俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈7〉

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stars 結局私は、ある人を見習って、自分の欲求に素直になろうと決めたの。思い切り、欲張りになろうと決めた。……きっとあの女ならこんなとき、どちらかを諦めたりはしないでしょうから。

「お、おまたせっ」顔を上げると、照れくさそうな微笑みを浮かべている……俺の彼女がそこにいた。俺の愛しい恋人である彼女の名前は、高坂桐乃。「あんたのこと……“京介”って、呼ぶから」「だって、その方が……恋人っぽいじゃん?」
めちゃくちゃ仲の悪い兄妹だったはずの俺たちが、こんなただならぬ関係になっちまうなんて……まるで悪夢だ。
夏休みに入ってからというもの、俺の周りでは恋の話題が尽きやしない。「待て……殺さないでくれ……」あやせの家にお呼ばれして、楽しい一時を過ごしたり。「――妹に彼氏がてきたかもしれない」「責任を取ってもらいますわ、京介さん」友達から人生相談(?)をされたり。そして一年ぶりの『あのイベント』も――。人気シリーズ第7弾。

その「スキ」はどんな「スキ」?

6巻の衝撃的な引きでどうなることかと思ったら、大方の予想通りだったであろう「恋人ごっこ」から始まる第7巻。振り返ってみれば、物語がスタートしてから作中では一年あまりが過ぎていたのですよね。そんなことを思い起こさせるエピソード満載の一冊でした。

そういう意味では、一年前の京介や桐乃たちの行動を思い出しつつ読み直すと、彼らの人間関係がどんな風に変わっていったのかよく分かりますね。突然の人生相談で幕を開けた距離が開きまくっていたきょうだいの関係、それからどこをどう間違ったのか兄はオタク道まっしぐらに堕落あるいは覚醒していって、妹は少しずつ角が取れてきたかのよう。今や恋人のふりをしてデートを楽しむくらいになってしまうなんて、誰が予想できたでしょうか、いや、たいていの人はこういう展開を望んでいたのだとは思いますが。

しかし、桐乃の内心を思うといろいろと辛いところが多いですね。彼女の性格的に、こういう理由を付けでもしないかぎり、京介とどこかへ出かけるなんていうのは許せないんでしょうね。オタクな自分を許容して、受け入れてくれる友人は黒猫や沙織らも当然数えられるのでしょうけれど、桐乃にとっては彼女自身を最初に全肯定してくれたのって、やっぱり兄である京介なんですよね。それがすり込まれているのか、あるいはもともとこういう関係を望んでいたのかは判断に悩むところですが、今回の冒頭のエピソードのように、形だけだとしても、ふたりでデートじみたお出かけをするというのは、きっとこれまでのグループで遊ぶ楽しさでは得られない、別種の嬉しさがあったのではないかというのは想像に難くはないですね。彼女視点でいろいろだめ出しするのも、自分を楽しませてもらいたいという桐乃の不器用な要求でしょうし、あからさまに「次」を期待している様子からしても、言葉とうらはらに満更ではなかったのでしょう。だからこそ、恋人のふりをしているという建前はあっても、自分はそんなつもりではないからこそ、事務的に受け答えする京介の態度に心底腹を立てて、爆弾をさらに仕掛けたりしたんでしょうね。

あからさまに当てつけ的な桐乃の「本当の彼氏」発言で本格的に始まる今回の物語。あやせ相手にぶっ壊れてみたり、夏コミ参戦・初の同人誌参加で誰もの度肝を抜く斜め上の企画を用意してみたりと、京介の見事なオタクっぷりに拍手喝采なところではありますが、「お兄ちゃん」としての京介も、相も変わらず良い兄貴っぷりを発揮してくれています。兄としての彼は、やっぱり桐乃のことを最優先に考えて行動してるフシがありますね。場に溶け込めない彼女の背中を押してやったり、友人たちとの打ち解け具合に安心してみたり、あれだけ妹の態度にムカっ腹を立てながらもしっかりと自分のなすべき事をなしてます。それ以外の部分では割と壊れてきてるのに、こと、「桐乃の兄」としての京介という部分においては、彼女に頼られるようになってから少しもぶれていないんですよね。

