゆえの思いなのでしょうか。自分は生きているのに、兄貴と慕った竜胆は、彼自身が下に見……あるいはまだ子どもであるため自分が守らなければならぬと思っていた九曜に倒され、《まがい物》の甲虫が再び泥沼の戦争を引き起こそうと暗躍している。自分が戦いの先に勝ち取ろうとしていた平和はそこにはなく、くすぶったままの戦いの火種の匂いを感じながら、身の置き方に悩む井筒の人間くささも魅力的に映ります。そして、難しいことを考え、立ち止まったままよりも、自分らしく戦いの場に赴くことを決断し、彼らしい価値観で義を通そうとする復活のシーンから、無数の量産型甲虫を相手に大火力で大立ち回りする一騎当千の活躍のシーンまでの熱さはさすが。全身武器庫の最大級の鬼虫《蜈蚣》かっけえです。副脳の人格(?)もまた、なんとも愛嬌があるというか、この本体にしてこの相棒ありという雰囲気で良いパートナーだと思わされます。

一方、五番式・万字の意志を継いだかのような甲虫を操る久留守の、約束に縛られた姿は逆に痛々しいですね。てっきり、装備や能力が似通っているから、巴のように姿形が変わっているだけかと思ったら、こう来ましたか。戦争で、戦火に巻かれようとしていた小さな命を確かに救ったはずなのに、巡り巡ってその彼女自身が、再び戦争に荷担しようというのはなんという皮肉でしょうか。万字の不器用な優しさが、良かれと思って交わした約束が、こうまで彼女を歪に縛り付けることになろうとは……。九曜が彼女に感じた親近感は、そんな戦争の犠牲者が、兵器に身をやつしてしまったということに加え、自分のように変わることができるのだという希望が込められていると思いたいものですね。

登場人物が一気に増えながら、物語は加速していきます。前巻の手痛い敗北を挽回するような勝利がようやく掴め、読者としても溜飲を下げたといったところでしょうか。強敵・甲虫はもはや単なる鬼虫の劣化品ではなく、彼らを越え、新たな最強を生み出そうという技術者たちの執念の産物だということも分かります。その背後にある、彼我の人間関係の深さも明かされ、苛烈を極めていく鬼虫と甲虫の戦いの行方はまだ分かりません。鬼虫でありながら甲虫の側に付いている《蟋蟀》と《蟻》の思惑もあるし、最強たる竜胆と黒塚部隊隊長・虎杖の思わぬ関係もまたこの先の戦いに不安を添えます。

《蜂》を奪還し、新たな力を使いこなせるまでにレベルアップした九曜の強さは心強いものの、敵の闇はまだ底を見せていない様子。物語自体はどんどん終局へ向かっている感はありますが、多くの敵味方が入り乱れるこの作品、いったいどんな終着点を用意しているのでしょうかね。この熱さを維持したまま駆け抜けていってほしいものです。

hReview by ゆーいち , 2013/06/15

エスケヱプ・スピヰド 四

エスケヱプ・スピヰド 四 (電撃文庫)
九岡望 吟
アスキー・メディアワークス 2013-06-07

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