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杉井光 Tag Archive

剣の女王と烙印の仔〈3〉

stars ぼくはもう、おまえの檻なんかじゃない。ミネルヴァのために、這いずり回ってでも生き延びて、戦う。そう決めた。いつかおまえを捕らえて、つなぎとめてやる。おなえなんかに喰われるものか。ぼくは――。

剣の女王と烙印の仔〈3〉

命運を喰らう《獣の烙印》を持つ少年クリスと、予知能力を持つミネルヴァ。彼らが身を置く銀卵騎士団は、遠征軍と将軍デュロニウス軍とに挟まれて窮地に陥っていた。そんな中、デュロニウスは「クリスを差し出せば攻撃はしない」と脅しをかけてくる。仲間を守るため、クリスは捨て身の作戦を考えた。それは、《獣の烙印》の力が最も活性化する新月の夜に投降し、冥王の力でデュロニウスを倒すという、危険な賭けだった。

――ぼくはもう、ひとりじゃない。

プリンキノポリ奪還に成功したのもつかの間、聖王国軍の圧倒的へ威力に取り囲まれ逃げ場のない銀卵騎士団。聖王国軍を指揮するデュロニウスの暴虐に対して、フランチェスカが取った起死回生の一手は、まさに薄氷を渡るかのような危険きわまりないもので。

いやぁ、これまでの巻にも増して、クリスの追い詰められっぷりが半端ないものになってきた第3巻。敵対するデュロニウスは実の父親で、けれど自らの野望のためには血のつながりなどあっさりと切り捨てるような冷酷さと非情さを併せ持つ男。その危険な意志と策は、銀卵騎士団へ向かうのではなく、むしろ弱き市井のひとびとへと向けられ、味方から生け贄を差し出させるかのようないやらしい悪意に満ちたもので何とも非道。

自分の身を危険にさらし、それでも皆を守ろうとするクリスの思いさえも蹂躙するデュロニウスの烙印の力。呪われた力を宿すものたちの殺し合いを繰り返すたび、クリスが敵を手にかけるたび、彼の身に宿っている獣の力が増し、守ろうとしているはずの周囲の皆の命さえも脅かそうとするのは皮肉ですね。クリス自身が、自分の命の価値に重きを置かないのも、そんな穢らわしい力を忌避しているからのようだけれど、今回の戦いを通じて、そしてミネルヴァたちとの出会いと、何よりも同じ境遇にあるけれど正反対の生き方をしているジュリオとの出会いが彼の中で何かを変えていったかのよう。

もう、望んで死へと向かい、死に損なうことに絶望し、自分の心を壊していく彼の姿はなくて、生きるために、守るために、自らの身に巣くう獣さえも飼い慣らし力とし、戦うことを選ぶ決意を果たしたことで、彼の成長がはっきりと実感できましたね。浅からぬ因縁を持っていたデュロニウスとの決着は思ったよりもあっさりしたものですが、そこに至るまでのクリスのいじめられっぷりが悲惨で悲惨で、あの逆転を手放しで喜んでいいものやら……?

悲壮な覚悟といえば、フランチェスカが今回行った作戦もまた多大な犠牲の上に成り立つ逆転の手。誰かにその罪を告白して心を安らげることなど決して赦されないと、何よりも自らに課しているフランチェスカ。その心を汲み、同じように自分の甘さを殺し、ただ目的のために指揮を執るパオラもまた、同様の覚悟をもう一度刻み込んだかのようですね。フランチェスカが掲げる大目標のため、駒となることを厭わない騎士団の面々の覚悟もまたなまなかなものではないと思い知らされる戦いでしたね。

そんな覚悟が皆を変えていったエピソード。エピローグではミネルヴァたちの師・カーラがついに登場。自分が戦いを楽しむためにミネルヴァたちを敵対するように育て上げたという享楽主義者にして圧倒的な実力者。彼女の登場でまたパワーバランスが危ういものになりそうですが、戦場での師弟の再会が果たしてどのようなものになるのか、期待して待ちたいと思います。

hReview by ゆーいち , 2009/11/15

剣の女王と烙印の仔III
剣の女王と烙印の仔III (MF文庫J)
杉井 光
メディアファクトリー 2009-10-21

神様のメモ帳〈4〉

stars それは、なくなったりしない。ただ、人は道に迷うだけなのだ。そう信じたい。だから僕らは盃をぶつけ合い、のろしをあげる。戦いのはじまりを告げるためのものではなく――ただ、彼方のあの人に、この場所を見つけてもらうために。

四代目が手がける音楽イベントに、スタッフとして関わることになったナルミ。しかし、その運営に付きまとう黒い影があった。次々に仕掛けられる妨害工作。それを指示していたのは、かつて四代目とともに平坂組を作り上げた男・平坂錬次だった。ふたりの間に横たわる因縁。しかし、四代目は黙して語らず、自らの手で錬次との決着を付けようとするのだが……。

いやぁ、続刊が出て本当に良かった!

