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断章のグリム〈9〉なでしこ〈下〉

stars さあ、始めろ。誰が殺すか、誰を助けて、誰を殺すのかを決めろ。別れを済ませて、納得せい。それができんのなら――最後の最後まで足掻いて、せいぜい悔いがなくなるまで、足掻くといい。

金森琴里の自殺を発端に生まれた怪異は続いていく。「なでしこ」をモチーフにした事件の、解決の糸口さえも掴めぬまま、日常を大切に思う蒼衣は雪乃を残し地元へと戻っていく。残された雪乃は事件に関わってしまった臣と一真を守るため、ひとり悪夢へと立ち向かう。

あー、今回も後味悪いラストだなあ。

悲劇は悲劇だけれど、これまでのような、泡禍による問答無用な悲劇ではなく、巻き込まれた者たち、そこから生き残った者たちに背負わされたものの重さがのしかかってくるような結末でしたね。

物語の構造が複雑になってるせいか、逆にお約束のようなグロテスクな表現は冒頭のアレを頂点にやや抑えめだったような気がします。が、まぁ、あれだけで十分です。痛いよ、痛い!! 首の辺りが特に!!

今回は、探偵役の蒼衣が彼自身の事情で戦線から離脱してしまってるせいか、種明かしが最後の最後まで引っ張られてしまいましたね。おかげで、あるいは、彼がいたらこんな結末にはならなかったのかもしれないなんて、そんな思いも抱いてしまうのですね。

あくまで日常を維持することを何よりも大切に考え、そのために泡禍に相対している仲間たちを置いてそこへ帰還する。その考え方がすでに蒼衣が望む「普通」とかけ離れているような空恐ろしさ。彼にとっての日常と非日常の境界が明確に線引きされ、そこを行き来することをスイッチのオンオフするように割り切っているのですよね。日常側に身を置く状態で告げられた、神狩屋からの緊急の報せに的外れな躊躇いを覚えてしまう彼の感覚は、普通じゃないですよねえ。気付かぬままにどこかが狂ってしまうというのが断章の保持者であるというのなら、蒼衣自身、彼の大切にしている何かが、すでに致命的に歪んでしまっているのではないか、そう思えてしまいますね。

雪乃の方は、そんな蒼衣の事情なぞ知ることもなく、ただ自身の使命を全うしようとして自分から追い詰められていってるような。危機的な状況になるほど覆い隠した本当の彼女が見えてくる、そんな状態に陥ったことを知らない蒼衣。ふたりがコンビを組んでいるときには、なかなか見られなかった雪乃の姿ですね。それは、すなわち蒼衣とともにいるときに、ふたりにどうしようもない危機が迫ったとき、彼女が採る選択肢が大きく制限されてくる、そんな予感がします。

ああ、それにしても、このラストは切ないですね。泡禍と戦う騎士が騎士であるために、最後に選ばなければならない選択は、死よりもさらに過酷なものであることが。それを目の当たりにして、生きていかなければならない、それは犯した罪に対する罰にしてもあまりに重いなあ。群草さんの突き放したような物言いと、そこに隠された不器用な優しさに気付いたときには手遅れ、毎度毎度、こういう毒のある展開は堪えますねえ。事件の核心にいた一真や、群草の言葉を守れなかった千恵、ふたりが彼から受け取った言葉が、ふたりを苦しめる呪いにならなければ良いと願いたいですね。

結末は非常に意外な方向へ進んでいきましたね。結末から受け取る衝撃の種類はこれまでの救いのなさとはまた違いますが、このやるせなさもまた十分以上に悲劇的でしたね。

hReview by ゆーいち , 2008/12/13

断章のグリム〈9〉なでしこ〈下〉
断章のグリム〈9〉なでしこ〈下〉 (電撃文庫)
甲田 学人
アスキーメディアワークス 2008-12-05

断章のグリム〈8〉 なでしこ・上

stars もう答えなんか出ねえよ。あいつはもう死んじまったんだ。

人魚姫の〈泡禍〉事件から2ヶ月。蒼衣は神狩屋とともに海部野千恵の見舞いに向かう。見舞いに興味のない雪乃を残して訪れた町で起こる、新たな惨劇。金森琴里の自殺から始まったその事件が〈泡禍〉によるものと判断した神狩屋と蒼衣は雪乃と合流し、この町の〈ロッジ〉の一員である木之崎一真の依頼のもと、彼の友人・石田臣を救うために動き出す。

