断章のグリム〈11〉いばら姫〈下〉

stars 優しいだけじゃ嫌われることもあるわよ? でもあなたが他人に向けられる厳しい言葉は、〈断章詩〉だけだものね。

外界から隔離され、もはや異界と化した真喜多家。そしてそこで巻き起こる泡禍と生み出された不死身の異形。雪乃を助けに来たはずの蒼衣も為す術なく、この悪夢に囚われていく。次々と傷つき削られていく戦力。呪われた舞台で、歪んだ真喜多家の家族関係が、さらなる惨劇と悲劇を呼ぶ。そして、雪乃の身にも異変が起こり……。

あああああ、またしても体中がむずむずするなあ、この描写は。

ということで、いばら姫を題材にした悪夢の惨劇完結編。なんか途中から別の物語も混ざってきて、今まで以上にひどい描写が目立ちましたが、今回はそれ以上に崩壊してしまった家族の姿に絶望を禁じ得ませんね。

もとより、泡禍の苗床となるのが人間の悪夢である時点で、そこで発生する狂気と同質のものを、人間自身が抱え込んでいてもおかしくなかったわけで。今回のエピソードはそれが華麗に、呪わしく、花開いたというか。うえ、また、いろいろ思い出してぞわぞわしてくるなあ。

最大の犠牲者であるのは、間違いなく要らない子認定されてしまった莉緒でしょうね。両親・祖母にその存在を認められず、唯一対等に接することができ、理解してくれそうだった弟を亡くし、この狂乱の舞台で呪わしい役を演じきってしまった彼女にもまた、泡禍の芽吹きが予感させられますね。生き残ったというその事実が、まったく救いにならないところが、この作品の優しくないところ、例え今回存命したとしても、再登場したらあっさり退場とか普通にありそうだからなあ……。

そういった意味では、これまで物語に深く関わってこなさそうだった葬儀屋コンビの扱いは結構衝撃でしたね。序盤の可南子さんの扱いとか、それを受け手の終盤の展開とか。正直、序盤で彼女がああなった時点で、この物語半端ないなあと思ったんですが、結末を見ると、これは果たして良かったのか悪かったのか。葬儀屋の能力がそういう方向へ使えるというのも意外ですが、その結果与えられた命が、その真偽はさておき、泡禍にまつわるものである以上、正常なものとはとても思えないのが果てしなく不安を煽りますね。

次巻以降に持ち越されそうな、そんな不安も多々あり、このエピソードを受けて、今後の展開がさらに容赦なくなるような気がして戦々恐々とするのです。

hReview by ゆーいち , 2009/08/16

断章のグリム〈11〉いばら姫〈下〉

断章のグリム〈11〉いばら姫〈下〉 (電撃文庫)
甲田学人
アスキーメディアワークス 2009-08-10