前巻から1年余、3巻でも物語は良い感じにまとまってはいましたが、今回はこう来たかという展開で、これまた満足度の高い物語でした。

平坂組の四代目こと雛村壮一郎。彼とともに平坂組を作り上げた男・平坂錬次の登場で、一気にきな臭さを増すナルミの周囲。

そして、四代目に見込まれ、彼のビジネスの手伝いをさせられるニート候補生・ナルミの隠された才能が一気に開花する……。というか、その才能をかぎつけ仕事を振った四代目もそうだけれど、十分以上に応えるナルミのポテンシャルもすごい。というか、アリスの周辺のニートたちは誰も彼も一芸に特化された連中なので、その輪の中に居るナルミもまた、ニートたる素質十分てことなのか。ともあれ、不確定だったナルミの未来予想図にぼんやりとした青写真も描かれたような描かれなかったような。

今回は、四代目の過去を巡る物語。四代目にとって、それは決して忘れることなどできない、そして決して誰に語ることもなかったであろう彼と、彼の大切だったひとたちとの思い出。望まぬ決別と、予想だにしなかった再会。かつての繋がりなどなかったかのように振る舞う錬次と、四代目の、今にも途切れそうなその繋がりを再び結びつけるためにナルミが奮闘して。

こうしてみると、ナルミの才能っていうのは対人交渉に秀でてる印象かなあ。誰かと誰かを繋げる、その間に立ち新しい結びつきを生み出すきっかけとなる。偶然の出会いを必然に変えて、二度とないであろう機を逃さずに立ち回るという、彼にとって不本意で、そして周囲にとってははた迷惑な行動が、けれど結果として良い方向に転がるというのは、ナルミの決意と、それを後押ししようとするひとたちの、これもまた繋がりから生み出される力なんでしょうね。

そんなナルミと労使関係というなんともドライな繋がりのはずのアリスもまた、ナルミなしでは満足に生活もできないくらいに依存してる感じ。男女の機微だとかにまったく無頓着なアリスの、無自覚な行動をさりげなくたしなめる彩夏の複雑な心情だとか、自分の行動がどんな意味を持つのかを気付かされて赤面して逆ギレするアリスの様子だとか、ナルミを巡る女の子の気持ちもまた揺れに揺れて答えを求めてるような。ヘタれな主人公がそんな気持ちに応えられるかどうかはなかなか難しいところでしょうが、どちらも大切にしたいなんて生温いことを考えてそうな彼のこと、そのときが来たらどこまでも沈み込んで悩み抜くこと請け合いですね。

微妙にペースを乱されっぱなしだったアリスが、ようやく依頼された四代目からの仕事によって探り当てた真実は、これまたこの物語らしい、真実に気付けなかったすれ違いゆえのやるせないもので。そこに男女間の愛情があり、そして男同士の友情があったからこそ、あのとき交わせなかった言葉があり、伝えられなかった気持ちがある。自らに課した禁を犯してまでもその過去を暴き、告げたアリスもまた、死者の言葉を継げるよりも生者の言葉によって、お互いの繋がりを取り戻すことを望んだからこその行動だったと思えます。

後味の悪い真相と、苦い結末が多かったこのシリーズですが、今回は大団円といっても良かったようなラスト。過去の出来事は消せないし、過ちは償うしかないけれど、生きていれば失ったものは取り戻すことができる、絆は消えることはない。今回、ナルミが東奔西走してまで懸命に結ぼうとしたそれは、きっと、彼にとっても、四代目にとっても、錬次にとっても、アリスにとっても、また、忘れることのない過去の一つとなるのでしょうか。