むしろ、変わってきているのは、京介を取り巻く環境なんでしょう。妹の趣味を接点とした黒猫や沙織らとの関係が生まれ、そこからゲーム研の部員たちとのつながりが生まれ、どんどん深みにはまっていってる風。そして、今度はそんな京介のつながりが、桐乃へと影響を与えている、と。優等生としての桐乃の友人関係に、京介が入る余地はほとんどないけれど、逆にオタクとしての桐乃の友人関係は京介がいなければ生まれもしなかったわけで。これまで全くオタクとは無縁な生活をしていた兄が、妹の友人関係を広げるためのハブ的な役割を結果的に担っているということが面白いですが、そんな京介に誰も彼もが少なからず好感を抱いているのもまた、心底妬ましい興味深いことでもありますね。それこそ、それなんてエロゲな関係ではありますが、所々で見せる頼りがいのある姿は、やっぱり印象に残ってるのかなあ、とか思っちゃいますね。

まぁ、そんな彼にすっかりやられてしまったのが、我らが黒猫さんなわけですが。今回はとにかく、彼女をかわいらしく思うシーンが多いこと多いこと。京介視点でも、どきりとさせられるシーンが少なからずあったのは、やはり彼女が京介にかけた呪いのせいでもあるのでしょう。あれだけでも、このかわいらしい後輩を意識しないなんて男じゃないというくらいのインパクトですが、同じ部活でぐっと縮まった距離は、黒猫の気持ちをずいぶんとストレートに伝えられるくらいの近さになっているということですか。もはや少しも好意を隠そうとしない黒猫の態度に押されっぱなしの主人公。いや、もう、今回の黒猫が仕掛けてきた攻勢は、正ヒロイン格のイベント目白押しってくらいですからね。それで彼女の気持ちを察せられないなら、むしろ爆発してしまえってものです。

だから、そんな黒猫の様子に、桐乃が気づかないわけがないわけで。妹であることを活かした、京介の嫉妬をあおる方法はずるくはありますが有効打でしたね。自分のことを心配してくれている間は、兄の心は自分に向けられているという、そんな安心感がそこにはあったのでしょうか。その独占欲がどこから来ているのか、「すき」という気持ちがどんな種類なのか、まだはっきりとはしていませんが、どんな形にせよ、今回のやりとりで桐乃は結構な貧乏くじを引かされてしまってる感じが。京介からは大切にされているという実感は得られたけれど、「妹」以外の気持ちでは接してもらえないということが明確になったようなものですから。いつか誰かに京介の中での一番の座を奪われてしまう、そんな恐れと焦りが今回の暴走劇を生み出した原因じゃないかとも思えてしまいます。

黒猫は黒猫でそんな桐乃の気持ちを十分以上に分かってるような感じですね。京介を巡って対立することさえも覚悟して、それでも欲張りな彼女のように、京介も桐乃も失いたくないと言葉にする黒猫。これまで曖昧にしてきた気持ちを、ようやくはっきりと形にしたという心境とそこから生まれる関係の変化こそが今巻の終盤にして最大の山場なのは間違いないでしょう。というか、ここまで一気に関係を進展させようと思った理由をぜひとも語ってほしいところ。桐乃の気持ちに引導を渡すというような意地の悪い意味ではなくて、きっと、彼女の姿から得たものを前向きに受け入れたからなんでしょうけれど。

ともあれ、劇的な変化をあっさりと告げて幕を閉じた今巻。次の展開がどうなるのやら、軽いものから重いものまでいろいろと考えてはみたものの良い答えは見つかりません。たぶん、形としては悪くない落ち着き方だと思うけれど、それだけで終わらず、さらに捻りを加えてくるのは間違いないと思われるだけに、この恋と友情のどちらを選ぶかな二択にどんな答えを見せてくれるのか次巻を楽しみに待ちたいと思います。

hReview by ゆーいち , 2010/11/11

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈7〉

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈7〉*1
伏見 つかさ , かんざき ひろ
アスキー・メディアワークス 2010-11-10
  1. 電撃文庫 []
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