MR=13さんより寄稿いただいた、ToHeart SSです。
『春──未来予想図』
暦は三月── 。
空はどこまでも晴れ渡ってる、穏やかな小春日和。
そんな中、オレは──。
「せーのッ……とぉッ!!」
自分の家のリビングで、ソファーと格闘していた。
やっとの思いでソファーを動かしたオレは、さっきまでソファーがあった辺りの
所に
掃除機をかける。
「浩之ちゃ~ん。
今、すごい声がしたけど~?」
最後に、TVが置いてある棚を掃除しようとした時、二階からあかりの声が聞こ
えてきた。
「なんでもねーよッ!」
棚を雑巾で拭きながら、オレは大声で答えた。
「浩之ちゃ~ん。
大変だったら手伝うよ~」
再びあかりの声。
と同時に、階段を降りる音が聞こえてくる。
「いーっていーって!
そっちもまだ全然掃除が終わってねーだろ?!」
オレは慌ててそう言って、あかりが来るのを止めようとする。
「で、でも、そっちの方が大変なんでしょ?」
あかりの声が、もうすぐ近くから聞こえてきた。
「…あのなぁ。
オレに気を使わなくていいから、お前は自分の担当された所をやればいいんだ
って」
オレは雑巾がけを止めて、リビングの入り口に向かう。
「何で?」
ドア越しにあかりの声。
「…お前、一人じゃないのに無理なんかさせられるかよ」
言って、オレはドアを開ける。
その向こうに、あかりは立っていた。
「…えへへ、そう…だったね」
オレの言葉に、あかりは照れて俯いている。
そう。あかりは今、身ごもっているのだ。
オレとあかり。二人の子供を。
オレとあかりが、同じ大学へと進んでから三年が過ぎた。
そして、その年のクリスマス。
デートの帰り道、あかりは声を震わせながら言ったのだ。
「浩之ちゃん……、今まで黙っててごめんね。
私…できちゃったの」
と。
俯いて涙を流すあかりを、オレはそっと抱きしめつつ、
「バカ。泣くこたァねーだろーがよ」
「だって、浩之ちゃんに迷惑をかけちゃうと思って……」
「あのなぁ、オレがお前のこと、迷惑がると思ってるのか?」
「だって…、だってぇ……」
オレの胸に顔を押しつけ、泣きじゃくるあかり。
オレは、あかりの頭をそっと撫でつつ、
「…あのさ。
順番、逆になっちまったけどよ。その、二人で一緒に暮らさないか?」
自分の胸に刻むように、一字一句、キッパリと言った。
「!! …ほ、ホントに?」
「バァカ。
こんな大事なこと、ウソ言ってどうすんだって」
オレは、勢い良く顔を上げたあかりの目を真っ正面から見つめてそう言った。
「ひ……、
浩之ちゃぁぁぁぁんッ………」
あかりは、目に涙を浮かべながら、とびっきりの笑顔をオレに向けた後、
また、オレの胸の中で泣きじゃくった。
オレはあかりの頭をまた撫でつつ、ふと夜空を見上げる。
オレの顔に、小さな雪が舞い落ちて消えた。
そして、音もなく、雪が降り出してきた。
まるで、オレ達を祝福するかのように──。
それからは、大変だった。
それぞれの両親への挨拶から始まり──どっちも拍子抜けするほど、あっさり片
づいたりする──、
結婚式場探しからその日取り決め等々、この三ヶ月間は本当にあわただしい毎日
だった。
そんなオレ達に、ある日、朗報が飛び込んできた。
数年前から、仕事の関係で遠方にマンションを借りていたオレの両親が、
正式に向こうに住むことになったらしい。
そして、今オレが住んでる家をオレ達の新居としたらどうか?
