幸せのカタチ〈後編〉

椎菜優樹さんから寄稿いただいた、ToHeart SSです。

いつもの風景。

いつでも私を包んでくれて……

いつまでも二人は一緒にいられるよね………

To HeartSS 幸せのカタチ 後編

高校からの帰り道、あの頃と同じように、同じ道を浩之ちゃんと一緒に帰ってる。

「そういえば浩之ちゃん、ご飯ちゃんと食べてるの?」

浩之ちゃんの表情がちょっと変わる。

「あ、ああ、ちゃんと食ってるぞ」

浩之ちゃんはちょっと困った顔をしてる。

そんなに気を使わなくても良いのに…

「だめだよぉ、ちゃんと食べないと…また作りに行ってあげようか?」

やっぱり浩之ちゃんは困り顔。

どうしてかな…

「あかりが作る飯は、確かに美味いからなぁ……」

そう言ってくれるのが一番嬉しい。

ただ、美味しいって言ってくれるのがね………

「今日、行こうか?」

「いや、そんないきなり…冷蔵庫の中とか何にも無いぞ」

そんなこと、いつものことじゃない。

ほとんど、一人暮らしみたいなものだから、お料理とか全然しないんだもん。

「じゃあ、買い物して来れば良いんだね」

「ん~確かにそうなるが………じゃあ、作りに来てもらうかぁ」

良かった………

最近、料理のレパートリーも増えたから…

食べてもらいたかったんだよ…

「そうと決まれば、買い物だな」

「そうだね、浩之ちゃんはどうするの、先に帰ってても良いけど?」

「いや、俺もいっしょに行くぞ、荷物持ちくらいにはなるだろ?」

浩之ちゃんの優しさ。

浩之ちゃんの暖かさ。

全部、私の幸せ………。

スーパーでの買い物。

私は今日の特売品なんかを見ながら、何を作るか考えてる。

もちろん、浩之ちゃんの好みも考えながら身体に良い物をね。

「そうだ浩之ちゃん、なにかリクエストある?」

「いや、あかりにまかせる、美味いもの食わせてくれよ」

それじゃあ、浩之ちゃんの好きな物を作ってあげないとね…

「あ・か・り」

えっ?

聞きなれた声に振りかえる。

お、お母さん!?

「こんな所で何してるの、浩之くんも一緒に…?」

「あ、ども、こんばんはっす」

浩之ちゃんはいたずらが見つかった子供みたいに、ばつが悪そうにしてる。

「あ、お母さん、私…今日、晩御飯いらないから…」

私と浩之ちゃんを交互に見る、お母さん。

「ふ~ん、わかったわ、浩之くんのところに行くのね」

「う、うん、ご飯作りに…」

なんでこんなに慌ててるんだろう、私………

「気をつけて行ってらっしゃい、浩之くんなら安心だしね」

「うん………」

お母さんは私たちのことを知ってるみたい……

「二人とも、新婚さんみたいだったわよ」

「えっ…」

「なっ…」

「ふふふ、邪魔しちゃ悪いから………それじゃあね」

私も浩之ちゃんも顔を真っ赤にしているのを見ながら…

お母さんは行ってしまった。

「もう、お母さんったら………」

「俺たちって…そういうふうに見えるのかな………」

え………ひ、浩之ちゃんまで………

お母さんも、なにもこんな所で言わなくてもいいのに………

あ、また顔が赤くなってきちゃった………

な、なんだか恥ずかしいよぉ…

「か、買うもの買っちゃおうか…ね、浩之ちゃん」

「あ、ああ」

浩之ちゃんの顔も真っ赤になっちゃってる。

浩之ちゃんと結婚かぁ………

そしたらずっと一緒にいられるね………

………な、なに考えてるんだろう私ったら…

買い物を済ませて、スーパーから浩之ちゃんの家に向かう。

ちょっと、買いすぎちゃったかもしれないけど

…また作りに来れば良いよね。

「久々に美味い飯が食えそうだなぁ…」

「あ~やっぱり、ちゃんと食べてないんだぁ」

「うっ…しまった………」

もう…しょうがないなぁ………

そんな事言われたら、毎日作りに言っちゃうよ………

「まあ、こうしてあかりの飯が食えるわけだし…」

そんなんじゃダメだよ…浩之ちゃん…

もっとしっかりしないと…

腕によりをかけて作ってあげるからね。

話をしながら、のんびり歩く。

こういうの、なんだか良いよね………

浩之ちゃんのおうちに到着。

なんだか久しぶりに中に入る気がするよ…

「あかり、悪いけど鍵開けてくれないか、上着のポケットに入ってるから」

「うん」

鍵を取って、扉を開ける

かちゃり、と言う音がして…

帰ってきたんだなぁ…なんて思っちゃう。

「はい、浩之ちゃん」

「サンキュ、あかり」

「荷物、ここでいいか?」

「うん、そっちに置いて」

荷物置いた浩之ちゃんが、エプロンを着けようとしてるわたしのほうをじっと見てる。

「どうしたの、浩之ちゃん?ぼーっとして………」

「え、あ、いや、別に………」

どうしちゃったんだろう、顔赤くしちゃって………

さっきお母さんに言われた事………、まだ考えてるのかな?

