『あなたの素顔』

MR=13さんから寄稿いただいた、ONE~輝く季節へ~ SSです。

『あなたの素顔』

 ──卒業式の夜。オレはみさき先輩と結ばれた。
 オレと先輩、二人だけの教室で。
 
 ──月明かりが照らされている静かな教室、
 オレは、二人の衣擦れの音と呼吸とがやけに響くように感じた。
「…浩平君」
 先輩は、俯きながら小さな声で呼びかけた。
「何です? 先輩」
「あのね…、お願いがあるんだけど…聞いてくれるかな?」
「内容によるけどな」
 言いながらオレは、先輩の正面に立つ。
「…浩平君の顔、触らせて欲しいの」
 先輩はゆっくりと顔を上げて、そう言った。
「ハァ?」
「…ダメなの?」
「イヤ、そうじゃなくって…。
 何でまた、そういう事を…」
「浩平君の顔、どんなのか知りたいから」
「あ…」
 そうだった。先輩は目が…。
 オレは、相変わらずな自分の浅はかさを悔やんだ。
「…浩平君?」
 黙り込んだオレに、先輩が再び呼びかける。
「ご、ゴメン。先輩」
「何が?」
「オレ、また先輩の事気遣ってやれなくて…」
「…浩平君。
 私は、そんなのを言われる方がイヤなんだよ」
 先輩は、幾分表情を堅くして、オレの言葉を遮った。
「私、いつか言ったよね。
『普通でいいと思うよ』って。
 だから、これからもいつも通り接してればいいんだよ。わかった?」
「…わかったよ。先輩」
「よろしい」
 そう言うと、先輩は表情を崩して、オレに微笑みかける。
「じゃあ、怒らせた罰として…、
 浩平君の顔、触らせて貰うよ」
 先輩は自分の両手を、オレの前に向ける。
 オレは苦笑しつつ、先輩の両手首をつかんだ。
「はい、先輩」
 そのまま先輩の両手を、オレの顔に触れさせる。
「あっ…」
 先輩は、思わず嬉しげな声をあげる。
「じゃあ、いくよ」
 しなやかな先輩の指が、オレの顔をゆっくりとなぞりだした。
「えっと…、ここがおでこで…思ったより狭いんだね」
「浩平君、結構目が大きいね。
 …髪の毛、うっとおしくない?」
「…意外だね。浩平君、肌がすべすべしてる」
 先輩は、なんだかんだと言いながら、指を動かし続ける。
 時にはなぞる指の数を減らしたり、逆に掌全体で触れたりしている。
「…」
(先輩は頭の中にあるキャンバスに、オレの顔を描いてるんだな)
 丹念にオレの顔をなぞり続ける先輩の顔を見ながら、オレは思った。
 やがて、
「…………うんッ」
 先輩は、そう言ってオレの顔から手を離す。
「先輩、もういいのか?」
「うん。
 これで、浩平君の顔がいつでも思い浮かべられようになったよ」
「そうかい?
 それは良かったな、先輩」
 にっこりと微笑む先輩に、オレも笑みを返す。
「ねぇ、浩平君…。
 もう少しお話しよ」
「ん?ああ、いいぜ」
「じゃあ、屋上に行こっか?」
「いいよ」
 オレ達は、立ち上がって屋上へと足を運ぶ。
 入り口のところで、先輩がふと立ち止まった。
「そうだ。
 浩平君、やっぱり『浩平ちゃん』って呼んじゃダメ?」
 先輩は、振り返るなりいきなりそんなことを言い出した。
「なッ…?!」
 驚くオレに、先輩は続ける。
「だって、そんな感じだもの。
 『浩平ちゃん』って呼んだ方が絶対似合うよ」
「絶、対、イ、ヤ、だッ」
 オレは先輩の両肩に手を置いて、一字一句刻み込むように言い聞かせた。
 先輩は不思議そうな表情をしながら、
「……どうしても、ダメ?」
 訪ねる先輩に、オレは「ああ」と強く言って、先に歩き出した。
 
 浩平が歩き出したのを、みさきは遠ざかる足音で感じていた。
 みさきは、浩平を追いかけようと歩き出す。
 そのとき、小さな声でポツリと言った。
「いいと思うんだけどな~。『浩平ちゃん』」

(終)

(あとがき)
 今回は、前のと違って、
「ゲーム本編で、こういったシーンが欲しかったにゃー」といった、
 私のうわごと(^^;)を文章にしてみましたが・・・、
 正直、先輩の雰囲気が出ているかどうかが、ちょっと心配です。
 
 これからもSS書きに挑戦し続けますので、
 皆さん、生暖かい目で見守って下さい(^^;)。
 
 では、今回はこの辺で。