公園のベンチ

1998年10月14日

TOMOさんより寄稿いただいた、ToHeart SSです。

公園のベンチ

夏の厳しかった暑さは和らぎ、秋の訪れを見せ始めた今日この頃。

草木には赤味がかかって来ていた。

風が涼しさを運んでくる中、あかりは散歩の途中にいつもの公園に足を向けた。

公園の中では、子供達が夏の終わりを惜しむように遊んでいる。

砂場、アスレチィック、サッカーなど。決して狭くない公園の中を狭いと言わんばかりの元気の良さで、走り回っている。

 

あかりはベンチに座り、子供達を眺めている。

時折見せる微笑みの奥には、子供達に自分たちの影が重なって見えていた。

過ぎ去った無邪気な子供時代。

そして迎えた、思春期。

 

悩んだ。

自分のこと。親との関係。

友達との付き合い。

 

そして・・・浩之の事。

 

あかりにとって何より辛かったのは、お互いが分かり合えなかった事だった。

気持ちがすれ違い、焦り、更に2人の溝は深まった。

どれほど悩んだことだったか・・・。

今、思い出しても胸が苦しくなる。

二度とあんな思いはしたくない。

 

二度と・・・

 

不意に首筋に当てられた冷たさに思考が止まった。

「きゃ!?」

驚いて振り向くと、そこには缶ジュースを持った浩之が立っていた。

「浩之ちゃん・・・」

「ははっ。驚いたか?・・・ほら。」

そう言って、さっき缶ジュースをあかりに手渡す。

「ありがとう。頂くね」

あかりの隣に腰掛け、さっきのあかりと同じように公園で遊ぶ子供達を眺める。

「懐かしいな、あんなに小さい時あったんだよな」

「そうだね、懐かしいね」

2人はしばらく子供達が遊ぶ風景を眺める。

「ねぇ、あの時のこと覚えてる?」

「何だ、また昔話かよ」

口調こそはうんざりした様子でも、目は優しい光を灯している。

あかりにしか向けられない、あかりしか知らない浩之の目。

「浩之ちゃんは昔話嫌い?」

のぞき込むように浩之の顔を見るあかり。

「いや、好きだぜ。」

「そうだよね。嫌いな訳ないよね」

『俺達(私達)の大切な時間だから』

見事に声が重なる。

 

・・・・・・・・・

 

「そろそろ帰ろうか?」

「そうだね。随分長い散歩になちゃた。えへへ」

公園に子供の姿が消え、辺りは紅に染まっていた。

先に浩之が歩き出し、あかりはその背中を追うかたちになった。

浩之の背中を追っていると、不意に懐かしさがこみ上げてきた。

『いつからだっけ?この背中を見なくなったの・・・』

大きかったな、浩之ちゃんの背中。

でも今も変わらないね。

「おい、早く来いよ」

「う、うん」

不意の声に戸惑うあかりだけど、横に並んで歩くのにためらいはなかった。

付いて歩くより、並んで歩きたい。

ささいな願いだった。

それが、あかりのとっては大事な願いでもあった。

 

願いが叶った今、何を望めばいい?

これ以上何を願うの?

浩之ちゃんは、何を望んでるの?

 

「あかり。良いよな、俺達。一緒に居られて・・・」

 

そうだよね。それで良いんだよね。

「一緒」

に居ること。

それで良いんだ。

 

『また、あのベンチでお話しようね、浩之ちゃん』