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されど罪人は竜と踊る〈8〉~Nowhere Here~
あたしはガユスが好き。愚かで弱くて嘘つきでも、ううん。だからこそあなたが好き。愚かさも弱さも嘘も、あなたの優しさで長所だから。あなたが他の女の人を好きでも、あたしはガユスを愛している。
記憶を失くしたアナピヤの故郷へと向かうガユスたち。最後にたどり着いたのは死の都と化したメトレーヤだった。激化するアナピヤを巡る攻防。彼らを追跡し、アナピヤを狙う咒式士たちに、武装査問官、強大な長命竜・ムブロフスカも加わり、事態は混迷と絶望の色を濃くしてゆく。悲劇は繰り返されるのか、再び訪れるその瞬間を目の前に、ガユスの、アナピヤの選択は……?
シリーズ中、最悪のエピソードであるアナピヤ編後編。やっぱりそこに救いは一片たりともありませんでしたとさ。
大賢者・ヨーカーンの言葉は正しくて、この悲劇の物語の舞台に立たされた演者たちは、抗いながらも定められた結末へ向かって、転げ落ちるように突き進んでいくわけで。繰り返される悲劇、それにいつか救いがもたらされるなんて甘っちょろい幻想は、この世界には入り込む隙間などないようですね……。
ということで、スニーカー文庫版でも読者の多くを絶望のどん底にたたき落とした物語、ガガガ文庫版では嫌な意味でパワーアップしておりました。もともと、再読する気がなかなか起きないエピソードではありましたが、これは油断して読んだら再起不能級のトラウマを植え付けられるような危険な作品……っ。帯に書かれた注意書き、甘く見てると痛い目を見ますぜ?
なんというか、優しい物語に夢見たり、愛というものが幸せをもたらしてくれると夢想したり、そんな逃避も許さない嫌な意味での世界のリアルさを突きつけてくるんですよね。壊れた絆は戻らないし、愛が転じた憎しみは時間が忘れさせることなどないと言っているようだし、皆が幸せになるなんて結末はあり得ないと切り捨ててくるし。そんな中でも、生き残ったものはこれからも生きていかなければいけないし、死んだものは誰かの心の中で棘となって刺さり続け、血を流させ続けていくという。
今回、ガユスが失ったもの、命と引き替えにしたもの、それは大切に思っていた誰かの命だったりたくさんの時間を積み重ねてきた結果の愛だったり。築き上げてきた過去という時間の長さとは反対に一瞬にして永遠に失われてしまうもので、かつてはそこで断絶してしまった彼の物語が、ここから果たして、あるいはようやく進み始めることができるのか、ここから先はまったく道の領域へと踏み込むことになるのですね。
変えられなかった結末、けれど、もしかしたらこれから進むことになるかもしれない物語は、以前に用意されていた結末とは変わるのかもしれないという淡い希望。それは、ヨーカーンが告げた言葉通り、愛を捨てることで回避できる悲劇なのかもしれません。けれど、ガユスにとって、それができるかどうかはまだ未知数。愛し合っていて憎しみ合っているガユスとクエロのふたりの物語が果たしてどのような未来の果てにあるのか、今回のエピソードのような悲劇を繰り返さない何かが選択されることを願って止みません。
hReview by ゆーいち , 2009/11/07
- されど罪人は竜と踊る 8 (ガガガ文庫)
- 浅井 ラボ
- 小学館 2009-10-20
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されど罪人は竜と踊る〈7〉~Go to Kill the Love Story~
過去は分からない。変えられない。そしてたぶん償えない。誰も他人を許せないから。だけど、あなたはなりたい自分を選ぶことができる。許されずとも、許しを請うことだけはできる。守られ愛される少女になることも、他になにかになることもできる。
〈長命竜〉と咒式士たちに追われる謎の少女アナピヤを救ったガユスとギギナ。さらに咒式違反を追う武装査問官たちに狙われるなか、一行は少女の故郷を探す旅に出る。凶悪無比な賞金首の攻性咒式士たちとの追いつ追われつの逃避行は、謎が絡まりあい、辺境を焦土にする激闘へと発展していく。竜と咒式士に追われる、アナピヤに隠された秘密とは一体……?
前シリーズの最終地点ともいうべき物語がついに再演される!
