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円環少女〈10〉運命の螺旋
戦いが全部終わったら、何になってると思うかって、前にせんせは聞いてきたわよね。あたし、せんせの家族になってると思うわ。……離れてるかも、どっちかがいなくなってるかもしれない。けど、それでも、そのとき、こころはつながってるって思うの。
仁はメイゼルや鬼火衆の男たちと、束の間の平和な日常を過ごしていた。しかし、仁の前に現れた王子護が帯同してきた少女は、あろうことか死んだはずの仁の妹・舞花であった。そんなとき、来日した《連合》最高議会議長アリーセは、開催される会議の警備を仁に依頼し、そしてメイゼルへはかつて円環世界で起こった彼女の罪の証ともいえる事件を語ることを求める。罪人として地獄へと落とされる原因ともなった事件、それは円環世界最強の魔導師でもあったメイゼルの母・イリーズと彼女自身の物語を。
重い、重すぎるよっ。ついに明かされたメイゼルの罪の形。これまで散々もったいぶって語られてこなかった、メイゼルと彼女の母・イリーズが背負わされてしまった罪と罰のお話。そして、今や協会内部に巣くう九位と呼ばれる彼女との因縁のお話。いや、これだけのものを背負わされたら、メイゼルが刻印魔導師として戦うことにこだわる理由も多少なりとも理解できるよなあ。あれだけの戦いをその目で見、世界そのものを壊すような強大な魔導師を母に持ち、そして、結果としてもたらされた罰を一身に浴びながらも心を折らなかったメイゼル。怒号と熱狂と憎悪と怨嗟と罵詈の坩堝とも言うべきあの壇上で恍惚に身を震わせる幼い少女の姿をどう言い表せばいいのか。世界そのものを敵とした彼女に向けられたあらゆる感情を受け止め、愛をささやくような言葉で呪いをかける幼い魔女の姿にこそ、心が震えました。
けれど、それでも仁は、メイゼルが幸せになることこそが、彼女が救われる道であると信じて戦っているようで。これまでも辿ってきた平行線上に立ち続けるふたり。平穏な日々の中では、家族にどこまでも近づけるような関係を築き上げつつも、結局は戦いから逃れることなどできないふたり。望まなくても彼らの前に立つのは、円環世界の因縁に囚われ呪われた魔法使いたちで、そして生き残らなければどれだけ願おうとも救いなどそこにはないという文字通りの地獄での戦いはこれからも続いていくわけで。
変化していく魔法世界の魔法使いたちと、彼らが悪鬼と呼ぶ仁たち人間との関係。そこで生きるしかない仁やメイゼルは、どの位置に立ち、何ものとして彼らや世界そのものと向かい合っていくのでしょうか。
そして、いよいよきずなにも運命を別つ残酷な選択肢が突きつけられ、彼女もまたどうしようもない状況下でどうしようもない選択を下すことになりました。彼女が嫌い、遠ざけようとしていた、けれど離れることもできない仁と、ついには同じ立場にまで堕ちてしまったきずな。対等な立場で、涙を止めることも、優しい言葉で慰めることもできず、ただ厳しく冷徹に立ち上がり、生きろと告げる仁。大きな運命に囚われ、その歯車と化しつつある彼女は、魔法使いにとってこの上なく危険な存在となり、否応なしに狙われ、傷つき、その手を血で汚していきそうですね。
一方で、再び現れた舞花の存在も、これからどんな風に影響を及ぼすのか想像が付きませんね。汚れながらも生きていこうとする仁たちの戦いは、大きな変化を受けながら、これからも続いていくのですね。
hReview by ゆーいち , 2009/08/23
- 円環少女 10 運命の螺旋 (角川スニーカー文庫)
- 長谷 敏司
- 角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-07-01
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ダンタリアンの書架〈3〉
禁忌の知識を書き記した幻書はこの世に在らざるべき存在だ。幻書を見守る読姫と、鍵守も。それら全てを焼き尽くすために焚書官は存在する。
いつになく荒れるダリアンの理由は、読み終えたばかりの流行小説の最終刊となるはずの第3巻が存在しないがゆえだった。作者の死亡により物語の結末を見ることは叶わない。しかし、そんなヒューイの元に、件の作者、レニー・レンツから助力を求める手紙が届いて……。そして、幻書にまつわる物語は、鍵守と読姫を焚書官へと巡り合わせる。
ダリアンがどんどんと幼年化していっているような!? いや、かわいいんですけどね。
今回はかなり軽いテイストのお話が含まれていたりして、重苦しい印象はどこかへ飛んでしまったかのような。いや、最初のエピソード「換魂の書」のお話とかは行き過ぎたファンの憧れの暴走とかミザリーさながらのホラーですが、業の行く先が割とお約束だったのでそんなに救いがないわけでもないのかなあとか。
他には「魔術師の娘」のオチに思い切り脱力したり。いや、こういう報われなさは、ある意味男としての落涙を禁じ得ないものが……。そうだよね……そういう展開だってあるよね。それまで必至に戦ってきた男たちの情熱の行き先はどこーー!?
