Home > Tags > 月宮あゆ
月宮あゆ Tag Archive
『たい焼きはKissの味』
「うぐぅ~」
遅れちゃうよっ。
きっと怒ってるよっ。
今日もいい天気。
青い空がどこまでも広がる……、そんな気持ちのいい初冬の午後。
息を切らせて駆けるボク。
弾む息が白く霞んで後ろに流れて行くよ。
流れる人波を器用に縫って、ボクは駆けて行く。
大好きな。
キミが待つあの場所へ。
『たい焼きはKissの味』
~Ayu Tsukimiya~
でも、間に合うかな?
たぶん、ダメかも。
また怒られちゃうっ。
ゴメンね、祐一君。
ボク、頑張ったんだよっ。
それだけは信じてねっ。
「遅い……」
「うぐぅ」
そうだけど……。
もうちょっと優しくしてもいいんじゃないかなぁ?
「ちょっと遅れただけだよ」
「ちょっと、ねぇ」
「うぐぅ」
駅前のベンチに憮然とした表情で腰を降ろしていた祐一君。
視線がボクに突き刺さるよ。
「頑張ったんだよっ」
「結果が伴わないのは変わってないけどな」
ふっ、と。
表情を柔らかくして困ったような苦笑を浮かべる祐一君。
良かったぁ、この笑顔なら許して貰えそうだよ。
「そんな言い方ないよ、祐一君。ボクだっていろいろと……」
言ってちょっと恥ずかしくなっちゃう。
うぐぅ、こんなこと言わせるなんて意地悪だよっ。
「いろいろと?」
「何でもないよっ」
気付かないなんて、祐一君の鈍感っ。
「たかが商店街歩くくらいで、そんな気合い入れておめかししなくてもいいって」
えっ?
「ったく、化粧なんてするガラかよ」
気付いてたのかな?
高鳴る鼓動を抑えるように、胸に手を当てて一呼吸。
「口紅なんて誰に貰ったんだよ」
そっと唇をなぞるボク。
気付いてくれてたんだね。
嬉しいよ。
「うぐぅ、名雪さんに……」
「あいつもほとほと世話好きだな」
「それと秋子さん」
「ぐぁ」
思わずのけぞる祐一君。
『ほらほら、あゆちゃんこんなのどうかな?』
『うぐぅ?』
『こっちも似合うと思うわよ?』
『うぐぅ~?』
『たまにはお化粧もしないとね』
『祐一さん、喜んでくれるといいわね』
『うぐぅ~~』
「あ、あの親子は……」
溜め息をつきながらも、
「オレを追い出すように急かしたのはそのせいかよ」
照れ臭そうに微笑んで。
そんな笑顔が。
ボクの大好きな祐一君の笑顔だったから。
ちょっとだけ勇気を出してみるよ。
ちょっとだけおめかししたボク。
「似合って、ないかな?」
祐一君にはどう見えるのかな?
「ああ」
「うぐぅ~~。ひどいっ! ひどいよ、祐一君!」
「う・そ」
「うぐぅ~~」
可笑しそうにボクを見て肩を震わせる祐一君。
なんだかひとりでバカみたいだよ。
情けなくて泣きたくなっちゃう。
「お、おい、あゆ……?」
「祐一君、意地悪だよっ」
嬉しかったのに。
せっかく喜んでくれてるかと思ったのに。
「ボクのこと、いつもいつもからかってばかりで……」
結局ひとりで喜んでばかりで、ボクって……。
「祐一君は楽しいかも知れないけど、ボクは楽しくないよ」
「まぁまぁ……」
ちょっと慌て気味にボクをなだめようと必死になる祐一君。
なんだか初めて出逢った時みたいだね、ボクたち。
「だって、いっつも祐一君ボクのことどう思ってるか言ってくれないんだもん」
「そんな事ないぞ」
「あるよ……」
「だって、いつも夜……」
「わーっ!」
ゆ、祐一君っ!
