神のみぞ知るセカイ―神と悪魔と天使

stars ボクには信念がある。ボクは信念を持ってリアルと相対している。君の物語には、君が作り上げた“今”と戦う物語には。信念はないのかい?

魔界からやって来た悪魔・エルシィと一緒に「駆け魂」探しを続ける落とし神こと桂木桂馬。新たに見つけた駆け魂の持ち主は、桂馬が苦手とする属性を持った不思議系少女だった。自称「天使」な彼女の攻略の糸口も掴めぬまま、桂馬の前にもうひとりの駆け魂持ちの少女が現れて。前代未聞の同時攻略を決断する桂馬。困難なシナリオのエンディングは果たして……?

同名コミックのノベライズ。ノベライズなのでやっぱりコミック既読者向けの内容ですね。さすがに一から物語の設定を語っていくわけにはいかないか。

ともあれ、コミック版の雰囲気を上手いこと再現した良ノベライズ作品ですね。有沢まみずが執筆しているせいか、氏の他の作品の印象を引きずったりしてますが、おおむね原作どおりの展開。原作でよく見られる描写をなんとか無理矢理小説の枠内の文字という媒体で再現しようと苦労されてる部分も見られますが、そういう部分のノリも含めて、桂馬たちの活躍を描いているように思いました。

物語としては、原作でも未だ描かれたことのない二者同時攻略。先にこれをノベライズでやられてしまったあたりは、原作者的にもしてやられた感があるのかもしれませんね。ただ、もったいないことに、攻略へ至る道筋が割と早足で展開して一方のキャラについてはかなりあっさりと終わってしまってるのですよね。

決して軽くないコンプレックスを抱いている少女たちの心を救うという流れなだけに、その描かれ方がボリューム不足と感じてしまうのはやっぱり残念かも。原作では、救われた彼女たちの後日談や、記憶を失くしても桂馬との繋がりをほのめかされる描写があったりして、そこを含めての攻略エピソードって印象だっただけに、あっさりした終わり方だったなと思いました。

それでも、物語の構成はお見事な感じで、桂馬のスタンス、リアルとゲームの境界を明確に区別して、自分の信念を持ってリアルに対して常にニュートラルであり続ける態度。それに相対するような、今回登場した少女たち。プラスとマイナスに振れて、仮面を付けて生きることを余儀なくされていたふたりを救うのが、そんなニュートラルな桂馬であるというのが、『神のみぞ知るセカイ』というお話の本質を描いているようで面白かったですね。

イラストが少なかったりするのは残念ですが、今度はこの物語を原作に外伝的な位置づけででもマンガで読んでみたいと思わせるエピソードでした。

hReview by ゆーいち , 2009/06/02