そして、意味深な登場をしつつも前巻では存在を忘れられていたかのような扱いの焚書官がついにヒューイたちと遭遇。やたらとシリアスな過去を背負っていて並々ならぬ憎しみをふたりに向けてくる焚書官・ハルだけれど、その対決の行方はなんともはや。お互いの抱えている使命の方向性が見事に交わっていないせいかのあしらわれ方ですが、ここだけみると、どこか抜けた部分があるような愛嬌も感じてしまいますね。
雪辱に燃えるハルが再びヒューイたちに相まみえる日はやってくるのでしょうか? その時は問答無用な対決に発展しそうですが、はてさて……。
hReview by ゆーいち , 2009/05/09
- ダンタリアンの書架3 (角川スニーカー文庫)
- 三雲 岳斗
- 角川グループパブリッシング 2009-05-01
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アンダカの怪造学X 空井伊依の伝説
あたしに、何ができるかはわからない。だけど、あたしは何かをしてくるよ。ちょっとでも、助けたいんだ。ひとりでも、守りたいから。死ににいくわけでも殺しにいくわけでもない。だけど本気じゃないわけじゃない。
魔王の軍勢と人類の戦いもついに最終局面・決戦の時が訪れる。人類側の最終兵器となり魔王の城へ突入した伊依は、彼女自身の信念に従い、全ての元凶である魔王さえ救おうという決意を秘めていた。泣いても笑ってもこれが最後の戦い。様々な秘密が明かされる中、伊依は自分の夢を実現させることができるのか?
いやぁ、やっぱりこういう展開でこういうエピローグが描かれるとたまりませんね。
人類と怪造生物の存亡をかけた戦い。戦力において劣勢となる人類側は、最終兵器となった伊依と、虚界そのものである魔王とを直接対決させることで、この戦局を覆そうとするけれど、伊依の芯の部分はどこまでもぶれていなくて、彼女が魔王と対峙したときに求めたことは、やっぱりどうしようもなく伊依らしいことで。
ここに来てようやく明かされる虚界誕生の秘密、そして魔王と怪造学会総長との関係、最終兵器の片羽たる魔姫と魔王の間に横たわる溝、と物語の根幹部分の設定がこれでもかと語られます。そのワリに説明臭くないのは、やっぱりこの最終決戦の雰囲気、あらゆる場所で人類側として戦う、かつては敵だった今は仲間であるひとたちの姿、伊依を信じ、彼女の夢に自らの夢を託すかのように彼女の背中を押してくれたひとたちの姿、そんなのが熱く熱く描かれているからですかね?
この作品は日日日の作品の中でも非常にまっすぐな物語な印象をずっと抱いていました。裏切られても打ちのめされても、ひとたび折れようとも、最後の最後まで自分の夢を信じ貫き通す伊依の姿を描き通して見せたからこそ、エピローグで描かれた「その後」の世界がどうしようもなく眩しく映るんですね。
ひよっこで甘ちゃんだったかつての伊依の姿があったからこそ、皆の視線を一身に集め、それでも笑って自分の夢と信念をはっきりと言葉にできる未来の伊依がいる。大人たちが築き上げてきた怪造学というものを、バトンタッチされた伊依たちが、さらに次の世代へとその想いを伝えていく、そんな明るい未来を十分以上に予感させてくれる素敵なエンディングでした。
hReview by ゆーいち , 2009/03/29
- アンダカの怪造学X 空井伊依の伝説 (角川スニーカー文庫)
- 日日日
- 角川グループパブリッシング 2009-03-01
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ムシウタbug 8th.夢架ける銀蝶
私たちが叶えたい夢は、きっと――逃げずに戦ったその先にあるわ。
“虫憑き”が生まれない世界を作るため、その源である始まりの三匹のうちの一体“大喰い”を倒すため、かっこう、ハルキヨ、亜梨子をはじめとした強力な虫憑きたちが手を組んだ。しかし、夢を喰らうため出現した“大喰い”との戦闘の最中、摩理が現れ、亜梨子と摩理のどちらが生き残るのかの選択を迫る。
本編に姿を見せない亜梨子の、その最後の姿を目に焼き付けろ!