「な、何だよ……」
「な、何を言おうとしてるんだよっ、祐一君!?」
祐一君の声を遮って、思わず声を上げちゃったよ。
「何って……。あゆの~」
「うぐぅ~!」
顔がスゴく熱いよ。
恥ずかしさで顔から火が出そうだよ。
祐一君、そんなことここで言わないでよっ。
「ゆ、祐……」
「――寝顔、可愛いな、ってな」
――え?
ぽそりと言った祐一君の意外な言葉。
「はは、焦ったか?」
「うぐぅ……。やっぱり意地悪だよ」
祐一君から視線を逸らしてボクはぽつりと呟く。
やっぱりからかって楽しんでるんだよ。
「ボク、てっきり……」
「てっきり、何だよ?」
「うぐぅ」
真っ赤な顔のまま俯くボクに、
「何を考えてたんだろうなぁ?」
追い打ちをかけて来る祐一君。
もう寒さで震えそうな時期なのに、ボクの顔は赤く染まって、頬が熱くて、胸がドキドキして……。
「何でもないよっ」
ぷいっ、とボクは祐一君に背を向けて拗ねたフリ。
「ふ~ん……」
でも。
こんな意地悪ばかりする祐一君だけど、そんな祐一君もやっぱりボクの大好きな祐一君だから。
ちらりと首をひねって祐一君の顔を盗み見て。
「……ホントなの?」
祐一君の口から出たさっきの言葉が嬉しかったから。
「ん?」
祐一君がボクのことをそう想っていてくれたことが嬉しかったから。
「ボクの……、寝顔……、その……」
訊きにくいけど、やっぱりはっきり言ってほしいから。
「その……、可愛いって……」
確かめたいから。
くるりと振り返って、勇気を出して。
「――ホント?」
冬の空気に溶けそうな小さな言葉で。
今度はちゃんと答えてくれるよね、祐一君?
「――ったく」
苦笑混じりにそう呟いて。
立ち上がった祐一君がそのままボクを抱き締めて。
ぽん、とボクの頭におっきな祐一君の手の感触。
優しく子供をあやすようにボクの頭をなでる祐一君。
「うぐぅ、子供じゃないよ……」
「――ホントだって」
「祐一君……」
祐一君の胸の中、コート越しだけどボクは祐一君の胸にこつんと頭を当てて。
「ホントに?」
「ああ。ったく何度も言わせるな」
「うぐぅ、ゴメン。でも、祐一君、すぐにごまかすから……」
「ンな恥ずかしい台詞、さらりと言える訳ないだろーが」
「……ボクだって恥ずかしいよ。こんな所でいきなりなんだもん」
ボクの言葉に、慌ててボクを抱き締めていた両手を離す祐一君。
それからぐるりと辺りを見回して、
「ぐぁ……」
苦い顔で小さく呻いて。
「うぐぅ」
……。
「もうっ、ボクのマネしないでよっ!」
やっぱり祐一君は祐一君で。
それがボクにとっては一番嬉しいことだったんだって今さらながらに思い出して。
可笑しくてくすくすと笑い始めたボクに、不思議そうな顔をしていた祐一君も、ちょっと疲れた顔で、それから微笑んで。
ボクと同じように笑ってくれて。
ベンチの前で笑い合ってる可笑しなボクたち。
でも、これがボクたちらしくて。
「せっかくいい雰囲気だったのに……」
ちょっと残念だけど、ボクたちはボクたちらしくがいいよね?
