ダブルブリッド〈10〉

stars ありがとう、いってきます。

兇人・太一朗が二重雑種・優樹と対峙する。これが、太一朗にとって、そして優樹にとっての最後の戦い。かつての友人同士、人間だった者と人間でもアヤカシでもない者、今や互いを互いと認識できない者同士の最後の戦いが始まる。そして、物語は終わる。優樹と太一朗の、ちとにくとほねの、ものがたりが。けれど、世界は続いていく、これまでのように、これからもずっと。

あー、見事に完結してくれましたね。

“主”が絡んだΩサーキットや、クロスブリードといった勢力の結末自体も、物語の本筋である優樹の物語に組み込まれ、それぞれの風呂敷の畳み方自体は割とあっさり目な印象を受けましたが、伏線が一気に収束して完結してますね。これはすごいなあ。

そして、これまでさんざんな道を歩んできた優樹の物語も、ここで終幕。終盤の太一朗との会話は、ほんとうに懐かしく思えるくらいの待ちに待った場面でしたね。実際には、一気に読んだのでリアルタイムに待たされたひとに比べれば、圧倒的に短い時間なのに、そこに至るまでの流れがあまりに厳しすぎて、そんな風に思ってしまいますね。

物語の終わり方としては、ほんとうに綺麗。残された者たちは、また、様々な思いや罪を抱えて生きていって、逝った者たちは、それぞれがそれぞれの満足を胸に抱いて逝って、と多くの登場人物たちにちゃんとした結末を与えてくれてますから。

ああ、でも、やっぱり優樹と太一朗の再会は短すぎて悲しくなります。そこで交わされた言葉も、思いも、まさに万感が込められたものでしたが、願わくは束の間の幸せだとしても、それがもうちょっと続いていくのを見てみたかったなあなどとあり得ぬ夢を望んでしまいます。それでも、あの一瞬に等しいくらいの時間、互いにふれ合い、交わし合い、贈り合ったということ、それが、彼らがずっと望んでいた結末だということだけは感じられそうです。

毎度毎度、最後の挿絵には心揺さぶられましたが、今回のはその中でも最上ですね。あの表情を見たら、優樹が不幸だった、なんて私には言えないかなあ。

痛くて苦しくて悲しくて切なくて、けれど、優しくて気高くて美しい、そんな彼女の物語、堪能させてもらいました。

hReview by ゆーいち , 2008/11/26

ダブルブリッド〈10〉

ダブルブリッド (10) (電撃文庫 (1588))
中村 恵里加
アスキー・メディアワークス 2008-05-10