少女の居場所と帰る場所

住宅洋平さんからご寄稿いただいた Kanon SSです。

これは、原作を無視するかもしれない作品です。

二次設定に耐性の無い方は早めに逃げてください。

では、無数に存在するkanonの世界の内ひとつでゆっくりして行って下さい。

少女の居場所と帰る場所

 夢。終わらない夢。
 少女が1人、問いの答えを探していた。
 少女1人では、答えを見つけることができない問い。
 その事に気づかず、答えを探し続けるという、悲しい夢だった。

 ある日、1人の少女が祐一の前から姿を消した。
 祐一の目の前で。
 たった1人、春を迎えることができなかった少女。 少女には、奇跡が起きて救われることなど無かった。
 存在そのものが奇跡だったから。
 ただ、そんな少女に、1度だけのチャンスが与えられた。
 祐一と美汐のこと以外を全て忘れてしまうという代償と引き換えに。
 そのチャンスとは、
『自分の帰る場所を探せ。 制限時間は無制限。
 答えは少年が持っている 。
 ただし、答えが見つかる までものみの丘からでる ことはできない』
 という、少女1人では答えを見つける事のできない課題。
 祐一が丘を訪れる事がなかったから。

 少女が答えを探していると、予想外の人物が現れた。
 天野美汐。
 美汐だけが、丘を訪れるようになった。

 時が流れて7月1日。
 いつものように、少女は美汐と遊んでいた。
 主に花火をして。
「いつか、祐一と花火ができればいいのに」
 ふと、少女は呟いていた。
 その一言に、
「七夕の日に花火大会があるのですが、相沢さんも誘いましょうか?」
 と、美汐は返した。
 その時、少女はひとつ大切なことを思い出した。
「ううん、いい。だって祐一と…」
 たったひとつの約束をしていたから。
 『夏が来て、もっと花火ができればいいのに…』
 『じゃあ、みんなで七夕の花火大会に行こう。ものみの丘ならよく見えるから、そこから見よう』
 『…約束?』
 『あぁ、約束だ』
 少女はわずかに笑顔を取り戻したようで、
「祐一があの約束を覚えててくれれば…」
 微笑みながらそう言った。
 美汐は、自分に出来ることを理解した。

 7月5日。
 祐一は、なんとなく屋上にいた。
 美汐は祐一を見つけると、早速声をかけた。
「お久しぶりです。相沢さん」
「ん、美汐か。久しぶりだな」
「突然なので申し訳ないのですが、七夕の日に私と花火大会に行きませんか?」
 すると祐一は、意外そうな表情をした。
「俺はいいが…。まさか美汐からデートの誘いをうけるとはな」
 美汐も答えが意外だったのか、頬を紅潮させて、目をそらした。
 何故か美汐の心臓は高鳴っていた。
 ん、と祐一は何かをぼんやりと思い出した。
「そういえば、俺も誰かと約束したような…」
 後少しで思い出しそうだったが、その約束しか思い出せなかった。
「七夕の日に丘から花火を見ようって約束したんだけどな…」
「私もあの丘から見るつもりなんですが」
 美汐は一呼吸おいて、
「私でもよければ一緒に行きませんか?」
 祐一を誘った。
「わかった。他に誰か誘ったほうがいいか?」
「できれば2人で…」
 頬だけでなく、顔全体が赤くなった。
「ん、熱でもあるのか?顔赤いぞ?」
「わ、私は大丈夫ですっ。で、ではまた明後日っ」「変な美汐…」

 7月7日。昼。
「あ、ゆーいちー」
「どうした?名雪」
「今日の花火大会、一緒に行かない?」
「残念だが、他の友達と行くことになってる」
「もしかして…。デート?」
 すると祐一は困ったような表情になった。
「と、とにかく俺は友達と行くから、遠慮しとく」「友達って誰?彼女?」
「そんなのじゃないって…」
 そう言って、祐一は逃げるように部屋に入った。