「行こうか、あゆ?」
優しい笑顔でボクの方に手を差し出して訊いた祐一君に、
「うんっ」
ボクは大きく頷いて、祐一君の手を取るんだ。
おっきな、祐一君の手を。
あったかい、祐一君の手を。
大好きなひとの手を。
「行くぞ~!」
「わっ! いきなり走らないでよ~~」
駆け出す祐一君とボク。
やっぱりムードのかけらもないけれど。
楽しいからいいよっ。
とっても楽しいから。
祐一君がボクと一緒にいてくれるから。
祐一君に手を引かれ、通りを駆けるボクたち。
冬の空気に白く溶けるふたり分の弾む息。
軽快なリズムで歩を刻むボクたちの足音。
火照りから冷めない頬と、祐一君の手から伝わる温もり。
吹き抜ける風は冷たいけれど、気持ちいいよ。
透き通った空気が。
澄み切った空が。
とっても気持ちいいよ。
楽しそうに笑いながら駆ける祐一君の横顔を見上げながら。
ボクも自然に笑顔になっていた。
§
「はぁ……、疲れた」
「うぐぅ。祐一君、はしゃぎ過ぎだよ」
「あゆだって思いっきり楽しんでただろーが」
「だって楽しかったんだもん」
「俺は疲れた」
「ボクも疲れちゃったよ」
商店街をゆっくりと歩きながらぼやき続けるボクたち。
さすがに少しはしゃぎ過ぎちゃったよ。
「お腹空いちゃった……」
「おいおい」
「だって、ずっと動き回ってたんだもん。夕飯まで待てないよ」
少しだけ傾き始めたお陽さま。
西日がボクたちを優しく照らして影が長く尾を引き始めているよ。
もうちょっとで今日も終わりだね。
楽しかった時間って、ホントにあっという間だよ。
「そんなこと聞いたら秋子さん、がっかりするぞ」
「うぐぅ、ちゃんとご飯も食べるもん」
「――とは言え俺もさすがに腹減った……」
苦笑を浮かべてお腹に手を当てる祐一君。
「でしょ? そうだよね? そうだと思ったんだよ!」
ここぞとばかりにボクは祐一君に決断を迫る。
ここが勝負どころだよっ。
「じゃ、ちょっとだけ何か食うか」
ちょっとだけ思案顔を浮かべた祐一君が、にっこりと笑ってそう言った。
「うんっ」
ボクも元気に首を縦に振る。
やったねっ、言ってみるものだね。
「それじゃ……」
祐一君の言葉を遮って、ボクは口を開く。
「祐一君?」
「ん?」
「やっぱり冬はたい焼きだよね」
「そうなのか?」
「たい焼きは焼きたてが一番なんだよ」
「まぁ、そうだろうな」
「――と言うことで、たい焼きが食べたいな、ボク」
「……俺には選択の自由と言うものはないんだな?」
呆然と呟く祐一君。
ちょっと可哀想だけど、ゴメンね、たい焼きはゆずれないよ。
「もちろんだよ」
「――ま、まぁ、そろそろたい焼きも美味い頃だろうし構わないけどな」
「違うよ」
「何が?」
「たい焼きはいつでも美味しいんだよっ」
だってボクの大好物だもんっ。
「こんにちは、おじさん」
たい焼き屋さんの前で、ボクはおじさんに声を掛ける。
ボクの行きつけのたい焼き屋さん。
「いらっしゃい……って、いつぞやの食い逃げの嬢ちゃんか」
そういう覚え方はやめてよ、おじさん。
「うぐぅ、お金ちゃんと払ったもん」
「でも食い逃げしたのは事実だろ?」
隣でぼそりと小声で呟く祐一君。
うぐぅ、意地悪。
「ははっ、ウチのたい焼きを食い逃げしたのは嬢ちゃんが最初で最後だろうからな」
「うぐぅ」
「今日もたい焼きかい?」
「うん、ちゃんとお金もあるから売ってくれる?」
「大丈夫ですよ、おじさん。俺がちゃんと責任を持って買いますから」