あああああ……いよいよアナピヤ編が始まるのですね。そして、角川スニーカー版と、ガガガ文庫版の関係までもが物語の設定に組み込まれているとは。これ、ガガガ版から入ったひとには逆に分かりづらい気もするなあ。ヱヴァ劇場版がちょうどそんな感じがする構成だけれど、あちらがハッピーエンドに向けて展開しているのに対し、本作については誰が何をしようとも、大きな運命の流れを変えることなどできないという確定事項が、諦観にも似た賢者の語らいによって告げられるのですが。
……ということは、シリーズ史上最悪の展開といっても過言でもない、後半のエピソードも大枠は変わらないってことなのかな。愛されることを望んだ、身内のない純粋さを結晶化したようなアナピヤの身に起こる事態に、今から心が沈んでいくようです。
再読してみると、そんな後半へ向けた伏線がわりとはっきりと張られていますね。最初からベギンレイムの計画の実行と、その挫折を明言し、そして作中でガユスとギギナが出会うことになるアナピヤが、周囲の人間のある意味以上ともいえるような献身と愛情でもって生かされてきたこと、そして彼女がガユスの事務所に転がり込んできたあたりから広がっていく、彼とジヴの心の距離と亀裂。決定的な破局へ向かって転がり落ちていくふたりの関係は、本シリーズではウォルロットのエピソードが加えられたことで、さらに回避と修復が不可能になってしまったかのようですね。割れて欠けて、もはや戻らないかのようなふたりの心は、賢者の予言を覆し、再び距離を縮めることがあるのでしょうか?
バトル方面はまだまだ前哨戦の域を出ないですね。ギギナと同じドラッケンであるユラヴィカの脅威や、変態バモーゾ、謎に満ちたアインフュンフ、外道なメルツァール、そして未だ姿を見せない6人目の刺客。脅威自体はこれまでの古き巨人やら禍つ式、竜や翼将に比べて劣る印象ですが、逆にだからこそ、手段を選ばずどんなことをしても目的を果たすという、人間そのものの恐ろしさが牙を剥くことになるのでしょう。
痛いやらグロイやら救われないやらで鬱々真っ盛りな絶望の後編、繰り返される悲劇は回避できるのかできないのか。そこが最も気がかりなところですね。
hReview by ゆーいち , 2009/08/24
- されど罪人は竜と踊る 7 (ガガガ文庫)
- 浅井 ラボ
- 小学館 2009-08-18
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されど罪人は竜と踊る〈6〉~As Long As I Fall~
どれだけの血を流し、傷つこうと、俺は生きるしかない。安易な希望を拒否し、正しく絶望し、それでも前へ。
短編集の第2弾。雑誌掲載で文庫化されなかった未読の短編が4編もあるので、短編集とはいえ新鮮な気持ちで読めました。
全体的に救いのないエピソードが多いのはいつものことですが、それでもプロローグにあるガユスの独白をみると、打ちのめされていながらも、折れたままでいない、停滞して死ぬよりも苦しくてもとにかく歩き続けなければいけない、そんな前向きさの片鱗を感じ取れたり。
ガガガ版になって、致命的に彼の心を砕くあのエピソードがまだ発生してないというのが大きな原因なのかもしれないけれど、自棄になって朽ちていくのを待つだけだったかのような雰囲気が薄れているので思ったよりもすらすらと読めた感じですね。
まぁ、今後の長編の展開遺憾では、そんな甘ったれた気持ちなんてあっさりと泥にまみれて地に落ちてしまいそうな気もしますが、ここで描かれてる物語は、ガユスたちのあるいは平穏な日々の一こまの切り取りだったのかもしれないですね。
印象的なのは「雨にさらして」。意外な構成で終盤で種明かしされると驚きがありましたね。なんとなく、現在の業界の状況を皮肉ってる感じがしますが、それがまた浅井ラボらしい描写。ヒーローが大活躍して大団円を迎える物語も、学園で美少女に囲まれキャッキャウフフするお話も、あるいは現実と同じく甘さもユルさもない、厳しい物語だって、楽しめるひとは今は多いんじゃないのかなあ。
あと、黒ジヴは今回も猛威を振るってますね。これが輝かしい過去の記憶になるのか、これからも続いていく関係の途上にあるものなのか、はたしてどちらになるんでしょうか。
hReview by ゆーいち , 2009/04/25
- されど罪人は竜と踊る 6 (ガガガ文庫)
- 浅井 ラボ
- 小学館 2009-04-18
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されど罪人は竜と踊る〈5〉~Hard Days & Nights~
さあ、次の意地悪をしにいくよ。退屈な人々が作る退屈な世界を、楽しい世界に作りかえよう。楽しい悪戯をしにいこう。
見覚えのある短編集に書き下ろしを加えた新説短編集。『災厄の日々』のガガガ文庫版ですね。
黒ジヴの初降臨となる『禁じられた数字』は異色ながらも読んでて楽しい。当人たちはそれこそ命がけのゲームですが、真剣にゲームですべてをかけて望むとかどんだけデンジャラスな関係なんだお前らは。