童話「なでしこ」を見立てにした事件に巻き込まれていく蒼衣たち。今回も姿の見えない泡禍の恐怖と、容赦のないグロい死の描写が冴え渡っています。が、上巻なので、事件の導入部分に過ぎないわけで、これからさらにエスカレートしていくのですかね。題材がマイナーではあるけれど、その話の中で描かれる死の多さとか、その悲惨さとかは結構なものがあるので、それが現実にフィードバックされるとなると、まだまだこれからが本番というのは疑いがないわけで。

ゲストキャラ的に登場した一真や臣は、この事態に対応することもできず、恐怖と身内を失った怒りに支配されかけているような。どうも、流れ的に臣が怪しい感じがするんだけれど、このままだと、また誰も生き残れないような気がするなあ。

それと、わざわざ海部野千恵を登場させた意味がまだ分からないですね。人魚姫の事件で十分に傷つけられたのに、まだ追い打ちをしようというのか、あるいは、今回の事件解決の鍵となるのか。火を鎮めるために、泡を用いるとかありそうだけど、彼女の力は自分の命さえ危うくさせる危険なものだから、退場と引き替えにとか、また悲惨な結末が用意されていそうで怖いですね。

hReview by ゆーいち , 2008/08/10

断章のグリム 8
断章のグリム 8 (8) (電撃文庫 こ 6-21)
甲田 学人
アスキー・メディアワークス 2008-08-10

断章のグリム〈7〉 金の卵をうむめんどり

stars 満たされるわよ? 敵意と敵意の与え合いは。まるで激しいキスのよう

これは、ごく「普通」の〈泡禍〉に巻き込まれたひとびとの物語。〈ロッジ〉が解決していく、当たり前の災いの物語。神が悪夢を見るのなら、その写し身である人間が悪夢を見ないはずがない。そこから生まれる泡禍は小さくても、確実に災いを呼ぶ。それは幾百もの寓話の集成、最古の童話の形を借りて……。

今回は、イソップ童話。もう、タイトルとの乖離には、突っ込んじゃいけない気分になってきましたが、短編集です。

最後に収録された表題作でもある「金の卵をうむめんどり」は、今や雪乃の背後霊と成り果てた、風乃の幼き日の姿を描いています。多分、これが本命。現在の、狂気を固形化したような風乃の印象とは少々異なり、自分の存在の特異さ、世界への相容れなさへの苦悩などが滲んでいましたが、この物語を経て、辿り着いた結末がああいった形だったというのは、風乃自身も実は望んではいなかったのかなあとか思いました。とはいえ、悪霊的存在となってしまった彼女は、これからも雪乃や蒼衣を泡禍との戦いに問答無用で導いていくだろうし、その先に救いがあるとも思えないので、なんともやるせない過去譚でしたね。

それ以外の短編も、これまでのような大規模な泡禍ではなく、日常的に生まれてくる絶望や渇望だったりの形を変えた姿で、けれど個人に襲いかかるそれの凶悪さとか醜悪さとかは、だからといって温いわけでもなく、やはり怖気を催しますね。ただ、それが狂気に基づいたものではなく、比較的救われそうな感情に起因している事件のせいか、物語の後味自体は、これまでのような陰惨なものではないのが不幸中の幸いというか。

ともあれ、相変わらずの痛々しい描写は健在。これからどういった方向に進んでいくのか気になりますね。風乃が雪乃に囁く言葉も敵は泡禍だけにあらずな予感を抱かせますが、果たして……?

