たまには嫌われておかんとの。ぬしに飽きられるほうが辛いでありんす。
『狼の骨』の情報をたぐり、ロレンスたちは海を渡り島国ウィンフィール王国を訪れた。そこにある聖ブロンデル修道院は現在、経済的危機に瀕し、さらにその所有する広大な土地を世界最強とも名高い経済同盟・ルウィック同盟に狙われているという。修道院へ近づくためにロレンスは伝手を頼りに同盟の一員であるピアスキーに協力を求めるが……。
ケルーベで長いこと続いたような争乱のお次は、海を渡り雪に閉ざされたかのような島国を舞台にロレンスが頑張りを見せてくれました。なんだか、ここしばらくのエピソードでは大きなうねりの中、流されるまま、あるいは溺れないようになんとか足掻いていたようなロレンスでしたが、今回は彼自身がこれまで身につけてきた地力を発揮する場面だったように思いますね。
『狼の骨』を求めて旅をして、その確信に近づこうとしたときに出会った羊飼いの老人・ハスキンズの正体には驚かされたりしましたが、彼が最後にロレンスに告げた言葉の意味は、これからのお話で明かされることになるんでしょうね。あえてホロに告げず、彼女と旅を続けてきた希有な人間であるロレンスに託した言葉が、ヨイツへの旅路へのどんな指針となるのやら?
そしてホロにとってもロレンスはもはや彼女が助けてやらなければならないような相方ではなくなりつつあるんだろうなあ。今回みたいに、ホロが思いっきり弱みを見せたりしたシーンなんて少ないように思うし、彼女のロレンスへの信頼がいたるところで感じられてなんともニヤニヤ。バカップルぷりは一段落したように見えますが、ふたりの関係はどんどん深まっていってるんでしょうね。それでも、まだヨイツを目指すというその目的にこだわって、その先を考えようとしないあたり不器用というかなんというか。
ひたすらにただ一つの故郷を求めるホロの旅はそろそろ終わりですね。今回のハスキンズが語ったように、あるいはピアスキーの生き方そのもののように、誰かにとっての第二第三の故郷を作るということが、あるいは救いになるかもしれないという、事実と可能性の提示。それは、ホロが求めるヨイツの地が、もはや存在しない、そんな事態が仮に明らかになった場合に示される新しい選択肢なのかもしれないですね。賢狼と人間、生きる世界が違いながらも、それでも共に生きようとする意志があれば、きっとそれは彼女に新しい形の故郷の姿を見せてくれるんじゃないかと思います。
hReview by ゆーいち , 2009/02/21
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