C3-シーキューブ〈8〉

stars ……なあ、春亮よ。一つだけ、不安というか……気になることが、あるのだが。人間ではない、私のところにも……本当に、サンタは、来るのかな……?

C3-シーキューブ 8

「クリスマス」と「サンタさん」の存在を初めて知ったフィア。もちろんこんなおもしろイベントを見逃すはずもない黒絵と一緒に大はしゃぎで準備していると、商店街のケーキ屋さんから「ケーキ売りのバイトをして欲しい」という依頼が舞い込んできた。ということで色々きわどいミニスカサンタ衣装に身を包み、ケーキ売りに勤しむフィアとこのはの前に現れたのは、褐色肌の足技得意なヘソ出しミニスカサンタさん!? 彼女の真意と目的は……?

[tegaki font="crbouquet.ttf" color="white" strokecolor1="Salmon" strokesize1="6″ strokecolor2="PeachPuff" strokesize2="4″]聖なる夜のおくりもの[/tegaki]

表紙のギリギリなところを攻めすぎてなんだか少しいろいろ見えすぎてしまってる、フィア、かわいいよ、フィア。

と、それはともかく、今回の話は起承転結がすばらしかったなあ。いつも通りに始まる愉快な日常から、これまたいつも通りにやって来る異能の使い手。それとの戦いを通じて、さらに人間らしさを得ていくフィアという、大枠の構成は変わっていないながらも、中身の濃さはこれまで以上に充実。いやいや、大満足。

クリスマスという行事を始めて経験するフィアの、まだ見ぬプレゼントに対する浮かれようが大変かわいらしいのですよ。けれど、そんな彼女の期待を裏切るかのように、やって来るのは彼女が避けることなどできない禍具の使い手の集団、《研究室長国》からの使者だったり、最強を求める《竜島/竜頭師団ドラコニアンズ》の戦士だったり。

前者の《研究室長国》所属のン・イゾイーは再登場するとは思っていなかったキャラだったけれど、今回のエピソードを通じて彼女の内面と目的が深く描かれたような。戦いの後の彼女の処遇を見ると拍明の親心的なものを感じたりしますが、いんちょーさんの毛嫌い具合を考えると、ただそれだけではなくやっぱり裏の目的があるんじゃないかと勘ぐったりしてしまいますね。けれど、彼女が未知なるものを既知なるものとするための動機はどこまでも純粋なもので、それが上手く春亮たちの想いとかみ合った感じで関係自体は非常に良好なものを築けていけそうな予感がしますね。非常識ながらも慎ましやかで、けれどやっぱりその世間知らずさが賑やかな騒動を巻き起こしそうな、そんな新たな仲間の参入となるのでしょうか。禍具だけでなく、人間の心も引きつけてやまない夜知家の居心地の好さは異常、ってことで。

一方、今回も強敵となった《竜島/竜頭師団》の上位者であるココロ・ペンタジェリは精神的にも、肉体的にもフィアたちを苦しめる大変なヤツでしたね。ただただ強さのみを求める体育会系な集団かと思いきや、その強さを得るためには搦め手からの攻撃も辞さない。相手を本気で戦わせるために、そしてその戦いを自分が愉しむためだけに、シリーズかつてないくらいにおぞましい手段でもってフィアの心を根こそぎ刈り取ろうとするその手段は本当に怖気だつ思いですね。『魔女カリ』では全開だった黒い水瀬葉月の真骨頂をひさびさに見た気がします。これまではある意味ぬるま湯で慣らされていたところに突然冷や水を浴びせかけるようなこの黒さ、これからも加速していくとなると、期待せずにはいられませんね!

そして、ようやくその正体が明かされる学園理事長のお言葉。春亮と同じような境遇にありながらも、彼のように上手くやれなかった世界橋ガブリエル。理事長の藁にも思いが今回の戦いの火種となったようなものですが、その願いは共感できないわけではないのが辛いところ。けれど、誤った手段によって誤った望みの叶え方は誰も幸せになれないと、フィアが自分を戒めたように、失われてしまったものを呪われた道具によって取り戻そうなど救いのある結果になるとは、このエピソードを読んでしまうととてもそうは思えませんね。

だからこそ、諦め混じりでも捨てることのできなかった望みが、決して絶たれていないことが最後に示されるエピローグがとてもすてきに思えるのですね。ひとではないフィアがひとのように純粋に願いを込め続けてきた、その想いの報われ。それこそが彼女にとって何よりのプレゼントになることは、その笑顔が語ってます。少しずつ人間らしくなっていくフィアの心にまたひとつ大切にしまわれることになった思い出が、もっともっと増えていったとき、それが彼女の本当の願いが叶うときなのかもしれませんね。

hReview by ゆーいち , 2009/11/19

C3-シーキューブ 8

C3-シーキューブ 8 (電撃文庫 み 7-14)
水瀬葉月
アスキー・メディアワークス 2009-11-10