hReview by ゆーいち , 2008/04/28

断章のグリム (7)
断章のグリム (7) (電撃文庫 (1574))
甲田 学人
アスキー・メディアワークス 2008-04-10

断章のグリム〈6〉 赤ずきん・下

stars 予想のさらに上を行く破滅的な結末

雪乃を攻撃し重傷を負わせ、マナ・瑞姫とともに姿を隠す勇路。知らず知らずの間に増殖していく異形と狂気。“赤ずきん”に見立てた泡禍の犠牲者が増えていく。その根幹に未だ気付けぬまま、蒼衣は彼らの足跡を追う。全ての始まりは何処だったのか、狂気の源泉は何なのか。全てのかけらが揃ったときに浮かび上がる物語の真の姿は予想だにしないもので。

はい、赤ずきん編の後編ですね。しばらく時間が経ってしまったので、前編の内容を思い出しつつ読み進めなければいけません。やっぱり、前巻のあらすじがほしい……。

毎回毎回、童話を独自の解釈で、惨劇の登場人物の配役にうまいこと当てはめてくれる本シリーズですが、今回は思いもよらない方向から物語の全容が明かされてきました。登場してきた新キャラの誰もが、一癖あって怪しく見えてしまい、そのせいで勝手に混乱させられてしまった部分がありますが、しかし、この結末はあまりに後味が悪すぎますね。気付いたときにはどうしようもなく手遅れで、取り返しなんて付くはずもないという、完全な負け戦。

そして、事件の事後処理も含めて、まさに惨劇としかいいようのない終わり方。確かにこういう行いをする人間がまともであるはずもなく、かろうじて平常に縋ろうとする蒼衣すら、今回の事件を通して、ひととして超え難い一線のひとつを超えてしまったようにも見えます。淡々と泡禍の構造を語る彼の姿も、やはりどこか壊れて見えてしまいますね。

相変わらずグロ描写も絶好調。終盤のシーンはかなり来ますね。なんというか、自分の内臓こねくり回されてしまうような不快さを感じてしまいます。

なんだか、最後の最後で不穏な残り火が消えないまま終わってしまいました。神狩屋の言葉と合わせると、今後の大きな伏線となりそうな予感がしますが、はてさて。再び彼が現れたとき、その正気と狂気を誰が見抜けるのでしょうかね?

hReview by ゆーいち , 2007/12/24

断章のグリム 6
断章のグリム 6 (6) (電撃文庫 こ 6-19)
甲田 学人
メディアワークス 2007-12-10

断章のグリム〈5〉 赤ずきん・上

stars まだまだ序の口 グロさも抑えめ

他の町にあるロッジから協力を依頼された神狩屋により、派遣されるような形で訪れた土地で起こる失踪事件と、その原因となる泡渦。赤ずきんをモチーフに怪異は静かに、確実に忍び寄りつつあって……。

上下巻構成になると、甲田学人の作品は、前半部分の盛り上がりがほとんどないのが辛いところ。

新キャラとし登場した颯姫の妹や、独断専行・雪乃さんに敵意むき出しな馳尾、事件の目撃者であり、被害者候補な愛と、彼女を取り巻く友人たちの裏に潜む感情。昏い感情の描写は見事ですが、ストーリーが今後どう展開するかがまったく予想できないので、この段階でだからどうだとか断じることなどできようもありません。

前回の人魚姫の話に比べると、直接的な痛い描写とかグロい描写とかは抑えめな感じ。普通にホラーなシーンなので、驚きというか、幻痛を感じそうなぞわぞわ感もやや弱いので、インパクト不足ですかね。
とかいって、下巻でとんでもない展開が待っていたらそれはそれでキツいですが(^^;

hReview by ゆーいち , 2007/07/10

断章のグリム〈5〉 赤ずきん・上
断章のグリム 5 (5) (電撃文庫 こ 6-18)
甲田 学人
メディアワークス 2007-07

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