現実は時として余りに無慈悲なものだ。
どれだけの願いも、祈りも、ただその流れの中では風化して記憶の中に閉じ込められてしまうから。
夢見るような幸せな時間は、やはり夢でしかなかったと、諦めの中で何度思い知らされた事だろう。
奇跡なんて信じていなかった。
残るものは想い出としての結果だけ。
そう思っていたから。
§
現実を信じれなくなった事があったよ。
自分の無力さが悲しくて、悔しくて、笑う事も出来なくなった時。
わたしに残されたものは何だったんだろう?
たったひとつの言葉?
たったひとつの想い?
かたちとして残された現実としての奇跡?
うん。
わたしの大好きなひとたちがいる。
今は、それだけでいいよ。
それがわたしの現実(いま)だから……。
『あの言葉、信じていいんだよね? 祐一』
§
奇跡なんて言葉はドラマの中だけで十分でした。
私になんて意味のない言葉でしたから。
だから憧れました。
幸せな虚構の世界に。
私でない私を見せてくれる世界に。
でも、違ったんです。
想いが。
出逢いが。
教えてくれたんです。
私が私である事の意味を。
今、ここにいることができている意味を。
ドラマだけじゃないんですね。
幸せな結末のある物語って。
だから。
今は信じています。
私自身を。
見守ってくれるあなたを。
ここにある現実(いま)を。
『なんだかドラマみたいですね……。大好きです、祐一さん』
§
難しい事なんて分かんないよ。
でも、今ここに真琴がいるってことはホントだよね?
悲しい夢の中で怒って笑って泣いて喜んで。
寂しかったよ。
温かかったよ。
冬は嫌いだったけど、少しだけ、好き。
でも、春はもっと好き。
あったかいから。
大好き。
ずっとこのままでいられるかな?
このずっとあったかい季節の中に。
それが真琴にとって大切な現実(いま) 。
きっと終わらないと信じているこの時間。
『ずっと一緒だよね。祐一』
§
何が欲しかった?
与えて欲しかった?
私の過ごした時間に、意味を。
待ち続けた時間に、意味を。
ずっと欲しかった。
心を預けられる誰かを。
私を受け入れてくれる誰かを。
生きる目的を。
見付かった?
多分……。
欲しかったものを見付けられた気がする。
ひとりでは弱い私を。
強くしてくれるひとを。
微笑んでくれるひとを。
守ってくれるひとを。
大切なひとのために。
自分のために生きる。
それがふたりが与えてくれた意味。
それが私の現実(いま)だから。
『三人で想い出を作って行ってくれる? 祐一、佐祐理……』
§
夢を見ていたんだ。
とっても幸せな夢。
とっても素敵な夢。
真っ白な天使の羽が。
願い事を叶えてくれたんだ。
小さな小さな願い事。
大きな大きな願い事。
ボクとキミだけの。
三つだけのおまじない。
奇跡だなんて思ってないよ。
夢から覚めただけだから。
ほら。
やっぱりキミがいるよ。
大好きだったみんなもいるよ。
幸せな夢の終わりには。
もっと幸せな現実(いま)が。
ほら。
こうしてあるんだから。
『ずっと待ってたよ……。おはようっ! 祐一君っ』
§
終わらない物語の終わりに。
無慈悲な時間が見せてくれたほんの小さな輝きに。
きっと。
今に続く現実(いま)があるのだろう。
だから信じたい。
信じて欲しい。
無慈悲な時間が見せてくれたほんの小さな輝きを。
それを奇跡と言うのなら。
きっと誰にでも奇跡は起きるのだから。
小さな奇跡から繋がる大きな奇跡を。
信じて欲しい。
ここにある現実(いま)を。
繋がってきた過去を、想い出を。
俺は、信じているから。
―了―
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