俺、思うんだよ。そりゃ、どんなこともひとりでぱっぱと片付けられたら、かっこいいし、そういうのが大人になるひとつの方法なのかもしれないけどさ、得意とか苦手とかあるし、ヒマだったり、忙しかったりは人それぞれ違うんだから、そういうのを認めて、さくら荘全体がいい感じに回るところを見つけて、うまいことやっていけばいいんじゃないかって。
学園の変人たちの集まり『さくら荘』で、天才画家ましろの“世話係”をしている俺。なんとかましろに一般常識を身につけさせようと日々頑張っているのだが、その生活破綻ぶりはやっぱり世話係が必要なレベルだ。
そんな中迎えた夏休み、クラスメイトで声優志望の七海が寮に引っ越してくることになる。真面目な七海に“ペットと飼い主”というましろとの関係を隠しておきたい俺だったが、美咲先輩はじめ寮の変人たちは面白がって協力してくれない。そしてあえなく七海に現場を押さえられてしまい――!? 変態と天才と凡人が織りなす、青春学園ラブコメ第2弾。
[tegaki font=”crbouquet.ttf” color=”LimeGreen” strokesize1=”4″ strokecolor1=”” strokesize2=”4″ strokecolor2=”LimeGreen”]挫折も嫉妬も青春には良いスパイス[/tegaki]
夏休み目前! しかし、“ましろ係”を押しつけられた空太は穏やかな学期末など過ごせない! 落第目前のましろの勉強の面倒に始まって、相変わらず自分では何もできない、むしろ積極的に空太に面倒を見てもらおうとするような、彼女の行動にツッコミの技術ばかりが冴え渡っているよう。
満足に生活さえもできない天才たちと、その背中を追い続けながら、並ぼうと頑張っても届かない普通人たち。それは、ましろや美咲たちの側と、空太、仁、そして今回新たにさくら荘の一員として迎えられることとなった七海たちの側との対比です。面倒を見る、あるいは自分がいなければ、彼女たちは何もやっていけないという、そんなちっぽけなことで自分のプライドをなんとか守りつつも、何かを作ろうとか、自分の夢を叶えるためにどうすればいいかと思った時点で、そんなささやかな自尊心はあっさりと打ち砕かれてしまって。空太のましろへの複雑な気持ちもそうだけれど、それがより顕著なのは美咲と仁の関係でしょうね。それは、もしかしたら、そう遠くない時点で至るかもしれない空太とましろの関係かもしれなくて。けれど、仁は美咲を大切に思っていながらも自分の夢のために彼女と離れることを選択しようとしています。そして、その苦しみをふたりの一番間近で見ていることしかできない空太は、残された彼らの卒業までの時間の中で、何ができ、あるいは何もできないのか。恋の行方という意味では、むしろ主人公とヒロインよりも、彼らの良き友人である美咲と仁の方が気になりますね。
一方、空太とましろの関係も少しずつ変わってきていますね。なにものにも無頓着だったましろが、空太を意識し始めているし、恋を知りたいと思い始めているよう。その相手に選ばれたのが空太自身だということを、彼はもう少し大切に思うべきだと思うんですが、空太の方は、まだまだ歩み始めた自分の夢のことで精一杯なのかな。さくら荘の面々の助力を得ながらも、なんとか完成させたゲームクリエイターへの登竜門への企画書。確かな手応えを感じつつも、大人の世界ではそれだけでは通じないという、社会経験の足りなさという絶対的な不足を突きつけられたりします。そこで折れず、諦めず、遥か高みに見えるゴールへの挑戦を、前向きに捉えられるようになった空太の、さくら荘に残ることを決めたという選択は、誤ってはいなかったと言うべきなんでしょうね。
もちろん、それには、空太の前に大きな挫折をしてしまった七海の姿があったわけで。空太と七海というさくら荘における凡人、あるいは良識派の苦労はなまなかなことではないのですが、お互いの気持ちが分かり合える友人同士というのもまた、挫けそうなときには大切な力となってくれるのでしょうね。まぁ、七海の方の気持ちが、空太に通じるかどうかというのは、やっぱり微妙な気もしますが。三角関係とかに発展していったら、ただでさえ複雑な恋模様は大荒れになってしまいそうだなあ。
当のましろも空太を巡る恋の戦いにはやる気満々? 彼女の夢の実現とは別に、ましろもまた年相応の恋をして変わっていくのでしょう。ラブでコメな展開にも期待が高まる青春物語です。
hReview by ゆーいち , 2010/05/04
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