旅立ちなんかじゃない、これはきれいに飾り立てられた追放劇だ。
伝説にある「空の果て」を目指すため、空に浮かぶ島・イスラは、いつ終わるとも知れぬ旅に出る。そんなイスラの上で生活することになる人間のひとりカルエルは、かつて革命によって全てを失った元皇子であり、イスラ管区長となった革命の旗印・ニナ・ヴィエントに深い憎しみを募らせていた。
昨年の話題作『とある飛空士への追憶』と同一世界で繰り広げられる新たな恋と空戦の物語。舞台設定が共通してるだけで、登場人物も一新され、別に前作を読んでなくても支障は欠片もないのですが、これ、思いっきり次巻へ続きまくってますね。
皇子としての幸福な生活と、何よりも愛していた母親を奪ったニナ・ヴィエントへの憎しみの一身で、この体の良い流刑じみた旅に出ることを決意するカルエル。今巻は、そんな彼の過去と現在を語り、そしてこれから訪れる恋と立ちはだかる障害の予感をほのめかせます。
物語の終盤でカルエルはクレアという少女に出会い、彼女を気にかけるようになりますが、そんな彼女が実は……という、どう考えても泥沼化して悲惨な結末を迎えるような設定が明かされたりして、早くも次巻は波乱が巻き起こりそうな雰囲気ですね。空翔るロミオとジュリエットって、それじゃあ、ラストは悲劇的なものになるってこと?
ともあれ、暗い過去を持ちつつ、偶然によって暖かい家族に引き取られ、義姉に義妹にかこまれた貧乏ながらも勝ち組な生活をしてるカルエルは、皇子の生活が抜けきらない高慢ちきだけれど、ピンチに弱い微妙なへたれスキルも持っていたりと、妙に愛嬌があったり。そんな彼の義妹なアリエルも男勝りな性格と、実は何年越しの想いを抱えてるっぽい純情さも秘めてそう。
そこに訳ありのクレア加われば、これは分かりやすい三角関係とかに発展するよりも、もっと苦しい状況になっていきそうな気がしてなりませんね。
長い長い旅の始まりで1冊使ってしまいましたが、この物語はどういう方向に向かうんでしょうか。旅の目的である空の果てへ至るという部分も無視するとは思えないし、実はけっこうな長編になったりするんでしょうかね? とにもかくにも、舞台も整い本格的に物語が動き出す次巻に期待です。
hReview by ゆーいち , 2009/03/23
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