あかりちゃん、浩之ちゃんとしっぽりする

春日ているさんから寄稿いただいた、ToHeart SSです。

あかりちゃん、浩之ちゃんとしっぽりする

 しとしとしとしと……。

 お昼過ぎから降り出した雨。
 そんなに強く降ってるわけじゃないんだけど、何だか気が滅入るのよね。

 今日のお空は曇り空。
 私の心も、曇り空……何ちゃって、えへへ。

 き~んこ~んか~んこ~ん……。

「起立」

 あ、今日の授業も終わりなのね。

「礼」

 ぺこり。

 ざわざわざわ……。

 んー……今日、傘持って来なかったなぁ……。
 ちゃんと天気予報見とけばよかった。

 でも、後悔先に立たず。
 しょうがないね……風邪引いちゃうかもしれないけど、急いで帰るしかない
かな……。

「あ、浩之ちゃん」

 昇降口で、浩之ちゃんを発見しました。
 これは奇遇ですね。

 浩之ちゃんも一緒なら、雨の帰り道もおっけーだよ。

「ひろ……」

 ……あ。
 あれは、来栖川先輩……。

「…………」

「え? 家まで送ってくれるの?」

 こくこく。

「いやぁ、悪いなぁ……まさか雨が降るなんて思わなくてさ、丁度困ってたん
だよ」

「…………」

「そんな、恩返しだなんて……俺の方が世話になってるのに」

 ……なぁんだ。
 よかったね、浩之ちゃん。

 雨に濡れなくて済むもんね。
 この間は私が傘を持ってたけど、今日は持ってないもんね。
 だから……浩之ちゃんが一緒に帰る理由なんか、ないもんね。

 それに……来栖川先輩と話してる時って、何だか嬉しそうだしね。
 私と話す時には、あんな顔してくれたことないもん。

 いいもん、1人で帰るんだから。
 ……いいんだもん。

 …………。
 こういう時は、勢いが大事だよね。
 歩いて行こうものなら、家に着く前に気持ちが疲れちゃうもんね。

 前に何かの本で読んだことがあるの。
 人間って、頭さえ濡らさなきゃ大丈夫なんだって。
 確かに髪までびしょ濡れになったら……やる気も何もなくなっちゃうしね。

 ほら……行くのよ、あかり。
 浩之ちゃんは車で……私より後に出ても、きっと先に家に着いてるんだから。
 いつまでもここにいても、いいことなんかないんだよ。

 たたたっ……。

 頼りないけど、鞄を雨除け代わりにして。
 浩之ちゃん達が立ってるところより、少し離れたところからスタートだよ。

 びしゃびしゃと、靴が水をはねてる感覚。
 もう……このソックス、お気に入りなのに……どろどろになっちゃうね。

 その点、来栖川先輩は……今までびしょ濡れやどろどろになったことなんて
ないんだろうな。
 綺麗な人は、どんな時でも綺麗なんだもんね。

 いいなぁ、やっぱり女の私でも憧れちゃうよ。
 それに、浩之ちゃんと……。

 ……ああっ、こんなお天気だと気持ちまで湿っぽくなっちゃうよ。
 駄目駄目、しっかりしなきゃ……。

 ……でも。
 浩之ちゃんのこと、気になるよぉ……。

 雨に濡れて。
 頬を伝う、幾筋もの雫。
 そのうちのいくつかは、私の流した雫。

 それは、心の痕から流れ出す雫。
 癒えることなく、私を苦しめる痕……。

「おーい、あかりぃ」

「……えっ!?」

 ぱしゃぱしゃぱしゃっ……。

「何で走ってるんだよ、どうせ濡れちまうのに」

 浩之ちゃん……だよね?

「浩之ちゃんこそ、何で?」

 思わず、走っていた足が止まって。

 浩之ちゃん……来栖川先輩に、家まで送ってもらうんじゃなかったの?

「……何が?」

「…………」

 浩之ちゃんは、にっこり笑ってそう言って。
 私の横に並ぶと、頭の上にかざしてた鞄を下ろして。

「お前の後ろ姿が見えたからさ……どうせ濡れるんなら、誰か一緒にいた方が
いいだろ? 『旅は道連れ』ってな」

 ……世は、情け。
 ……ううん、情けなんかじゃないよね。

「浩之ちゃん、私の為に?」

 わざわざ追ってきてくれたの?
 折角、濡れないで帰ることが出来たのに?

「……だから、何が?」

 素知らぬ顔をする浩之ちゃん。
 でも、ちょっと引きつってるのがバレバレだよ。

「だって、昇降口で来栖川先輩と」

「世間話してただけだって」

 ……嘘、下手なんだから……。
 悪いけど、全部聞いてたんだよ?

「……そうなの」

「ああ、俺はじじい……先輩を迎えに来る執事なんだけどさ、奴が苦手だし」

 ……苦手なのは、本当みたいだね。
 でも……他は、嘘。

 私に嘘を言うなんて……許さないよ、浩之ちゃん?

「ね、浩之ちゃん」

「ん?」

 ぎゅ……。

「…………」

「浩之ちゃんの手、暖かいね」

 私も、頭の上から鞄を下ろして。
 私は左手、浩之ちゃんは右手。

 繋がってるところは、そこだけ。
 でも……とっても、暖かかったの。

「おう……風邪、引くなよ」

「……うん、気を付けるよ」

 浩之ちゃんと2人、いつもの帰り道。
 手を繋いだだけで、いつもと違うね。

 ゆっくりと、ゆっくりと。
 出来るだけ長く、この時間が続きますように……。

 ねぇ、浩之ちゃん。
 私、もう風邪を引いちゃったかも。
 だって……頭がぽーっとしちゃってるんだもん。

「……なぁ、あかり」

「……なぁに、浩之ちゃん」

 歩く速さは、いつもの半分。
 私が遅めたわけでもなく。
 浩之ちゃんが遅めたわけでもなく。

 2人の歩調が、自然と合ってたの。
 ……何だか嬉しいね、こういうの。

「雨だけどさ……ちょっと、散歩して行こうか?」

 ん……もうすぐ公園だね。

「うん……雨だけど、散歩したいな」

「そっか」

 ぎゅっ……。

 気のせいかもしれないけど。
 浩之ちゃんの手に、少し力が込められたみたいだったよ。

 しとしとしと、雨の音。
 足元からは、ぱしゃぱしゃぱしゃ。

 楽しいね、嬉しいね。
 雨降りって、最高だよね。

 いつもは憂鬱に感じるけど。
 今日ばかりは、この雨に感謝だね。

 そう思うでしょ……ねっ、浩之ちゃん♪

<お終いだよ>

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