と言われたのだ。
もちろん、二人とも即座に頷いたのは言うまでもない。
で。
今日の大掃除である。
これから二人の新居(?)となるわけだから、気合いも入ろうというもんだ。
もちろん、力仕事はオレ担当で、整理整頓とかの細かい作業はあかりの担当だ。
朝イチから始めたのだが、掃除が終わった時、時計の針は3時を指していた。
「ふぅーッ、バテたぁ」
ようやく家の大掃除を終えたオレは、豪快にソファーに倒れ込んだ。
「お疲れさま」
キッチンから出てきたあかりが、オレの傍らに座る。
「まいったぜ。
こんなにキツいとは思わなかったよ」
「もう、だから私も手伝うって言ってるのに。
浩之ちゃん、一人で張り切っちゃうんだから…」
「だからって、身重のお前に手伝わせられっかよ」
「浩之ちゃん…」
その時、開けていた窓から、微風が吹き抜けた。
ちょっと冷たかったが、火照った体にはちょうど良かった。
「ねぇ、浩之ちゃん」
「何だ?」
「…膝枕、したげよっか?」
思わぬ言葉にオレはちょっと戸惑いつつも、
「ああ、それじゃお願いするぜ」
と言って体をずらし、自分の頭をあかりの太股の上に載せる。
「………」
「………」
オレもあかりも、お互いの顔を見つめ合ったまま、一言も喋らないでいる。
ただ、時々、部屋に吹いてくる微風の音だけが聞こえてくる。
「あ、動いた」
「どれどれ……」
ふと、あかりが微笑みながら言ったのを聞き、オレはすぐにあかりの下腹部に耳
を当てる。
しかし、聞こえてくるのは微かな鼓動だけ。
「反応ないぞ」
「当たり前だよぉ。
だって、こういうのは本人しかわからないんだって」
「そうなのか?」
「うん。
ずっと前、何かの本で見たことがあるんだ」
「ちぇ、残念だな」
「まぁまぁ。
そんなに焦らなくっても、半年後には逢えるでしょ?」
ちょっとすねたようなフリをするオレを、あかりは苦笑しながらそう言った。
「半年後、ね…」
オレは耳を押し当てたまま、ゆっくりと瞼を閉じた──
…。
もうすぐ生まれてくるオレの息子よ、イヤ、娘かもな?
──子供の性別は、生まれてくるまで自分たちに開かさないでほしい。
これは二人で話し合って決めた事だ──
お前は相当な幸せ者だぞ。
子供は親を選べないっていうけれど、あかりは、間違いなく良い母親になれる。
で、お前はその愛情を一身に受けて育てられるんだからな。
オレは…正直、良い父親になれる自信はない。
けれど、そうなれるよう努力する。
ま、そんなワケだ。
半年後には、元気な産声を上げてくれよな。
「なぁ、あかり」
オレはス…と瞼を開ける。
「え?な、何?」
オレの目に、ちょっと戸惑っているあかりの顔が映る。
あの時と同じように、オレはあかりの目を見つめて、小さく、しかしハッキリと
、
「三人で、幸せになろうな」
あかりは、返事の代わりに微笑みを浮かべながら、両掌をオレの頭をそっと包み
こんだ。
その慈愛に満ちた微笑みは──間違いなく“母親”のそれだった。
──絶対、幸せに、なろうな──
──うん。浩之ちゃんと…二人の子供とで、ね──
──了──
あとがき。
『ToHeart』をクリアしてから、数年が経ってる今。
自分の『ToHeart』に対する想いを確かめるために、コレを書きました。
(それに、2/20はあかりちゃんの誕生日だし(^^;)。
本文を読めばわかるとおり、“本編あかりエンドの数年後”をイメージしました
相も変わらずな稚拙な文ですので、途中は読み飛ばしてもかまいません(ヲ)。
ただ、浩之のモノローグとラストは見ていただきたいかな、と。
(我ながら、コッ恥ずかしくなるようなシーンですので(^^;))
願わくば、この『未来予想図』のように、二人の未来が明るいものに
なりますように──。
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