それ以外のは書き下ろしの『幸運と不運と』を除けば、され竜らしい後味の悪い物語で、このエピソードを挟んで、次の長編に続いてくのだろうなと思うような伏線がちらほらと見え隠れしてますね。所々で顔を見せる、ガユスやギギナにちょっかいをかけてくるザッハドの使徒と、モルディーンがしかけてくる悪戯が良い感じに混じり合って、またしてもふたりはとんでもない事件に巻き込まれていきそうな雰囲気ですね。
で、もう一編の書き下ろし『刃の宿業』は、これ全編バトル描写溢れるギギナを中心にしたお話。ドラッケンの戦士としての彼の生き方、戦い方と、相容れずにそれでも相棒を続けるガユス。強さを求めるために師事した男との命の取り合いや、さらにはそれさえもさらに大きな陰謀によって手駒にされてしまう救いのなさと、短編ながらもされ竜エッセンスに満ちた作品でしたね。
ガユスを中心に物語を描いてきたこれまでのシリーズとはちょっと方向を変えてきてるのかな。逆にガユスの過去がまだはっきりと語られてないし、ジオルグ呪式士事務所時代のエピソードなども残されていることを考えると、そういった過去のエピソードを上手いこと長編の間に挟むことで、物語とキャラクターにさらなる深みを加えようとしているのでしょうか。
次巻も短編集ぽいですが、その次はいよいよ新長編ですね。文庫未収録の短編なども早めに陽の目を見ることを期待したいです。
hReview by ゆーいち , 2009/04/04
- されど罪人は竜と踊る 5 (ガガガ文庫)
- 浅井 ラボ
- 小学館 2009-02-19
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されど罪人は竜と踊る〈4〉~Soul Bet’s Gamblers~
世界があなたを奪ったのなら、私は世界を灰に変えてやる。
ジヴーニャはガユスの元を去った。ウォルロットに破れ、ジヴを奪われたガユスは失意のままエリダナを彷徨う。しかし、新たに現れた
半端ない分厚さと、どこまでもインフレする戦い、そして全てをひっくり返し、希望もなにもなくなるような真相、と非常にされ竜らしい展開の、前巻から続く〈古き巨人〉との闘争の完結編。
ガユスとギギナが巻き込まれたのは、〈古き巨人〉や勇者ウォルロットとの戦いのはずなのに、それが多国間に渡る巨大な陰謀の中心であり、そしてそれがまた、全く無関係に見えていた資産家ダリオネートのマネーゲームともリンクしているという、油断すると流れを見失いかねない激流ともいうべき怒濤の展開。
分厚さ以上に密度は濃いわ、ラボたんらしいグロ描写は健在だわ*1、なんかリアルでこんな状況にある国があるんじゃね? 的な経済の描写とか、とにかく見所が多くて一気に読んでしまいましたね。
ガユスにとってはエリダナや、街を含む国家の安定よりもジヴを失いかけたことの方が重大ごとで、嫉妬に燃えウォルロットと対峙したり、自分の力が彼に及ばないことを理解し、プライドを曲げてジヴを守るために共闘を選んだりと、随分と大人な対応をしてないですか? 前シリーズに比べてヘタレ度が増したかと思ったら、意外に真人間度も増しているような気がします。むしろ、今回のエピソードでは、ガユスを守るためとはいえ、ジヴの裏切りとも取れるようなウォルロットへの想いがあったわけで、逆にかわいそうとか思えてしまったり。この事件が、ふたりの間にしこりとなって、今後の関係に影響を与えていくのかな。
……にしても、〈古き巨人〉たちの戦いっぷりはスケールがでかすぎて訳が分からないですね。前巻でも大概にインフレしきったかと思ったら、そんなの序の口だったという。今後登場するかもしれない、さらに上位の存在たちに、まともに対抗できそうなキャラは、ホントに翼将くらいしかいないんじゃないかという気がして仕方がないですね。オキツグとかは短編で巨人族あっさりと屠っていたし、彼の実力は今回の敵との対峙でも見ることはできませんでしたが、器のでかさだけはひしひしと感じられましたね。
で、物語のオチがなんとも切ない。なんか、人生の落伍者の代表的なカスペルのあまりの救われなさと、その最期に憐れみの気持ちが……浮かばないな。そして、ダリオネートという男の真実にも驚かされ。国を傾けるほどの力を持つ金を操ったダリオネートすらも、さらに大きな世界という枠組みの中では、運命を動かすための歯車に過ぎなかったのではないかという戦慄と、全てを見通すかのようなモルディーンの慧眼。さらに物語に大きく絡んできそうなバッハルバ大光国光帝の存在。今後はさらに国家間の思惑にガユスたちが翻弄されていくのでしょうか? ガユスの持つ「宙界の瞳」も、本格的にその価値を発揮してきそうな予感。いったいどうなる?
hReview by ゆーいち , 2008/10/28
- されど罪人は竜と踊る 4 (ガガガ文庫 あ 2-4)
- 浅井 ラボ
- 小学館 2008-10-18
- でも旧シリーズのアレに比べればまだまだ……? [↩]
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