冷たい風が吹き抜けて、私は少し身を震わせ道を歩く。うっすらと降り積もった白い粉雪に、私は足跡を刻みながらゆっくりと進む。
寒いけれど、それは決して嫌な寒さではなくて。
何故か、この身を切るような痛さにも似た冷気に包まれていることが好きで。
見上げた空の蒼さ。
夕暮れ時の昏さ。
街の灯の生み出す光と影が好きで。
だから、こうして街を歩くのは好きだった。
時が流れて、季節が移ろって、ひとが、街並が変わって。
私も変わったのだろうか……?
私の中の。
心の奥にしまった想い出も、いつかは忘れる日が来るのだろうか?
あの、安らぎと幸福に満ちた時間を。
幻にも似た時間を。
そして、唐突に訪れた別れの悲しみを。
私は忘れるのだろうか?
あの、季節を……。
ふと、思うことがある。
いくつもの時を重ね。
いくつもの想いを重ね。
そしてまた、凍りついた冬を越え、雪解けの季節を何度も迎え。
少しだけ。
ほんの少しだけれど。
変われたと思うことがある。
出逢いは別れの始まり。
終わりと言う季節の始まりだと言うことを。
そして。
別れは終わりじゃない。
また誰かと巡り合うための季節の始まりだと言うことを。
気付けたから。
春が好きになれた。
別れの季節。
でも、それは奇跡が舞い降りた季節。
風に揺れた若葉の芽吹いた丘で。
奇跡の始まりを目にした季節だから。
夏が好きになれた。
いつもひとりだった季節。
でも、それは違って。
私と共に過ごしてくれるひとたちが居てくれる事が嬉しくて。
そんな小さな幸せに気付けた季節だから。
秋が好きになれた。
鮮やかな紅と淋しさを纏う季節。
でも、それは美しくて。
佇み言葉も交わさないで見上げた木々の紅が目に染みて。
そんな季節の移ろいに泣ける私が居ることに気付けた季節だから。
冬が好きになれた。
すべてを凍てつかせ閉じ込める季節。
でも、それは短くて。
雪は溶け、陽を映し輝く水溜まりが眩しくて。
永遠に続くと思った冷たい季節にも、等しく終わりが来ると気付けた季節だから。
だから。
こんな季節の移ろいを感じることの出来るこの街を。
好きになれたのだと思う。
そう思える私自身も。
私を支えてくれたひとたちも。
全てを……。
少し時間に遅れてしまうだろうか?
私らしくない。
ふと、可笑しくて、こぼれた笑みに苦笑する私。
本当に、変われたと思う。
嬉しいと思う。
だから。
「遅~い、美汐」
私を見付けて、ふくれっ面で私の元に駆け寄るあの子と。
「珍しいな、遅刻だぞ」
そんな私たちを嬉しそうに目を細め見つめるあの人。
「はい」
私はいつも通り、平静を装って。
でも嬉しくて、幸せを感じて。
「これ、遅れたお詫びです」
こんな毎日がいつまでも続くことが嬉しくて。
笑えるようになった私が。
嬉しくて。
「わ~、ありがとっ」
「おっ、俺もいただきっ」
「あ~っ、ダメっ!」
「何だよ、こんなにあるじゃねーか」
「でもっ、美汐は真琴にくれたんだもんっ」
いつまでも、笑って居たい。
こんな温かな時間を。
いつまでも。
いつまでも。
「私も食べますよ」
変わらぬ私たちで。
「――真琴、相沢さん」
好きになれた。
巡る季節の中で。
-了-
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