だから、死ぬまで生きていこう。死にたい死にたいって思いながら、生きていこう。
優樹が失われた世界。その世界で、太一朗と未知は渋谷の六課を目指し道を行く。決して分かりあうことのできない思い、許すことのできない罪、そして埋めることのできない溝を感じながら、それでも彼らは生きていく。それは片倉優樹にまつわるひとびとの「かつて」と「これから」の物語。
これを読んでも多くを語ることもないかなあ、な短編集。というか、もう、言葉が出てこないよなあ。
本編の後日談「続いた世界のある顛末」が本命ではありますが、それ以外の短編で描かれる、ひとびとの日常が、優樹が失われた後に語られることで、そのときに感じていただろう穏やかさよりも、それがもう取り返しの付かないことであるということに気づかされることの切なさが先に立って、やっぱり悲しさを覚えてしまいますね。
大田の傍観者気取りの長台詞も、虎司と安藤さんのちょっと普通からずれたお付き合いも、夏純の未成熟なひととしての感情も、そして優樹が過ごした子ども時代も、優樹の物語が幕を下ろしてから語られるなんて、ねえ。
そして、彼女がいない世界で、続いていくそれぞれの物語。優樹が最後に望んだ夢のような世界が、そこにあるわけでは当然なくて、彼女の喪失によって、皆が皆、これまでのようにはいられない。憎しみ哀しみ、あるいは気遣い、無関心を装い。決して小さくない、そんな変化を受け入れながら、これからも生きていくことを背負わされる。
それぞれの生も死も、そのひとだけのものだ、そういう大田の言葉通り、それぞれの命は、これからも続いていく、死ぬまで生きていく。その言葉の重さが、実感されるようなお話でしたね。
hReview by ゆーいち , 2008/11/29
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