円環少女〈9〉公館陥落

stars せんせは、失敗したって死んでないんだから、まだ本当に負けてはいないの。あたしだってそうだもの、まだ負けてないわ。

仁の師でもある専任係官・鬼火こと東郷永光が反旗を翻した。京香を斬り、《公館》に火を放ち、そして地下にある『門』を目指し進み行く。神聖騎士団の上陸、途絶した《協会》との連絡、この混迷極まる状況の中、傷ついたままの京香は、今や《公館》を離れたはずの仁を呼び戻し、命令する。師を、東郷を、撃て……、と。

相も変わらずすさまじい物語でした。地獄と呼ばれる地球で、魔法使いたちが地に這いつくばり、あるいは、それでも理想を捨てずに生きている世界。そして、彼らに悪鬼と蔑まれるがゆえに、彼らと対立せざるを得ない人間たちの物語。

今回は、前巻から引き続き、神聖騎士団の大規模な日本上陸をもって始まった戦争が新たな局面を迎えます。《公館》と《協会》の蜜月の終わり、京香によって導かれる新たな在り方の《公館》から切り捨てられようとするひとたちの、最後の戦い、そして、戦いから遠のくような生き方をしようとしても、それさえも叶えられず、自身の本質にようやく気付く仁と、刻印魔導師としての戦い抜いた先を見据え続けるメイゼル、と皆の生き方がぶつかり合っていますね。

いやもう、とにかくこれから生きていく人間も、ここで人生を終わらせる人間も、その生き様がこれでもかと描かれているのがすごい。東郷先生の生き方は、ぶれまくりな仁とは違って、最初から最後まで、彼自身を貫く揺るがない生き方だったし、逆にその弟子である仁は、今回、ようやく自分が何を求めているかの本質を知り、そこから目を背けないことを誓うことができたり。これだけ揺れまくりな主人公の周りにいるのが、皆が皆、自分を貫くための強さを持っていて、曲げられないから生まれる対立や戦いがあるわけですね。

メイゼルもメイゼルで、地獄に落とされながら、それでも自分の母親と同じように、円環世界を背負う覚悟を持って戦ってるし。ここで、ようやく、母親である憎悪の女王と、現最高位である《九位》との因縁も少しずつ語られてきて。グレンと相対したときの《九位》は、なんだか大物感があったんですが、その本質は意外なところだったですね。ラスボスとするにはちょっと格が落ちた気がしますが、それでもその実力はやっぱり桁外れで、仁やメイゼルに勝ち目があるようには思えないんですが……。

物語的には一区切り、でも、事態は全然収拾されてませんね。あとがきでも、これから本格的に動き出すって、さらにどれだけのお話が用意されているのやら。一皮むけて、けれどまだ、メイゼルに胸を張っておとなだと告げられるくらいにはおとなにはなっていない仁だけれど、彼が魔法使いたちに語って聞かせた、新しい夢を叶えるために、戦うことを決意したそのことは、これまでの仁とは違って見えましたね。

次は、神聖騎士団との対決が待ってるのかなあ?

hReview by ゆーいち , 2008/12/27

円環少女 (9)公館陥落

円環少女 (9)公館陥落 (角川スニーカー文庫)
長谷 敏司
角川グループパブリッシング 2008-11-29