もう戻れないよ。私は走るしかないの。このままどこまでも走って、磨り減って消えちゃうしかないんだ。
幼い頃の姉の失踪で心に傷を負った霧沢景介は、クラスメイトの灰原吉乃も同様に友人を失い、心を閉ざしてしまっていることを気にかけていた。二月。冬の空気の冷たい、そんなある日、景介は友人グループと遊びに彼女を誘うことを提案し、景介と吉野は少しだけ距離を縮めた。そして、その夜、すべてが終わり、すべてが始まる。夜の学校で景介が出会った少女は枯葉と名乗った。
[tegaki]黒い! 黒いよっ!![/tegaki]
物語の立ち上がりから、救いのない展開の連続。ひょんなことから、人外の存在と関わることになってしまった景介の苦悩が、終始漂ってこっちまで苦しくなりますね。
物語を引っ張ることになる景介と枯葉の関係が、その成り立ちからしてやるせないものなのは、黒さを売りにする藤原祐らしいというか。枯葉の心がそうさせるのか、あるいは吉乃の心がそうさせるのか、恐らくはふたりの心が景介を求めるからこそ、いきなりの求婚だったり、寄せる信頼だったりするのかな、と。
けれど、当の景介自身は、そんな想いを真正面から受け止めるだけの覚悟とかが最初はなくて、中盤までは巻き込まれ型主人公のご多分に漏れずへたれてましたね。まぁ、そこから覚悟を決めて渦中に飛び込めば、さすがに見せ場もありますが、これまでのシリーズの主人公のように特別に優れているわけではないので力よりも、心で戦うとかそんな感じの主人公になりそう。
そもそも、景介と枯葉たち一族の関係は、姉の失踪という大きな事件が関わっている可能性が高いだけに、いつかどこかで、大きな衝撃でもって景介を打ちのめし、どん底へ突き落とされる、一方的に損な関係に見えますね。けれど、そんな人間から恐れられるような、枯葉たちを気に入る奇特な性格であり、同時に、内に憎しみも抱えているという、そんな不安定な心を持った景介が、これから枯葉とどんな絆を築いていくのか、怖いながらも楽しみですね。
hReview by ゆーいち , 2008/08/08
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