「ははは、買ってくれるなら文句はないからな。嬢ちゃん俺の店の常連だし、兄ちゃんも買ってくかい?」
「じゃ、ふたり分で五個ください」
「はいよ」
さすがおじさん。
手早く焼きたてのたい焼きを袋に包んで祐一君に渡したよ。
「毎度。一個はおまけだよ」
「うぐぅ~。ありがとう、おじさんっ」
やっぱりいいおじさんだよ。
「また来てくれよ」
「うんっ」
笑顔で言ってくれたおじさんに、ボクも笑顔で頷く。
おじさんのたい焼き、大好きだから絶対また来るからねっ。
「たい焼き、たい焼き」
さっきまでの疲れが嘘のように足が軽いよ。
たい焼き、早く食べたいな。
でも、もうちょっと我慢しないとね。
「嬉しそうだなぁ」
「うんっ」
祐一君の隣をゆっくりと歩きながら、祐一君の言葉に答える。
「ひとつ食べていい?」
「ダメ」
ミもフタもなく即答されちゃったよ……。
「もうすぐ公園に着くから我慢しろ」
「うぐぅ、早く食べないと冷めちゃうよ」
「大丈夫だ。まだ熱いくらいだからな」
「うぐぅ」
「我慢我慢」
「分かったよ……」
今日の終わりを告げようとする赤い空と茜雲。
冷たさを増し始めた木枯らしに、ボクは小さく身を震わせる。
ちょっと寒くなって来たね。
「あゆ……?」
祐一君のコートの袖を、きゅっと掴んだボクに祐一君が問い掛ける。
寒さに少しだけ紅潮した頬。
祐一君を見上げるボク。
祐一君は何も言わずに、ボクの肩をそっと抱いてくれた。
あったかいよ、祐一君。
「ふふふ」
「何だよ……」
「あったかいね」
「ばーか」
肩にのった祐一君の手にボクの手を重ねる。
ちょっと照れるね。
祐一君の温もりに重なるボクの温もり。
こう言う幸せってなんだかいいよね。
早くたい焼きも食べたいけど。
こうして一緒に歩くのもいいかな?
贅沢だね、ボク。
こんな時間がずっと続いてほしいよ。
幸せだから。
大好きだから。
ね、祐一君。
冷たい風と穏やかな色の夕日が辺りを包んで。
ちょっと寒くて、あったかな光に照らされた道を、ボクたちはゆっくりと歩いて行くんだ。
祐一君の温もりを感じながら。
「――あ、やっと着いたよっ」
「やっとって距離でもないだろ……」
「早く食べようよ、祐一君」
ベンチに腰を降ろして祐一君を急かす。
祐一君が我慢しろって言うから我慢したんだからね。
「はいはい。ほら」
祐一君が取り出したたい焼きを受け取るボク。
ほかほかのたい焼きが、冷たくなった手のひらにしびれるような熱さを伝えて来るよ。
「うぐぅ~」
ぱくっ、とかぶりついてたい焼きを味わうボク。
口の中に広がる餡この甘みとたい焼きの熱さが身体をあっためてくれるよ。
やっぱりあのお店のたい焼きが一番だねっ。
「美味しいよ~」
「美味いな」
ひとつ、ふたつ、と祐一君の持った袋をもぎ取るようにどんどんと食べちゃうよ。
うぐぅ、夕飯食べれるって言ったけどちょっと心配になっちゃった……。
でも、でもっ。
たい焼きの魅力には勝てないんだよ、ボク。
「ふう……」
「ボク、お腹一杯になっちゃったよ」
「だから言っただろ。食い過ぎだって、お前」
「うぐぅ。美味しいんだもん」
言い訳がましいけど、ちょっと反省するよ。
せめて二個にしておけば良かったね。
「ほら、口元に餡こが付いてるぞ」
「えっ?」
――どこ?
そう訊こうとする前に、祐一君。
ちゅっ
――え? え?
「うぐぅ!?」
な、なんでいきなり……?
