極めて良質のノベライズ。新海氏の描く美しい映像の世界を豊饒にて見事に再現していました。というのは言い過ぎかな? けれど、場面場面で綴られる世界を描く一文から伝わる美しさは、またひと味違った情緒に溢れ、オリジナルを思い出しつつも切ない気持ちになります。ここまで読まなかったのがもったいなかったかも。あるいは、時間をおいたからこそ、こみ上げてくるものがあるのかもしれません。
映像作品で描かれなかったエピローグ的な部分が追加されているのですが、そこで描かれるわずかばかりの幸福な時間と、自分を取り戻すための再生のための別れは、それこそ、動いているようでその実止まっていたサユリにとっては不可避なものだったのかなと。想いを残しつつも、自立を決めたサユリの語る言葉のどれもが、雪のように儚いけれど、しっかりとした輝きを感じさせていたのが印象的でした。
本編と比較すると、丁寧なまでに人物の内面を描いていたのが高評価です。特に高校時代の浩紀と理佳の恋愛の移ろいは、本編では深く描かれなかったのとは対照的に、そこだけ取ってもなかなか読ませる内容になっていました。
総じて本編の空気を絶妙に文章に落とし込み、空気まで感じ取れるような繊細な文章が魅力的な一冊でした。素晴らしい。
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