銀盤カレイドスコーブ〈vol.9〉 シンデレラ・プログラム:Say it ain’t so

2013年4月18日

銀盤カレイドスコーブ〈vol.9〉シンデレラ・プログラム:Say it ain’t so

読了。

最後の最後でとんでもない展開を用意してあったし。

冒頭からの絶望的な展開は、読むのが辛くなるほどで、決着が付く最後の試合と思わせておいてまさかの展開。鈴平ひろのさわやかで美麗な表紙に騙されてはいけない。中は天才たちがしのぎを削るアツいスポコンノベルだ!!

圧倒的・絶対的な実力を見せるリアの最強っぷりが恐ろしいまでに伝わってくる。というか、口絵のイラストだけで絶望させられるってどういうことよ、と。フリープログラムだけでどうやって一冊使うかと思ったら、さらにその先を用意して、タズサ自身の到達点を描いてみせましたね。

リアに植え付けられてしまったフィギュアに対する恐怖や、自身の限界を悟らされた絶望感、それでも自分を自分たらしめていたものであるという現実との狭間で苦しめられていくタズサの心情が痛々しくて仕方がありませんでした。その後の復活の過程も、「苦しくても滑りたい」というアスリートとしての本能にも似た衝動と「楽しいから滑りたい」という、スケートを始めたての少女のような純粋な想いを積み上げて、これでもかと迫る迫る。ラストの演技の描写は、現実離れした印象を受けるけれど、一握りの天才たちの、その頂点に立つ人間が観る世界というのは余人には想像も付かない世界なのか。

ファンタジーではない、現実の、フィギュアスケートという華やかなれど実体は非常にストイックな世界を舞台にした本作。主人公は天才ではあるけれど、トップレベルで競うライバルたちも同じレベルである以上、その優劣はどれも紙一重のもので、決して無敵ではなかったわけで。その世界の中で、さらに別格とされていたリアに、ついに並び立つまでに至ったタズサの物語はここで完結。当初の雰囲気とはずいぶん変わってしまったけれど、スポーツを題材とした物語として、見事に完結してくれたのではないかと、万感の思いを持って評したいところです。

余談。ウパ日記にてウーパーさんが、本作のタズサとリアの関係を、サイバーフォーミュラの新条直樹と風見ハヤトに例えていたけれど、完結した時点での私の印象は、サイバーフォーミュラSINでの、加賀とハヤトの関係に似ているように思えました。全てを投げ打って最後の最後に得た、恐らくはたった一度の勝利、そして足を踏み入れた世界の描写と、燃える展開もめちゃくちゃツボでした。