作中に登場したバンドの素性を想像してニヤリとしたりと、他の作品を読んでいる読者へのサービスも含めて、とても満足した物語でした。

hReview by ゆーいち , 2009/08/12

神様のメモ帳〈4〉
神様のメモ帳〈4〉 (電撃文庫)
杉井 光
アスキーメディアワークス 2009-07-10
Amazon | bk1

剣の女王と烙印の仔〈2〉

stars 命運がなんだ。神々なんて勝手に喰らい合って勝手に滅びろ。わたしもシルヴィアも、クリスも、そんなものに踏みつけられるために生まれてきたわけじゃない。

ミネルヴァの妹にして託宣女王であるシルヴィアのもとに守護騎士としてジュリオという少年が遣わされる。孤立したままのシルヴィアの心を、誠実な騎士たらんとするジュリオの言葉が少しずつ溶かしていく。一方、銀卵騎士団を率いるフランチェスカは大教会奪還のため、少数による出陣を決断する。しかし、迫る戦いの緊張の中、クリスに刻まれた刻印は新月を待たず牙を剥く。クリスの耳に届く声、そして、彼が持つ刻印に宿る何かの正体とは……?

なんだかスゴい勢いで風呂敷が広げられたかと思ったら、一気に畳まれそうな雰囲気?

クリスの出生の秘密だとか、彼が持つしるしの意味だとかが明かされて、明確に打倒すべき対象も見え、いきなり決戦とかそんな展開。

クリスにしろ、ミネルヴァにしろ、シルヴィアにしろ、彼らに与えられた力は、彼らが望んで手に入れたものではなく、むしろ、その力のせいで彼らは平穏という、今や望んでも決して手に入れられないものを代償として差しだしてしまったかのようです。そして、彼らに力を与えるという神々は、しかし、人間たちの、聖王国の上位にあるこれまた力を授かった者たちからすれば、自らを脅威にさらす存在として認識されている始末。そんな道具として扱われる運命を強制されてしまった彼らの運命は、その運命を喰らうクリスの刻印の力によって大きな交わりを迎えようとしているようです。

ミネルヴァを支えるのがクリスならば、対照的に登場したシルヴィアの守護騎士となったジュリオ。シルヴィアに対するこの上ない忠誠心によって、クリス打倒を決心した彼の変心は未だ成されず、その運命に抗う術は未だ見えず。クリスのような刻印の力を持たず、ただひとりきりのシルヴィアを救おうとするジュリオの運命もまた、今回の戦いとクリスとの邂逅によってどう歪んでいくのでしょうか? ミネルヴァとシルヴィアに託宣される自らの死の悪夢、ふたりが殺害されるという呪わしい未来を変えられるのか、それはこの世界に根付いている大きなシステムの打倒に繋がるわけですが、その大きな歴史のうねりをクリスは、ミネルヴァは、そして窮地に晒されているフランチェスカは起こすことができるのでしょうか?

終盤、その才によって奇跡的ともいえる大勝利を収めたかと思ったら、その余韻さめやらぬままに訪れるさらなる危機。自らの内に抱える獣の声に怯えながらも、支え、支えてくれるパートナーたるミネルヴァとともに生きる覚悟を決めたクリス。その意志がこれまでのように獣を御し、そしてこれからのためにその力を振るう強き手綱となれば、そこに得るべき未来があるのではないかと思います。

割と容赦ない展開のはずなんですが、そこまで悲壮感がないのが奇妙な感じですね。杉井光フォーマットなキャラ配置とかでラブ分とかを適度に投入してるから、鬱方面に突っ走らないで済んでいるのかも? まぁ、素直になれないミネルヴァは分かりやすくて可愛いわけですが。もっと赤面させてくれ!

hReview by ゆーいち , 2009/07/26

剣の女王と烙印の仔 2
剣の女王と烙印の仔 2 (MF文庫 J す 3-2)
杉井 光
メディアファクトリー 2009-07
Amazon | bk1

剣の女王と烙印の仔〈1〉

stars ぼくは奴隷なんだろ。ミネルヴァのものなんだ。逃げるわけない。この先ずっと――その死を、喰らってやる。

周囲の人間の命運を喰らう《獣の烙印》をその身に宿した少年クリス。敵以上に味方にこそ、その存在を恐れられる彼は、その素性を隠しつつ傭兵として戦場を放浪していた。そして、クリスは少女と出逢う。戦場に似つかわしくない白い衣を纏い、身の丈ほどもある大剣を携えたミネルヴァという名の死神。未来を見ることのできる彼女に、死を与えるはずだったクリス。しかし、ふたりの運命はクリスの持つ烙印によりねじ曲げられ、さらなる過酷な試練へと導かれて行く。