「やっぱり甘いな~」
「あ、当たり前だよっ、たい焼きの餡こだもんっ」
もうっ、全然雰囲気出ないよ。
もうちょっと、こう、ボクの気持ちも考えてよ。
「じゃあ、こっちは?」
そう言って、そっと指先でボクの唇に触れる祐一君。
「食べる前に口紅拭いたほうがよかったと思うんだよな、俺は」
「うぐぅ。そんなこと言ったって、口紅塗ってたの忘れてたんだもんっ」
それに……。
「いきなりはびっくりするよ、祐一君……」
ボクの言葉に、にっ、と笑った祐一君。
「――いきなりじゃなきゃいいのか?」
「うぐぅ」
ズルイよ。
そんなふうに訊くの。
ボク、どう答えればいいのか困っちゃうよ。
「……」
「あゆ……?」
「訊かないでよ。――ボクだって恥ずかしいんだからね……」
視線を落として呟いたボクの頬に、祐一君は手を添えて。
「あゆ……」
優しくボクの名前を呼んでくれて。
「――祐一君」
ボクも祐一君に答えて。
顔を上げて祐一君の瞳を覗き込む。
目を細めてスゴく優しい笑顔で。
祐一君の顔がゆっくりと近付いて。
ボクは目を閉じて。
祐一君の胸に手を添えて。
「……ん」
そっと触れ合う唇。
暖かな、柔らかな感触。
肩を抱いた祐一君の手に少しだけ力が込もる。
ボクは祐一君に身体を預け、祐一君の温もりを。
身体いっぱいで感じていた。
あったかいよ、祐一君。
冬の寒さは厳しいけど。
祐一君がいてくれるから、寒くないよ。
甘いね。
とろけそうな甘いキス。
ちょっとだけたい焼きの味。
大好きな祐一君と、たい焼き味のキス。
あったかいよ、祐一君。
幸せだよ、祐一君。
大好きだよ。
祐一君。
-了-
- Comments: 0
- Trackbacks: 0
『ずっと大好きなままでいて』
夢みたいだよ。
今、こうしてキミと同じ時を過ごしているなんて。
もう、こんな風に君の温もりを感じることなんてできないと思っていたから。
嬉しいよ。
とっても。
幸せだよ。
誰よりも。
だから。
ずっとずっと。
ボク、キミのこと好きでいられるんだよ。
ね、祐一君?
ずっとずっと。
キミも、ボクのこと好きでいてくれるかな?
ボクの、お願いだよ。
お願いを叶えてくれた天使の人形はもうないけれど。
聞いてくれる?
ね、祐一君?
ずっとずっと。
キミのことを大好きなままのボクでいるから。
ずっとずっと。
キミもボクのことを大好きなままでいてね。
お願いだよ。
祐一君……。
-Short Short Happiness-
『ずっと大好きなままでいて』
『ありがとう』
何回キミに言ったんだろうね。
『幸せだよ』
何回キミに言ったんだろうね。
でも。
ボクの正直な気持ちだから。
本当に。
本当だよ。
キミがボクを選んでくれて。
嬉しかったから。
ボクがキミの隣にいられて。
幸せだから。
何度言っても。
ボクの想いを全部伝えるなんて、きっとできないと思うんだよ。
でもね、少しでも伝えたいから、知って欲しいから。
何度も。
何度でも。
繰り返し、キミに言うんだよ。
ほんの何気ないキミの優しさに。
『ありがとう』
って。
こんな風に一緒に過ごす時間に。
『幸せだよ』
って。
朝も。
昼も。
こんな静かな夜も。
いつも。
どんな時も。
幸せだよ、祐一君。
こうしてキミの腕の中で。
こうしてキミに抱かれて。
キミの息遣いと。
キミの鼓動と。
キミの温もりを感じて。
キミに愛されて。
キミに満たされて。
幸せを全身で感じて。
もっと。
キミを感じたくて。
もっと。
ボクを感じて欲しくて。
キミを求めて。
キミに応えて。
重なる鼓動から。
混ざり合う吐息から。
融け合う温もりから。
ボクが伝わってるかな?
ボクを感じてくれてるかな?
ボクはすごく感じるよ。
キミの想いを。
キミの優しさを。
キミのこと全部が分かるくらい。
身体だけじゃないよ。
心でも。
キミを感じられるよ。
いっぱい。
いっぱい。
ボクを満たしてくれるキミを。
痛いほど。
幸せで。
涙が出ちゃうくらい。
いっぱいの優しさを。
キミの想いを……。
祐一君。
ボク、約束するよ。
ずっとずっと。
キミのこと大好きでいるって。
こんなボクに幸せを教えてくれたキミを。
悲しい夢から目覚めたボクを愛してくれたキミを。
ずっとずっと。
大好きでいるって。
ずっとずっと。
君だけのボクでいるって。
約束するよ。
だから。
お願いだよ。
ずっとずっと。
大好きでいてね。
ずっとずっと。
変わらない祐一君でいてね。
ボクはキミの側にいつでもいたいから。
キミの笑顔に包まれていたいから。
ひとつお願いが増えちゃったけど。
叶えてね。
祐一君。
ずっとずっと。
こうしてキミの寝顔を君の横で見ていられるのが。
季節が何度巡っても君の笑顔を見ていられるのが。
ボクだったら嬉しいよ。
夜が更けて来たね。
ボクも、そろそろ眠くなってきちゃったよ。
キミの腕の中。
あったかくて、スゴく好きだよ。
ボクだけの特等席だね、祐一君。
ね、祐一君?
