神様のメモ帳〈3〉

stars 他人の心配しかしないんだよ。自分の心配ができるやつなら、あんなゴミ溜めに居着いたりはしない。

彩夏が戻ってきた。それは奇蹟にも思えるけれど、やはり神様は、世界はそんなに優しくはない。失われたしまった記憶。他人行儀に敬語で話しかける彩夏に対して、僕は何も言うことができない。そして、ふたりが再び揃い、活動を再開した園芸部にも生徒会長直々に廃部の通告をされる。居場所を守るために、園芸部存続のために、部設立のいきさつを探り、過去を追い求めていくと一つの事件に突き当たった。四年前の在校生の死亡事件、そこに関わったとされる人物のひとりはテツ先輩で……。

これにて一応の完結でしょうか? 思いの外爽やかなラストですね。まさか1巻のラストの報われなさから、ここまでプラス方向に物語が転じてくるとは、予想外。けれど、冷たい現実と、非情な社会の中において、行き場所を失くしていたナルミが、居ても良い場所、居たい場所、守りたい場所を見つけられたのは、それもまたささやかな奇蹟と言ってあげても良さそう。

今回は、優しい嘘つきたちの意地の張り合いみたいなお話でした。自分たちに居場所を与えてくれた恩に報いるために泥を被ることを選んだひとがいて。その意志を守るために、今の仲間たちに対して口をつぐむひとがいて。そして、そんな嘘つきたちの嘘を暴かざるを得なくなってしまったナルミ自身も、自らを欺き、そして彩夏にも本音を隠してしまい、距離を縮められないでいて。

けれど、どいつもこいつも自分より他人に優しいものだから、不器用に気遣わない振りして気遣って、結局は遠回りして元の場所に戻ってくる。何処へ行くこともできないようなニートたちは、そんな生き方しかできないからこそのニートなのかも知れませんね。

そして、その言葉を最も体現しているようなアリスも、自分の本音をナルミに明かせないような不器用さが微笑ましくも思えます。ナルミに抱いている思いとかは幼すぎて不器用すぎるアリスには当分は伝えることができなさそうですが、アリスの側にいることを約束したナルミと、その約束を守るためについた嘘を黙認するアリス。こんなささやかな嘘つきたちが、少しずつでも幸せに手を伸ばせていけるんじゃないかな、とかそんな思いも抱くことのできる、終幕でした。

hReview by ゆーいち , 2008/06/10

神様のメモ帳 3

神様のメモ帳 3 (3) (電撃文庫 す 9-8)
杉井 光
アスキー・メディアワークス 2008-06-10