手の届かない月なんかより大事なものは、ちゃんとここに在る
純血種のみの世界へ回帰する。バベルの中でキャロル=ユルングスが目論む計画は最終段階を迎えている。ルナとシオン、そしてロイド。バベルを目指し集うひとびと。稀存種同士の戦いはさらなる悲劇を呼び、混迷の度を深めていく。生き残るのは、そして世界の行方は……、答えはこの戦いの果てにある。
完結。クライマックスの盛り上げ方がいまいちと感じるのは、レジミルでも思ったのですが、風呂敷を一気にたたもうとするのと、これまでの登場人物を退場させようとするのを、最終巻でやっちゃおうとするから駆け足感を覚えてしまうのかな。
ロイドとカロマイン、そしてルナとフィオナの戦い。前者は過去からの因縁の精算。そして、後者は、正直予想していなかったけれど、フィオナの人格、人形めいた彼女の非人間的な言動は、彼女の根幹から生まれていたのだなあというのは、どうしようもない救いのなさですね。フィオナが唯一抱いていた、嫉妬という感情がすべてを狂わせてしまったのか、彼女の中に姉の姿をかすかに見ていたルナの決断も切ないやら苦しいやら。
壊れてしまったイユは、最後の最後に再び家族となれそうな存在を得たのに、その後の追い打ちはきついなあ。エピローグで希望を持たせているから、そういう未来はいつか訪れるのかと、前向きに受け取ることはできましたが。
結局、世界は何も変わらず、けれど未来へ続いている道は、少しだけ明るさを取り戻したかのようなラスト。クライマックスのカタルシスはいまいちだったので、エピローグの余韻に浸りまくるまでに行かなかったのは残念だけれど。過去を受け入れ、今、隣にいるひとを愛し、明日へ進むために手を取り合う。そんな、ようやく手に入れられた、ささやかな幸せを噛みしめ、これからも、混乱の残滓の残る世界で生きていく。ささやかだけれど、ルナとシオンの物語のひとつの結末として、微笑むことのできるものでしたね。
hReview by ゆーいち , 2008/03/22
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