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文倉 十 Tag Archive
狼と香辛料〈11〉Side Colors2
ご決断ください。このまま毟られ、盗られ、足蹴にされ、泥にまみれたまま生きていくのか、さもなくば自らの力で立ち、歩いて進んでいくのか。
短編集第2弾。このタイミングで出すことに意義があるようなエピソードも収録。欲をいえば9巻の後にこの話が来てた方がすっきりするのかも。
ホロとロレンスのいちゃいちゃっぷりをこれでもかと見せつけるふたつの短編『狼と黄金色の約束』『狼と若草色の寄り道』は、もうお腹いっぱいになりそうな感じ。お邪魔虫がいない道中はこんな感じでいちゃいちゃしやがっていたのか、このふたりは! 本編でやられると歯の浮くような展開も、こういう短編ならばこそ許せようというもの、というか、相も変わらずキャッキャウフフするようなこのふたりに付ける薬はないものか?
まぁ、そんな甘ったるいエピソードの後にはエーブがエーブとなったエピソード『黒狼の揺り籠』が来るわけですが。
いやぁ、このエピソードはスゴい。久々にこの作品が商人やそれにまつわる駆け引きを描く物語だということを、本編のロレンスの物語以上に突きつけてくれますね。没落し、商人として野に下った少女・フルールが、いかにしてエーブと名を変え、狼の風格すら漂わせるやり手の商人として成り上がっていったのか、そんな彼女の始まりの物語でもありますね。
商人として生きるには甘すぎる貴族的な考えやひとの好さは、海千山千の商人たちにとってはどれだけ食い物にされ得るのか、それに気付いたときにはもはや手遅れで。それは、彼女自身の純粋な気持ちさえも金銭として扱われ、それ以外には価値などないといわんばかりの手痛い裏切りによって彼女の一番深いところに刻み込まれたかのよう。他人を欺き、自分を偽り、そしてときには自らの手を汚してでも金を稼ぐという因業を背負う商人という生き物になるということは、修羅道と等価なのだなと背筋を寒くさせられるような物語でしたね。
このエピソードのどれだけ後に、彼女がロレンスと出会ったかというのははっきりとは描かれてませんが、その変わりようだとか、彼女がひとりでいるということに、少なくない時間の流れを否応なしに実感させられてしまいますね。こんな過酷な経験の上に、あのときの彼女が成り立っているのだとしたら、ロレンスが翻弄されるのもむべなるかな。ひとかどの商人として名を上げるには、あまりに高い壁がそこにあるのではないかと思わされますね。
果たしてロレンスは自分の夢を叶えるために、かつてのフルールのような決断を迫られたときに、どういう選択をするのか、それをほのめかしているかのようですね。まぁ、彼の隣にはホロがいる、それもまた確信的に思えたりするので、そこに彼女の絶望とは違う希望を見いだせると信じたいところですが。
hReview by ゆーいち , 2009/06/06
- 狼と香辛料〈11〉Side Colors2 (電撃文庫)
- 支倉 凍砂
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狼と香辛料〈10〉
たまには嫌われておかんとの。ぬしに飽きられるほうが辛いでありんす。
『狼の骨』の情報をたぐり、ロレンスたちは海を渡り島国ウィンフィール王国を訪れた。そこにある聖ブロンデル修道院は現在、経済的危機に瀕し、さらにその所有する広大な土地を世界最強とも名高い経済同盟・ルウィック同盟に狙われているという。修道院へ近づくためにロレンスは伝手を頼りに同盟の一員であるピアスキーに協力を求めるが……。
ケルーベで長いこと続いたような争乱のお次は、海を渡り雪に閉ざされたかのような島国を舞台にロレンスが頑張りを見せてくれました。なんだか、ここしばらくのエピソードでは大きなうねりの中、流されるまま、あるいは溺れないようになんとか足掻いていたようなロレンスでしたが、今回は彼自身がこれまで身につけてきた地力を発揮する場面だったように思いますね。
『狼の骨』を求めて旅をして、その確信に近づこうとしたときに出会った羊飼いの老人・ハスキンズの正体には驚かされたりしましたが、彼が最後にロレンスに告げた言葉の意味は、これからのお話で明かされることになるんでしょうね。あえてホロに告げず、彼女と旅を続けてきた希有な人間であるロレンスに託した言葉が、ヨイツへの旅路へのどんな指針となるのやら?
