俺は変わっても、周囲は何一つ変わらないのだ。特に不注意や不運がすぐ死に直結する特徴は。臆病に大胆に。生き残るために。
一昨年、突如京都を襲った大地震。それによって口を開けた大迷宮からは怪物が溢れ出した。怪物を狩り、その身体の一部を換金することで利益を上げる、現代のゴールドラッシュににわかに沸き立つ京都・迷宮街……そこは、人間が簡単に命を落とす世界。
Web 小説『和風 Wizardry 純情派』の商業刊行作品。オリジナルはちょっとだけ読んだ記憶がありますが、最後まで読んでないので、初読になりますね。
Wizardry の雰囲気を現代の京都で再現した物語。特定のパーティ ((作中では部隊))に焦点を絞った物語ではなく、部隊を構成するそれぞれの人物や、彼らを取り巻く周囲の人びと、皆を主役にした群像劇となっています。
中心となる笠置町姉妹の部隊の、主な語り部となっている真壁啓一は、迷宮街にやって来たての新参の探索者。ゲームでいえばレベル1から始まって、迷宮の地下1階で四苦八苦しているような段階のお話ですね。
そんな啓一の周囲の人間たちとの出会いが描かれたかと思えば、その直後にその死が唐突に告げられたりと、なんだか油断ができない展開です。ゲームと違ってカント寺院がないから、死んだら即ゲームオーバー。その辺の容赦のなさは、ゲーム以上にシリアスで、だからこそ、この作品内の人間たちの紙一重の生と死の重みというものが感じられますね。
物語的には、全三部作の第1巻ということなので、登場人物の顔見せと世界観の解説、導入部的な段階ですが、この殺伐とした世界の中で、それぞれの理由で冒険に命をかける彼らの物語の先が楽しみです。迷宮街という存在を取り囲む社会的な部分からも、これから変化が描かれそうなので、その点にも期待ですね。
……で、Wizardry 小説というと、『隣り合わせの灰と青春』あたりを思い出して、読み直したくなってしまうわけです。こっちは20年前の作品だけれど、やっぱり名作ですよねえ。また、復刻しないものかしら。
hReview by ゆーいち , 2009/01/31
- 迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)
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- ソフトバンククリエイティブ 2008-11-15
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