新婚さんかぁ………なんだか恥ずかしいな………

っと、早く作らなくっちゃ。

お腹すいてるよね………

浩之ちゃんと一緒に、買ってきたものを袋から出す。

いつもは私にまかせっぱなしなのに、珍しく一緒に手伝ってくれる。

「あかり、他になんか手伝おうか?」

「わ、浩之ちゃんがそういうこと言うの珍しいね………」

「いや…気が向いただけなんだけど………」

う~ん、浩之ちゃんには悪いかもしれないけど………

「大丈夫だよ浩之ちゃん、私一人でも………」

しっかり美味しいもの作るから、それまで待っててね。

「そうか、なら良いけど………じゃあ待ってるから」

「まかせて、浩之ちゃん」

「楽しみにしてるぜ」

さてと………がんばらなくっちゃね………

浩之ちゃんが美味しそうに食べてくれる姿が目に浮かぶ。

好きな人の為に料理を作るのはすっごく楽しい。

喜んで食べてもらえるのが………

すごく嬉しいから………

頭の中に幸せな家族の風景が浮かんでくる………

私も………浩之ちゃんと………

よっ………と、よし出来た。

「浩之ちゃ~ん、出来たよ~」

リビングの方に向かって声をかける。

けど、返事が無い………

どうしたんだろう?

「浩之ちゃん?」

リビングの方に行ってみると、ソファで浩之ちゃんは眠ってた。

待ちくたびれて寝ちゃったんだね………

起こしてあげたほうが…良い……かな?

でも、気持ちよさそうに寝てるし………

「う………ん………」

あ、こっち向いた………

寝顔………かわいいね………

ふふふ、なんだかこういうのもいいなぁ………

ご飯………こっちに持って来ておこうかな………

「えっ、きゃっ………ひ、浩之ちゃん?」

すっ、と立ち上がろうとしたところを急に浩之ちゃんに引っ張られる。

立ちあがろうとしてたところを掴まれて、私は後ろに転びそうになった。

そのまま、ぐいっと引っ張られて、浩之ちゃんに抱きつく格好になってしまった。

「ひ、浩之ちゃ~ん………」

ね、寝ぼけてるのかな………

「………すー………」

あ………やっぱりまだ寝てる………

どうしよう………

このまま、起きるまで待ってようかな………

「う………ん………あかり………」

私の夢を見てるのかな………

なんだか嬉しいな………

抱きしめられたままなのは、ちょっと恥ずかしいけど………

「浩之ちゃん………」

でも、このままでも良いかな………

すごくあったかいし………

私も………このまま眠っちゃおうかな………

「………ん……………あれ……………あかり………………?」

あ、起きちゃった………

眼を覚ました浩之ちゃんの顔がすぐ近くにある。

急に恥ずかしくなってきちゃった………

「俺………寝てたのか………?」

「う、うん、そうだよ………」

耳に息がかかる。

少しくすぐったい。

感じる吐息………

伝わる鼓動………

「えっ………と………なんで、俺は抱きしめてるんだ………」

やっぱり覚えてないみたいだね。

あ、ドキドキしてる………

浩之ちゃんの鼓動が急に早くなる。

「ひ、浩之ちゃんが寝てて………起こそうとしたら寝ぼけて………」

「そ、そっか………悪い事したな………」

「良いよ………寝ぼけてたみたいだし………それに………」

私の名前…呼んでくれたからね………

「………………」

「ど、どうしたの浩之ちゃん?」

浩之ちゃんにじっと見られてる感じがして、聞いてみる。

「あ、いや…か、かわいいな…って………」

「え………」

抱きつかれたまま、そんな事言われても………

「ご、ご飯にしよっか………」

立ちあがろうとしても離してくれない。

「もうちょっと………」

「だ、ダメだよ………」

言っても離してくれない。

きゅっと抱きしめたまま………

優しく髪をなでる浩之ちゃんの手………

「あかり………」

浩之ちゃんの手が止まる。

「あっ………んっ…………」

体を起こして、私にキスする………

優しく。

短く。

それでいてゆっくりと。

短いけれど、とても甘い時間が流れる………

「……………………はぁ…………」

「…………なぁ……………………あかり……………」

ぽーっとしてると、浩之ちゃんに声を掛けられる。

「…………あ………………何……………浩之ちゃん…………」

「ずっと……………一緒に居ような……………」

そんなの、当たり前だよ………浩之ちゃん………

私は………………私の隣にいるのが………

浩之ちゃん以外に考えられないんだからね………

「私も………浩之ちゃんのそばにずっと居たいよ………」

ずっと…………

もっと大きくなっても………

おばあちゃんになっても………

ずっと………ずっと………

いつまでも………一緒に居たいね………

いつまでも…………

一緒に居る事が出来るのが…………

いちばん………………幸せだよ…………

ね、浩之ちゃん……………

幸せのカタチ~shapes of happiness~-Fin-

あとがき

初のTo HeartSSですが…いきなり前後編になっちゃいました。

その分、満足してもらえる物になっているといいんですが………

次のTo HeartのSSも…………きっとあかりちゃんでしょうね

それでは、次回をお楽しみに

この作品は、日常の幸せとラブラブが好きなゆーいちさんに送らせてもらいます。

1999.12.05 椎菜優樹  Angel Kiss