そしてホロにとってもロレンスはもはや彼女が助けてやらなければならないような相方ではなくなりつつあるんだろうなあ。今回みたいに、ホロが思いっきり弱みを見せたりしたシーンなんて少ないように思うし、彼女のロレンスへの信頼がいたるところで感じられてなんともニヤニヤ。バカップルぷりは一段落したように見えますが、ふたりの関係はどんどん深まっていってるんでしょうね。それでも、まだヨイツを目指すというその目的にこだわって、その先を考えようとしないあたり不器用というかなんというか。
ひたすらにただ一つの故郷を求めるホロの旅はそろそろ終わりですね。今回のハスキンズが語ったように、あるいはピアスキーの生き方そのもののように、誰かにとっての第二第三の故郷を作るということが、あるいは救いになるかもしれないという、事実と可能性の提示。それは、ホロが求めるヨイツの地が、もはや存在しない、そんな事態が仮に明らかになった場合に示される新しい選択肢なのかもしれないですね。賢狼と人間、生きる世界が違いながらも、それでも共に生きようとする意志があれば、きっとそれは彼女に新しい形の故郷の姿を見せてくれるんじゃないかと思います。
hReview by ゆーいち , 2009/02/21
- 狼と香辛料〈10〉 (電撃文庫)
- 支倉 凍砂
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プリンセス・ビター・マイ・スウィート
女の子はスフィンクスなんです。謎かけに答えられなかった人を食べてしまうんです。むしゃむしゃ。
理由の分からない家出を繰り返し、クラスメイトから「魔性の女」と称される畠山チャチャ。そんな彼女と小学校からの付き合いである晴之は、彼女に惹かれつつも、その関係を踏み出せないでいた。しかし、ある日、晴之はチャチャの秘密を知ってしまい、その結果チャチャは晴之の前から姿を消してしまう。「首もぎ」連続殺人事件が巻き起こる京都の町の中、晴之はチャチャの捜索に向かうのだが……。
前巻がきれいに完結していたので、どんな風に繋ぐのかと思っていたら、登場人物総取っ替えできましたか。物語の主題である、タマシイビトとイケニエビトと、それに関わった人間たちを交え、ホラーテイストながらも、その中で描かれる恋と、その切ない結末はこのお話でも健在。決してハッピーエンドじゃないけれど、未来に繋がる道はしっかりと示されて、登場人物たちの意思によって、いくらでも幸福はたぐり寄せられるんだという、そんな強さも感じられました。
今回物語の中心にいる、チャチャと晴之の関係は、何についても一枚上手のチャチャに、晴之がからかわれたりする、そんな関係で。けれど、好きな子には意地悪したくなるという、お約束を実行しているチャチャの、それを感じさせない小悪魔的な言動や、それとは逆に心の中でこれでもかと語られる、晴之への恋ごころの対比がなんとも素敵で可愛いじゃないですか。
弟くんの満泰はチャチャの良いおもちゃ扱いで、ともすれば他者がドン引くくらいにいじられてるのに、彼からしてみれば姉なのに守らなければならないなんていう、妙な義務感を抱いて、チャチャを思っているのが微笑ましいですね。なんか、ふたりの関係も姉弟というよりも、満泰がチャチャに淡い憧れを抱いているような感じがして、その微妙さもまた良い味付けでしょうか。ラストのアレにドギマギする満泰の反応を見ると、今後はチャチャを巡った三角関係がどこかで生まれたり……みたいな気がしないでもないですね。
タマシイビトとイケニエビトの関係も、仮説的な設定のお披露目がありましたが、この辺はぼかしておいても良かったのかなあ。ただ、前巻では、イケニエビトはタマシイビトに狩られるだけの悲しい存在という印象だったのに対し、今回の物語で、タマシイビトにもタマシイビトなりの悲劇があるということも知らされました。そこに、そのどちらでもない人間が絡んでくるからこそ、このお話みたいな避けられない悲劇的別れが生まれてしまうのかなあと。なんとも因果な組み合わせですこと。
前巻の登場人物たちもゲスト出演的に顔を出してきてるけれど、このお話が続くようだと、こういう人物の繋がりがどんどん広がっていくのかな。今回も、また別れは悲しいものだったけれど、こういう繋がりが生まれていけば、どこかで誰かが救われる、そんなハッピーエンドが生まれるかもしれない、そんな風にも思えますね。
hReview by ゆーいち , 2009/01/11
- プリンセス・ビター・マイ・スウィート (MF文庫J)
- 森田 季節
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ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート
十月二十七日土曜日、その日僕は烏子をギターケースに詰めた。