 同日、夜。
 祐一が着いた頃には、すでに美汐がいた。
 始まるまであと30分はあるのに。
「お、美汐は浴衣か」
 祐一の予想とは違い、美汐は浴衣だった。
 ちなみに、祐一の予想は制服だった。
「物腰が上品な美汐だからか?結構似合ってるぜ」  「そ、そんなことないですよ…」
「もしかして、花火より綺麗かもな」
 祐一はからかったつもりだが、美汐は顔が真っ赤だった。
 数分後、花火が上がり始めた。
 花火大会も終盤に差し掛かった頃。
「あの、少しクイズしませんか?」
「その勝負、受けてたつ!」
「では…。そもさん!」
「せっぱ!」
「次の台詞はある人の口癖ですが、それは誰?」
「え?」
「…夏が来て、もっと花火ができればいいのに…」 その時、祐一は1人の少女のことを思い出した。
「沢渡…。真琴…」
「思い出しましたか?」
「そうか…。俺はあいつと約束したんだ…。でも、あいつは…」
 不意に、聞き覚えのある声がした。
「ちょっと、勝手に人を殺さないでよ~」
 声のした方向を見ると確かに、真琴がいた。
「美汐…。まさかお前、このために…」
「きっと、偶然ですよ」
 その言葉が本当かはわからない。
「…さて。帰るぞ、真琴」「今のあたしは、祐一と帰ることができないの」
「どういうことだ?」
 『…少女説明中…』
 祐一は、なんとなく答えを理解した。
「帰るぞ、真琴」
「だから、あたしは…」
「答えは俺が持っているんだろ?じゃあ、俺の側にいてくれないか?」
「え…。いいの?」
 真琴は戸惑っていたが、祐一ははっきりと答えた。「真琴は俺の家族だからな。一緒に暮らすのは当然だろ?」
「ありがとう…。祐一…」 それなら次は、といきなり美汐が話に入った。
「次は、私のことをお願いしますね」
「え?」
 祐一の腕に、誰かが抱きついた。
「ちょっと、あたしの祐一に何してるのよ~!」
 へ?と、祐一は自分の右腕を見る。
 そこには、『えへへ』と普通の少女のように笑う美汐がいた。
「!?何やってんだ美汐!?」
 腕から離れようとしない美汐。
「いいじゃないですか、たまには。私は、相沢さんのこと、好きですから」
 そういえば名雪たちがこの辺にいるかもしれない、そんなことが頭をよぎった。
 頑張れば引き離せないこともなかったが、嬉しそうな美汐を見るとできなかった。
「ってことは、俺を花火大会に誘ったのも…」
「ちょっとだけ相沢さんとデートしたかったので…」
「あの時の反応はそういうことか…うわっ」
 何故か、真琴も飛びついてきた。
 こんなところを誰かに見られたら…。
 祐一の予想が的中した。「あーっ!私の祐一さんに何するんですか!?」
「栞を泣かせたら許さないわよ、相沢君」
「うぅ、私より仲良さそうだよ…」
「祐一…。私もいい…?」「あははー。舞は祐一さんが大好きですねー」
「うぐぅ…。ボクが入る場所がないよ…」
 よりによって全員集合とは。
 どうしたものかと祐一が考えていると、
「はじめまして。相沢さんの未来のお嫁さん、天野美汐と申します」
 美汐は火に油を注いでいた。
 何いってるんだ美汐、と言おうとしたが、嬉しそうな顔を見ると言えなくなった。
 そして、5人の少女は一斉に同じことを考えた。
 『まさか、この少年ひとりに、こんなに人を惹き付ける力があるとは』
 その直後から、祐一の取り合いが始まったことは言うまでもない。

 七夕から何日かたったある日。
 相変わらず祐一の周囲は賑やかだった。
 そんななか、祐一の側で、居場所を見つけた少女と、帰る場所を見つけた少女は。
 幸せそうに、笑っていた。

おしまい

あとがきもどき

 どうもこんにちは、小説素人です。

 前回が素で悪い方向に突っ走ったので、今回はハッピーエンドを目指してみました。

 が、またしても酷い作品になりました。

 そもさん、せっぱはクイズの挨拶だそうです。

 美汐の出番を増やせないかなと思って、元々の性格に「好きな人には積極的」という感じを付与したら別人になりました。

 全国の美汐ファンの皆様、大変失礼しました。

 そして、わざわざこれを読んでくださった皆様、ありがとうございました。