キミの寝顔がこうして見れて。
やっぱり嬉しいよ。
とっても幸せだよ。
本当に。
いっぱいの。
幸せを。
ありがとう……。
祐一君。
それじゃ……。
おやすみ、祐一君。
ずっとずっと。
大好きだよ。
- Comments: 0
- Trackbacks: 0
同じ空の下で
――空が高いよ。
目に染みるくらい綺麗な夕焼け空。
あんまり綺麗で、涙が出ちゃいそうだよ。
どうしてだろうね?
こんな綺麗な夕焼けなんて、この季節にこの街じゃ、めったに見れないっていうのにね。
キミも今のボクと同じ空を見ているのかな?
そうだと嬉しいよ。
だって、離れていても、キミと同じ空の下にいるんだって思えるから。
ね、祐一君。
“Kanon”Short Story
同じ空の下で
ねぇ、祐一君?
ボク、すっごく永い夢を見ていたみたいなんだ。
覚えてる?
覚えてるよね?
七年前のあの冬に、ボクたちの時間は、悲しい想い出と一緒に凍りついちゃったんだから。
たったふたりだけの。
ボクと、キミだけの学校でね。
夕陽と雪と森の木々が作り出したボクたちだけの学校でね。
ボクはキミが来るのを遠くの景色を眺めながら心待ちにしていたんだよ。
ボク、木登り得意だったからね。
祐一君は恐がって、結局いっしょにあの風景を見ることができなかったけれど……。
残念だよ。
いっしょに見たかったなぁ……。
とっても綺麗なんだよ。
もう、キミの恐がりも直ったのかな?
祐一君、男の子なんだから、ボクに負けてちゃいけないよ?
いっつもボクのことからかってたんだから、ボクにからかわれちゃ格好つかないよ?
ほら、きっとこんな綺麗な夕焼け空で染まった街は、どんな風景よりも綺麗だと思うよ。
そう思わない?
祐一君。
今度はキミと一緒にあの風景をもう一度見たいよ。
ねぇ、祐一君?
ボク、すっごく永い夢を見ていたみたいなんだ。
ボクとキミはあれから七年後のこの街で、あの時と同じ雪の舞う季節に出逢うんだ。
祐一君、ちっとも変わってなくて、やっぱりボクにはいじわるで、でもやっぱり優しくて、キミの口から懐かしい名前を聞いたときは涙が出そうなくらい嬉しかったんだよ。
キミの方はボクのことなんてちっとも覚えていなかったみたいだけれど。
しょうがないよね。
ボクだってあの日、あの場所でキミにどうして出逢えたのかなんて全然分かんなかったもん。
でも、今のボクならなんとなく分かる気がするよ。
約束、したもんね。
時間が、想い出が凍りつく直前の小さな小さな約束。
その約束があったから、きっとボクとキミはもう一度逢うことができたんだと思うんだ。
そして夢の中で、ボクとキミはいっぱい、いっぱい遊ぶんだ。
七年前の、ちっちゃかった頃のボクたちみたいに。
たい焼き屋さんも行ったね。
おいしいお店にも行ったね。
ゲームセンターで遊んだね。
祐一君のいとこの娘……、名雪さんのお家でまるで本当の家族みたいに過ごすこともできたね。
ボク、ずっとひとりだったから、すっごく幸せだったよ。
あんな優しくて、あったかくて、楽しいお家に住んでいるなんて、祐一君がすごく羨ましかったよ。
ほんの数日間だったけれど、ボクも家族の一員になれたんだよね?
