境界線上のホライゾン〈1・下〉

2008年10月26日

stars じゃ、行こうか皆、――頼りにしてるぜ?

三河消滅の責任を、ホライゾンの自害という形で決着させようとする聖連。それはすなわち、極東が聖連の完全なる管理下に置かれることを意味していた。しかし、そんなことお構いなしに、ホライゾンにコクる、ただそれだけのために彼女を救おうとするトーリ。様々な思惑をはらみ、世界の運命が動き出す。

[tegaki]のっけから最終回並の盛り上がり![/tegaki]

上下巻合わせて1300頁に及ぼうかという物量、それ以上に圧倒される物語。いや、もう、言葉もないというか。これがシリーズ最初のエピソードというのだから、これからどれだけ盛り上げてくれるのか、とにかく楽しみでしかたがないですね。

前巻が、前代の世界の担い手たちの物語だとしたら、今巻でようやく今代の主役たちが揃い、動き出したといったところ。オヤジたちの渋い格好良さとは打って変わり、トーリをはじめとしたメインキャラたちの若さと熱さにぐいぐい引き込まれていきます。登場人物が多いのもなんのその、各キャラにしっかりと見せ場が用意されていて、読み終えてみたらあら不思議、だいたいのキャラの性格と顔と名前が把握できるじゃあありませんか!? とにかく設定を並び立て、そこに気圧されている暇なんてありません、こんなそれこそ先が気になって気になって、一気に読んでしまいました。

とにかく、これからようやく物語が動き出す、そこまでに至る遠大なエピローグが、上巻と下巻の半分以上、1000頁近くをかけて語られます。そして、アリアダスト学院生徒会のメンバーが結集した様を描く挿絵にまた圧倒。こんなのは作家と絵師が机を並べて仕事してるような環境じゃなければなしえないような構成。本気ですげええ。

いや、もう、どこを取り上げても見せ場しかないんで、いちいち語りまくっているととんでもないことになるので、どこを語りたいか迷ってしまうんですが、表紙を飾る正純の相対のシーンも、葵姉弟の過去話も、二代の雪辱も、白と黒の魔女の空中戦も、銀の騎士の一騎当千の戦いも、ああああ、もう、他にもいろいろあるんだってば! ノリ的にはもう、『終わクロ』のクライマックスを彷彿とさせる、息もつかせぬ怒濤の展開ですね。

“不可能男”と呼ばれるトーリも、彼だけが持つ、彼しか持ち得ない思いと力がついに明かされました。誰よりも馬鹿だからこそ、誰よりも無茶を言い、そして、それを頑なに信じ笑い続けることができるトーリ。彼が力を得るために行った契約の代償の大きさは、逆にこれから彼らが得ていくものの大きさと鏡映しのようで。彼が失ったものを、ホライゾンが得るという展開は、これから先の物語の展開の暗示めいていますが、彼がホライゾンに望んだように、物語の結末に互いに笑い合えるという、幸いを求めた戦いをこれから行っていくんでしょうね。ラストカットのイラストがひとときの安息を与えてくれますが、今後の物語でも、トーリは馬鹿で突き抜けて行って欲しいものですね。

ということで、この先の面白さへの期待に一切の不安なし。この壮大な物語がどこへ向かうのか、とにかく続刊を楽しみに待つ、その一手ですね。

hReview by ゆーいち , 2008/10/22

境界線上のホライゾン 1下

境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ)
川上 稔
アスキー・メディアワークス 2008-10-10