「僕、女の子を殺したんだ」顔も思い出せないような、そんな薄い繋がりしかなかったかつてのクラスメイト・神野真国からの電話を受けた左女牛明海は、その言葉を素直に信じることができた。だって、自分のかつて女の子を殺していたから。ひとの記憶を食べるタマシイビトと、その餌になるために殺され続けるイケニエビト。ふたりの前に現れたイケニエビトの少女、彼女との思い出を守るために、彼女を忘れないために、彼らが講じたタマシイビトと戦う方法は……。
表紙絵見て、音楽ものかあ、と思っていたら、その実結構ホラー風味な物語だったわけで。や、確かに音楽を通じて真国や明海、そして烏子=実祈は世界と繋がっていたんですが。
ふたりが過去に殺めたという少女は、怪談の中にひっそりと語られるイケニエビトで、タマシイビに殺されるたびに記憶を食われ、別の人間として生きてく。タマシイビトに殺されると、その存在はあらゆる記録から失われ、ただ一つ、誰か人間の手によって殺されることでのみ、記憶の中に残ることができる。殺され続けてきた彼女が、ただ親しくなった人との記憶を奪われないために採る方法は、彼らの手によって死ぬこと。そんな悲劇的な選択を良しとせず、最期の最期まで抗い続けて、報われなくてもまた繰り返して。
少しずつ明かされていく、失われたはずの過去の出来事。その中で真国や明海と繋がることができた実祈が、タマシイビトと戦うために選んだのは歌うというおよそ「戦い」とは縁遠い手段。彼女が歌に込めた思いや、歌詞を思うと、絶望の中でも希望を捨てたくない、そんな切実な願いを感じられたような……。
ラストはこれまたちょっと切ない系で、ハッピーエンドではないのですが、決して未来に対して諦めを抱かせない、そんな終わり方。また数年という時間が流れ、彼らが再会したときにこそ、ベネズエラ・ビターの歌が、どこかの街で流れる、そんな未来図を思い描いたりするのです。
hReview by ゆーいち , 2008/10/11
- ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート (MF文庫 J も 2-1)
- 森田 季節
- メディアファクトリー 2008-09
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狼と香辛料〈9〉 対立の町・下
ぬしは口だけの雄ではありんせん、とわっちに言わせてくりゃれ?
『狼の骨』の情報を求め訪れたケルーベの町はにわかに騒がしくなった。陸揚げされた伝説の海獣・イッカクは、南北の対立の構図を大きく書き換えるだけの価値を秘めているためだ。その利益を独占しようと目論むエーブに商会を裏切るという提案を受けるロレンス。そして商会の幹部・キーマンはそんなロレンスをエーブとの交渉の仲介人として利用するために協力を要請してきて……。
大きな商戦に初めて臨むロレンス。その場を仕切る格上の商人たちにとっては、ロレンスも駒の一つでしかなくて。そんなことを自覚し、荷が重いと尻尾を巻いて逃げ出そうとするロレンスの、尻を蹴るのはやっぱりホロ。辛辣に、挑発的に、馬鹿にするようにロレンスをけしかけるけど、それはホロなりのロレンスへの期待の表れの裏返しだったりと。相変わらず、本音を言葉にしないで、言葉の裏に気持ちを潜ませ大人の会話をするけど、その様がどんどん円熟した感じなっていってるのは、もはや気持ちの中では完全に夫婦だよなあ、と。
様々な商人たちが、利益を得るためにしのぎを削る巨大な戦場。キーマンとエーブという、ロレンスにとっては敵うべくもない商才のふたりに対し、ロレンスなりの意地でもって一矢報いようとしたところで、キーマンらの目論見を覆す展開が待っていて、というのは、久方ぶりに熱い展開ですね。真意を悟らせないのが商人のスキルならば、それを誰よりも発揮したレイノルズは、負け組臭漂わせていたあの姿さえ、すべてを欺くためだった? いやはや、誰も彼も一筋縄では行きませんな。そんなレイノルズのトリックを明かし、一気に逆転に持っていった終盤の流れは燃える燃える。久方ぶりに商人としてのロレンスの活躍が見られたかも。
そして、エピローグのシーンは、なんともにやけてしまう美味しいシーンですね。エーブの行動に対して取ったロレンスのささやかな抵抗。それが誰に対してか、なんてのは言うまでもないけど、その後の語りたくもないというホロとのやりとりは、想像するだけでにやにやしてしまいますねえ。間に挟まれたコルには、まだ早い大人の修羅場が展開されたのか、それとも、甘い甘い言葉でご機嫌と取ったのか、どっちに行ってもロレンスはご愁傷さまといたところでしょうか。
さて、ようやく次の舞台が見えてきましたが、今度は海を渡る? まだまだロレンスたちの旅路は続くようですね。
hReview by ゆーいち , 2008/09/07
- 狼と香辛料 9 (9) (電撃文庫 は 8-9)
- 支倉 凍砂
- アスキー・メディアワークス 2008-09-10
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