いや、きっと本編のラストバトルでは、歴戦の戦士たちの姿に混じり、彼女の姿も見られるという王道的な全力全開バトルが描かれると信じていますががが。むしろ、そうでないと、きっとまたしても勝つことはかなわないかもしれません。
本編においてさえ、揃うことがないかもしれないくらいの戦力でもって臨んだ“大喰い”との戦い。けれど、あれだけの力が揃って、協力して戦ってさえ勝利をつかむことができなかった原因はなんなのか。“大喰い”の能力の反則さ、そして彼女を決して倒すことができない理由となる不死の虫憑きの存在、亜梨子と摩理が不完全な状態でしか戦闘に参加できなかった、理由を考えればきっとまだまだあげられるんだろうけれど、やっぱり過去にあって、現在にない、決定的な打倒のためのピースが欠けているんでしょうか。
それは、あるいは詩歌の存在かもしれないし、あるいは別の要素かもしれないし。しかし、それは逆にいえば、過去にあって現代にない要素もあるわけで。だからこそ、この物語の締めくくりとなるであろう、戦いには、あらゆる力の結集を期待したいところなのですが。
大助にとっての亜梨子の存在というものは、きっと彼にとっての詩歌の存在とは、別の位置づけでありながら、きっと同じくらいに彼を支える根底に根付いているように思います。大助にとって、果たすことのできなかった約束があり、けれど、その約束を果たすべき相手は決してこの世から消えてしまったわけではなくて。だからこそ、戦いを繰り返し、ボロボロになっても、大助は自分の夢を手放さない。手放すわけにはいかないんでしょう。
さて、これで語られるべき過去の物語は完結しました。悲しい運命を背負わされる虫憑きが生まれない世界を作るという夢は、まだ道半ば。その夢が叶うかどうかは、現在、そして未来の物語となる本編へと受け継がれていきます。今は深い眠りについて、その未来を夢見ているかもしれない彼女のためにも、絶望を振り払い、実現するための戦いを、今度こそ勝利で飾ってほしいと願います。
hReview by ゆーいち , 2009/02/06
- ムシウタbug 8th.夢架ける銀蝶 (角川スニーカー文庫)
- 岩井 恭平
- 角川グループパブリッシング 2009-01-01
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ダンタリアンの書架〈2〉
当然の報いなのです。あいつらは、私のお気に入りに傷を付けたのですから。
知るべきでない知識を収めた幻書。それを封印するための書架であるダリアンと、書架の管理人の任を受け継いだヒューイは、世にある不可思議な噂を聞きつけ、あるいは幻書を求める者の招きに応じ、旅をする。幻書が人間を狂わせるのか、人間が自らの業ゆえに滅ぶのか、それはその手に在る本だけが知っている。
ということで、ヒューイとダリアンの幻書を追う短編集の第2弾。なんか、前巻の最後に出ていた焚書官のふたりが出てこなかったんですが……。逆に、ヒューイたちと対を成すようなラジエルらが出てきて幻書を巡る人知れない争いは静かに激化していっているのかな。
時系列的にはヒューイが軍属だった頃にラジエルたちが暗躍していたようだけれど、彼らが物語の現時点でどういう行動を取っているのかも気になりますね。出番のなかった焚書官たちも含めて、出会ったら血を見ること間違いなしな気がしますが……。
お話的には、救いがあったりなかったり、和んだり和まなかったりと、振れ幅が大きい短編が揃ってますね。一服の清涼剤的なカミラ嬢のエピソードとかは、彼女の人となりや、ダリアンの愛らしさとかが前面に出ていて良かったですねえ。
そんなダリアンも、可愛らしいところや、別の女に目を奪われるヒューイにちょっとした嫉妬心を見せたりと、少しずつ人間ぽい感情を見せてきてるような。幻書に関わる人間の末路を達観したような老成したような視点と口調で切ってみせるのと同時に、そこに哀れみと一縷の救いを願っているような様子もあり、書架の役目を担った道具であるよりも、ひとりの少女としての魅力をだんだんと発揮しているように思えますね。
一方のヒューイも、かつての戦争で、それこそ人生観そのものを変えられたような壮絶な人生を送っていたり。そんな彼が、今、こうしてダリアンと、楽しげに旅をしている、それもまた運命のいたずらか何なのか、僥倖なことですね。
そして、ダリアンの正統なるふたりめの鍵守であると言われたヒューイ。前任であるひとりめの「彼女」とやらも、今後物語に何らかの関わりを持ってくるのでしょうか?
hReview by ゆーいち , 2009/01/11
- ダンタリアンの書架2 (角川スニーカー文庫)
- 三雲 岳斗
- 角川グループパブリッシング 2009-01-01
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