夜と血のカンケイ。

stars お、おね――お願い、します。血を飲ませて――、貴方の血を飲ませて下さい。

吸血鬼・夜音がたまたま選んだ少年・陶原健悟の血は、彼女がかつて経験したことがないほどの極上の味わいだった。とある目的のために誰よりも健康であり続けた健悟。彼の血に魅了されてしまった夜音は、それを味わうために、健悟の良いなりになるという、気位の高い彼女にとってはこの上ない屈辱をも味わうことになる。血を吸うものと吸われるもの、奇妙に逆転してしまった主従関係が様々な事件を呼んでいって……。

吸血鬼にとって至高にして究極の味わいの血を努力によって培ってきた健悟の、珍妙な復讐劇?

かつて出逢った吸血鬼の少女に、自分の望みを華麗にスルーされた恨みから、彼が考えた復讐がこういう形になるとは。なるほど、人間を食料としてしか見ていない吸血鬼にとって、彼らに顎で使われるというのは耐え難い屈辱なのでしょうなあ。

けれど、10年来の恨みの成就の形としては、健悟の夜音に対する命令というのは、この上なくささやかなもので。せいぜいパシリが良いところ。まぁ、そんな些細な命令でさえも、夜音は屈辱に身を震わせるのですががが。いやいや、なんとも嗜虐心が満たされる構図ですな。ここで、えろえろな方向に行かないのがラノベらしいというか何というか。一応、それについての言い訳も用意されてますが、ここは、好き放題しちゃうシチュエーションでしょう!? とトチ狂ったことを思ってみたり。

そんな健悟の復讐は、結局は彼にとっては、過去の苦い思い出を忘れるための代償行為なんでしょうか。芯の部分で悪い奴になれないせいか、些細な命令で自尊心を満たし、そして夜音との関係を引き延ばしていこうとする健悟。何かにつけて、彼女にちょっかいをかける様は、それこそ小学生の男の子が、気になる女の子に意地悪をするのに似ていて。本人にとっては、決してそんな気持ちはかけらもないつもりでも、ハタから見ればふたりの関係は仲が良いほどケンカする、彼氏彼女の関係に見えたり。

夜音にちょっかいをかける別の吸血鬼・マレインや、健悟のクラスメイト・清水さん、夜音に仕える小夜など他のキャラも出てきはしますが、最終的には夜音と健悟のいちゃつきに終始してたような印象ですね。他のキャラの役割がいまいちよく分からないともいいますが……。

紆余曲折あって、夜音を縛り付けていた健悟の血の味は薄れ、けれどその後に残されたのは、やっぱり奇妙な人間と吸血鬼の関係。どこまでも素直になれない気位の高い夜音と、復讐という目的を建前に、夜音から離れようとしない健悟。最後の最後に、彼が自分の健康を取り戻そうと決意した理由に、もともとの復讐という思いが欠けていたあたり、彼の無自覚な夜音への想いが見え隠れしてなんともほのぼのとしてしまいますね。

hReview by ゆーいち , 2009/08/10

夜と血のカンケイ。

夜と血のカンケイ。 (電撃文庫)
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