ありがとう、祐一君。名雪さん、秋子さん……。
ボク、幸せだったよ。
本当に、ありがとう。
それから。
祐一君。
ボクを選んでくれてありがとう。
嘘みたいだね。ボクと祐一君が……。
『ホントにいいの?』って何度も訊いたね?
きっと嬉しくて、そんな幸せの中にいるボクが、ボクじゃないような気がして、不安で、恐くて、それであんな風になっちゃったんだよ。
それに、名雪さんみたいな綺麗なひとがあんな近くにいるんだよ?
ボクを選んじゃったら名雪さんきっと悲しむから。
祐一君のこと、大好きだけど……、名雪さんもおんなじくらい大好きになっちゃったから。
だからボク、恐くなって何度も訊いちゃったんだよ、『ホントにいいの?』って……。
でも、キミは……。
『俺は、あゆがいい』って……。
『……俺は、あゆのことが好きだから』って……。
ボクのことを抱きしめながら、ボクが苦しくなるくらい強く強く抱きしめながら言ってくれたキミの言葉が、嘘じゃないっていうのが言葉だけじゃなくて心からも、身体からも伝わってきたから。
ボクはキミに応えられたんだと思う。
でも、ゴメンね、ムードのないボクで。
ボクも初めてだったから。
覚悟はできてたけれど、やっぱり恥ずかしくて、ちょっぴり恐くて。
キミの目から見たボクはどう映ったんだろう。
変じゃなかったよね……?
それと、優しくしてくれてありがとう。
祐一君の指も手も、唇も、全部が全部あったかくて優しくて……、嬉しかったよ。
繋いだ指先も、触れ合う唇も、ボクの中にあるキミも、全部が全部ボクを満たしてくれて……、幸せだったよ。
幸せな夢の最後に。
本当に最高の想い出を貰ったよ。
ありがとう。
祐一君。
そして、ボクの夢は……。
幸せだったはずの夢は。
いつまでも続くと思っていた夢は。
現実だと信じて疑うことのなかった夢は。
凍った時間がゆっくりと溶けだしたあの瞬間……。
悪夢に変わったんだよ。
ねぇ、祐一君。
恐い夢から覚めるときってどんな感じ?
あの時のボクはね。
今までボクを支えてくれていた地面が一瞬にして消えちゃって、どこまでも落ちて行くような感じだったよ。
それで夢から覚めることができれば良かったんだけれど。
どこまでも、どこまでも落ちて行くのに目は覚めなくて。
自分が今まで思っていたことも、想っていたことも、信じてきたことも、感じてきたことも全部が消えていって、残ったのは夕焼けの色と雪の色だけ。
恐かったよ。
どうしようもなく恐かったよ。
やっぱりボクはボクじゃなかったんだって。
少しずつ感じていた違和感が、決して思い過ごしじゃなかったんだって、いきなり告げられて……。
キミから逃げだしちゃった……。
ゴメン。
ホントにゴメンね、祐一君。
でも、恐かったんだ。
目の前のキミも幻なんじゃないかって。
全部ボクの身勝手な空想が生んでしまったキミだったんじゃないかって。
ここにいるボクは一体なんなんだろうって。
頭の中がぐるぐるまわっちゃって、混乱しちゃって。
これ以上、ボクの姿をキミの優しい目で見てほしくなかったんだよ。
キミがこれ以上ボクのことを必要とする前に、ボクがいなくなっちゃえば、キミはまだボクのことを忘れられるかと思ったから。
『お待たせしましたっ』
キミにとってすごく残酷なお願いだと思ったけど。
『それでは、ボクの最後のお願いですっ』
最後のお願いは……。
『……祐一君……』
お願いすることのないはずだった三つめのお願いは……。
『……ボクのこと……』
七年前にキミがくれた、そして今キミがまた見付けてくれた、ボクの探し物への最後のお願いは……。
『……ボクのこと、忘れてください……』
ゴメンね、祐一君。
『ボクなんて、最初からいなかったんだって……』
ホント身勝手だよね、ボク。
『そう……思ってください……』
こんなお願いなんてしたくないのに。
『ボクのこと……うぐぅ……忘……れて……』
