けれど、ひとつだけ、決して忘れないように。世界には、知るべきでないことがあるということを――。
青年は少女を連れて旅をしている。青年の名はヒューイ、少女の名はダリアン。胸に大きな錠前をぶら下げた彼女こそが、呪われ、失われた禁断の書物・“幻書”を納めたダンタリアンの書架への扉。そして、ヒューイの手にはその扉を開く鍵が握られていた。
幻書とそれを納めた図書館・ダンタリアンの書架。それの管理人であるダリアンと、書架を祖父から受け継いだヒューイの旅のお話。幻書によって与えられる人智を越えた力を得、それによって人生を狂わされたり、あるいは幸せを掴んだりと様々な結末を描いた短編集です。
この手のアイテムを手に入れたことで、その力に溺れ、振り回され、不幸な結末になるのは良くある話で、本作もダークな結末で締められる「美食礼賛」という短編からスタートするわけですが、良い雰囲気ですね。個人的にはもっと救われない話が多くてもいいかなとも思います。人間を不幸にする書架を帯同し、さらには力を与えるために幻書を貸与する、そんなヒューイとダリアンの行為こそが、悪であるとして動く焚書官のエピソードが最後で語られているだけに、両サイドから見たときに明確に善悪が反転しているだけに、ふたりが焚書官という存在を知ったとき――あるいはすでにその存在を知っているのかもしれませんが――どのような対立・対決になるのかも気になるところ。
断章で語られたふたつのエピソードは、誰の手によって幻書が持ち主に渡されたのか分からないままなのが謎めいていますね。ダリアン以外にも、幻書を管理する存在があるのか、幻書を使って何か思惑を持って動いているのか、そして焚書官の最終的な目的など、これから語られるべき物語には事欠かないようにも思います。
メインは幻書によって引き起こされる事件をヒューイたちが解決していく、その軸にさまざまな要素が絡んできて一本の物語を作っていくのかな、とそんな風に思います。
hReview by ゆーいち , 2008/11/16
- ダンタリアンの書架1 (角川スニーカー文庫 123-21)
- 三雲 岳斗
- 角川グループパブリッシング 2008-11-01
コメント