逃れられない運命に、使命に、主人公たちが翻弄されるお話、再び。

いやぁ、こういう黒い方向での杉井作品が読めるのは嬉しいですね。『火目の巫女』や『死図眼のイタカ』に比べればまだまだ温い部分があるので割とダークな方向にやや振れたといった印象ではありますが、MF文庫Jというレーベルのイメージからすると、これはかなりシリアス寄りなシリーズになるんじゃないかという予感です。

それでも、主人公クリスや、彼との出会いによって運命を変えられ、成りゆきのままに彼を従えることになってしまったミネルヴァたちが属する銀卵騎士団の面々には、重苦しい雰囲気が漂う世界の中でも明るさや余裕、そして騎士団という言葉よりは家族に近い感じの温もりがありますね。その辺は団長であるフランチェスカ嬢の人徳とか、その破天荒な言動ゆえのフリーダムさに救われてる部分も多いんでしょうね。キャラの性格付けやら配置やらも他の杉井作品と似たり寄ったりな感じで、代わり映えがないような、あるいはその関係が把握しやすくて助かるのやら。

クリスの背負う業もそうですが、同様にミネルヴァに課せられた使命も同じように彼女自身の運命を蝕んでますね。ミネルヴァの場合は、彼女と半身のような妹のシルヴィアという存在もその小さな肩にのしかかっているわけで。死という未来を痛みにより知る代償として、彼女自身の心と魂に刻まれてきた傷の数々が、運命をねじ曲げる烙印の仔であるクリスと出逢ったことにより、癒やされるのか、はたまた新たな傷を生み出す刃となるのか、それはこれからも展開にかかっているのでしょう。

幸福を喰らうという烙印の性質からすれば、未来において誰もが幸せな結末を得るというのは叶わないかもしれないですが、すでに死という結果的には不幸と取れそうなミネルヴァの運命が変わっているだけに、救いのある未来を望んでみても悪くないのかなとも思います。

幸せを喰らう獣と、命を削られる痛みに苛まれる少女を世界はどう導くのか。廻り続ける巨大な運命の歯車は、今以上の過酷さでもってふたりを巻き込んでいきそうですが、それに抗うと決めたふたりの意志と、結ばれた絆の強さは信じられるものであると思います。

hReview by ゆーいち , 2009/05/09

剣の女王と烙印の仔〈1〉
剣の女王と烙印の仔〈1〉 (MF文庫J)
杉井 光
メディアファクトリー 2009-04
Amazon | bk1

さくらファミリア! 〈3〉

stars どっちが強いかなんて問題じゃない。ぼくが今ここで行使するのは、神が使ったのと同じ――契約の力だ。

罪を負い連れ去られたガブリエルを助けるために、祐太たちは天界を目指す。そんな祐太たちの行く手を阻むのは、煩悩まみれの悪魔だったり天使だったり。そして、暗躍する第三使徒の目的とは? 果たして祐太はガブリエルを救い、家族の絆を取り戻すことができるのか……?

杉井光の手による聖書を題材にした斜め上過ぎる新解釈によるお話も一段落。話のスケールは天界も地獄も巻き込んで、ひたすらでかくなるばかりだったくせに、終わってみるとセクハラな部分しか残ってないというのはある意味スゴいのかもしれません(笑)

徹頭徹尾シリアス分が希釈され尽くしていて、まじめなシーンがそれこそ1ページも持たないような頭のユルいストーリーは、ホント気楽に読めてしまいますねえ。

そして、話のオチの付け方も、非常にこの作品らしいというかなんというか。ひたすらツッコミ役で苦労していた祐太自身の活躍も大したものなのに、進退窮まった状況でふとひらめいた一発逆転の秘策が何ともはやいろいろな意味で終わっているのが……。

ともあれ、ラブ方面の決着としては、エリとレマのどちらの想いも受け止めてみせて、杉井作品の主人公としては潔いというか上手くやりやがったな的な感じで満足満足。本巻はレマの見せ場も多くてニヤニヤしつつ、このラストは好きですねえ。

個人的希望としては、再びひとつに戻った家族たちのタダレた性活な続編を見てみたくもあり、もうそうなったら美少女文庫行きだったりしますなあとか思いつつ、このハーレムな毎日の不滅さに万歳してみたりもするのです。

hReview by ゆーいち , 2009/03/13

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