こんな……お願いなんて……。
もう、お願い……なんて……ないのに。
キミを忘れるなんて出来るはずないのに。
キミの中からボクが消えてしまうなんて、死んじゃうよりも辛いのに。
キミの苦しそうな顔を見るのなんて、死んじゃうよりも辛いのに。
ゴメン。
ゴメンね。
こんなヒドイこと言って、それでも……。
キミのこと忘れるなんて出来るはずないのに。
心が痛いよ。
キミの苦しそうな顔が心に痛いよ。
キミの痛みは、ボクの痛みだから。
『お前は子供だ』
キミの胸に抱かれて。
『ひとりで先走って、周りに迷惑ばっかりかけてるだろ』
キミの腕の中で強く強く抱きしめられて。
『そのくせ、自分で全部抱え込もうとする……』
このままキミに抱かれながら、壊れるくらい強く抱きしめられて。
『その、小さな体に、全部……』
キミの中に、少しでもボクが残るなら。
『お前は、ひとりぼっちなんかじゃないんだ』
ホントに壊してほしかった。
だから。
だから、祐一君。
ボク、ホントは……。
ホントはね……。
お別れなんてしたくないよ。
『もう一回…祐一君と、たい焼き食べたいよ……』
たい焼きの味は涙の味なんて想い出よりも……。
『もっと、祐一君と一緒にいたいよ……』
もっと祐一君を感じたいから……。
『こんなお願い……いじわる、かな?』
いじわるだけど。
『ボク、いじわる、かな……』
でも、やっぱり、キミと……ずっと……いっしょに……。
いたいよ……。
だから……。
今のキミの答え。
ボクの都合のいいように取っちゃうからねっ。
もう、訂正してもダメだからねっ。
キミも、ボクと同じ想いなんだって思って。
キミの、笑顔といっしょに、ボク、行くよ?
ボクの夢は、これで終わるかもしれないけど。
もし。
もしだよ?
夢から覚めたボクがボクだったら。
必ずボクのところに来てねっ。
ボク、ずっと、ずっと、キミのこと待ってるから。
必ずだよっ!
――必ず。
ボクも待ってるから……。
――キミの温もり。
忘れないから。
とりあえず、さよならだよ、祐一君。
――大丈夫。
きっとまた逢えるよ。
――だから。
さよなら、祐一君。
さよなら、ボクの……。
ふわふわするよ。
ここ、どこかな?
まだ、夢を見ているのかな?
だったら。
こんな夢、覚めちゃってよ。
ボク。
祐一君のいない世界にひとりぼっちなんて。
絶対いやだよっ!
だから。
こんな夢、覚めちゃってよ。
お願い……だから。
光……。
雪よりも白い輝く光。
なんだろう……。
すごく綺麗。
ボク。
どうなるのかな……?
やっぱり。
もう、祐一君に、逢えないのかな。
イヤだよ。
逢いたい。
逢いたいよっ!
祐一君っ!
ひとりぼっちはもうイヤだよっ!
光……。
雪よりも白い輝く光。
なんだろう……。
雪のように舞ってボクのところに降りてくるよ。
――え?
羽……?
真っ白な、雪よりも輝く光の羽。
これって……。
これって……、もしかして。
羽が……。
雪のように降ってくる真っ白な羽が……。
ボクの手のひらに集まるよ。
雪のように冷たくて、でも。
とってもあったかいよ。
まるで。
キミみたいだね、祐一君。
ボク。
がんばるよ。
きっと。
この白い闇の降りた夜も。
きっと明けるから。
ボク、待つよ。
この輝く羽は、キミとボクの約束の証だから。
まだ、どれくらいかかるか分からないけど。
待っててね、祐一君。
ボク。
がんばるから……。
この真っ白な空も。
君の待つあの街のあの空に続いていると信じているから……。
だから、待っててね、祐一君。
いつか、きっと。
キミと同じ空の下にボクも辿り着くから。
―了―
- Comments: 0
- Trackbacks: 0
Home > Tags > 月宮あゆ
- 応援中
- サイト内検索
- フィード
- メタ情報
- 49 queries.
- 0.505 seconds.
