ストライク・ザ・ブラッド〈6〉 錬金術師の帰還

stars ああ、そうかよ。だったらおまえが世界の中心じゃないことを、力ずくで教えてやるよ!

ストライク・ザ・ブラッド 6 錬金術師の帰還 書影大

中等部の修学旅行で本土に行くことになった雪菜たち。その間、彼女の監視から解放されると知って喜ぶ古城と複雑な雪菜。そんな古城たちの前に現れたのは、天塚汞と名乗る錬金術師だった。
封印された錬金術の至宝──液体金属生命体〝賢者の霊血〟を復活させるため、〝魔族特区〟各地で襲撃を繰り返す天塚。そして〝賢者の霊血〟の暴走に巻きこまれた浅葱を待ち受ける悲劇とは……!?
世界最強の吸血鬼が、常夏の人工島で繰り広げる学園アクションファンタジー、待望の第6弾!

なんか、この作品、ヒロインたちの主人公にされる扱いが可哀想になってきますね。雪菜たちが修学旅行に行くということで肩の力が抜けるとか言ってみたり、浅葱さんは決死の思いで気持ちを伝えたのに、なかなか進展しないわ蚊帳の外だわ。そのくせ、古城はさらっとフラグを立てて周囲の女の子を増やしていくものだから、この先どうなるか分かったものじゃありません。

さて、2冊にわたって続いたお祭り騒ぎも終わり、日常に戻ってきた感じのする本編。事件の規模とか派手さとかでいうと今までのに比べるとやや地味かなあとか思ってしまいますが、実際はそんなことないですよねえ。巨大ロボですよ巨大ロボ(違) 錬金術といえば人造人間だったりゴーレムだったり、その本来の目的というよりは副産物で生み出される脅威の方が敵方としてはぴったりな雰囲気の技術。本作では、究極的には完全なる存在、人間を作り出すという目的の果てに生み出された賢者の霊血を巡って、偉大なる錬金術師ニーナ・アデラードや、その弟子にして離反した天塚汞による襲撃などから事件が始まります。

まぁ、この天塚汞という人物、目的と存在意義がネタバレなのでアレですが、今までの敵キャラに比べると小物感が強くて、力を取りもどしつつある第四真祖である古城に対する敵としては力不足感が否めないんですよね。必殺に近い能力も見せたりしてるけれど、主人公側はそれ以上にチートだったという……。事件が終わってみれば、彼もまた運命を狂わされた犠牲者ではあるのですが、それまでの所行がひどすぎるために、同情の余地はないというか。半ば使い捨てされてしまったキャラですが、結構以前のエピソードの回想もあったりするから、彼にもワンチャンある……?

一方のニーナはその在り方が非常に特殊な感じがしますね。齢270を越える錬金術の極地に至ったような大錬金術師。結果として彼女もまた古城の周囲に居座ることになりますが、年の功か何なのかラ・フォリアと似たように、古城を手のひらで転がすような天敵キャラになりそうな。手乗りなお姉さんキャラとはまた狙ってるなと感心しきりですが、使いどころの難しそうな設定でもあるなあ。

けれど、最も巻き込まれまくりなのは、浅葱さんで、事件の渦中に至ること多数にして、今回の事件では一歩間違えば舞台から退場という、ヒロインの中でも扱いが一番ひどくないですか? いや、そういう境遇の人物と言われればそれまでで、また、沙矢華さんもおんなじようないじられ体質ではありますが、事件に深く関わっている割には、真相を知ることがなかなかできないというのは、今後、大きな事件が控えていそうな気がしてきます。浅葱さんのパートナーであるAI・モグワイがつぶやいた、重要な役割を担っているという意味も、まだ明かされていないし、今後も微妙な距離感で古城を心配させまくるのでしょうか? 努力が空回りしつつ、ギャグ的にオチを付けてくれる殺人的料理スキルを発揮したりとキャラ付けががんがん強化されていますが、その分、もう少し美味しい思いをさせてあげて下さいお願いですから(笑)

主人公の古城もまた、少しずつ変わってきているという示唆が成されましたね。アヴローラとの出逢いと別れを経て変わった彼が、それ以前の彼に戻りつつあるということ。死んだと思われた彼女が、彼の母親の関わる場所で眠りながらも生存しているかもという可能性。そして、妹の凪沙に取り憑いている一二番目の目的など、少しずつ過去の事件の真相にも近づきつつあるのかな。

強大な第四真祖の力を持って戦うべき存在も、だんだんと明かされてきそうだし、お話的にも中盤を過ぎた感じでしょうか。メインキャラ以外にお目見えしたサブキャラたちも妙に強烈な個性を発揮してるし、どんどん物語は賑やかになっていきそうですね。……なんだよ、ニャンコ先生にジャパニーズニンジャかぶれな騎士って。いいぞもっとやれ。

hReview by ゆーいち , 2013/02/10

photo

ストライク・ザ・ブラッド 6 錬金術師の帰還 (電撃文庫)
三雲岳斗 マニャ子
アスキー・メディアワークス 2013-02-09