聖剣の刀鍛冶#8 Light & Darkness

starsかよわきあなた。ちからは、いりませんか。どんなものにも、くっしない、ちからは、ほしくないですか。

激しい斬撃を交わした交易都市と帝国軍。圧倒的な脅威を退けたひとときの平穏、身を粉に復興を誓うハウスマン市民たち――。そんな街中を歩くセシリーの姿に、騎士団員たちは面食らってしまう。その姿は……看護服!? 生傷の絶えないセシリーが、パティから治癒の祈祷契約の実地訓練を受けることになったのだが ――?
一方の帝国も、新たな魔剣・ヴェロニカの担い手を定め、歪に片牙を剥く――。
激戦の刃こぼれを研ぎ治す手入れ―それは次なる一閃を極めるための周到な布石!!壮大なファンタジー叙事、新章穏やかに開幕。

先の激戦を終え、ひとまずの平穏を取り戻した交易都市。復興のため奔走するセシリーたちに許された、ひとときとはいえ平和な時間に繰り広げられる人間模様。この後に、再び激しい戦いが待ち受けているとはいえ、せめてこのときはそれを忘れて、安らぎを享受してほしいと思ってしまいますね。

新米だったセシリーの活躍に憧れ、自衛騎士団に入団したヘイゼルや、彼女に救われ、自由を得ることのできたヒルダ。物語が始まった当初は、まったく頼りなく、ともすれば足手まとい扱いだった彼女が、ここまで戦い抜いてきたこと、守り抜いてきたこと、それが今のセシリーへ集められる応援につながっていること。自分の夢を、単なる口先だけで終わらせることなく、その身でもって叶え続けてきたこと。あらゆる苦難、試練にもまれ、成長してきたセシリーの姿が、街のひとびとに認められている、それはきっと彼女にとっては何よりのご褒美なんだろうと思えますね。

ルークとの関係もお互いの不器用さが枷となっているようで、けれど端から見ているとやっぱりお似合いなんですよね。これまでなかなか自分からセシリーに声をかけるようなことのなかったルークからの、お祭りへのお誘い。それに慌てふためいて、照れるセシリーの姿が戦士ではなくただの少女としていてかわいらしいですね。ルークの中には、残された時間の少なさと、セシリーを守り抜くという使命が眠っているのですが、それをおくびにも出さず、ただただ短い時間でも一緒にいることを望む、そんな気持ちにある種の諦めめいたものを感じたりしますが、彼の気持ちとは別に、彼に生きていてほしいと願う気持ちがあることを、ルークには知ってほしいと思います。リサへと自分の技術を伝授しようとするルークの決断の裏で語られた、過去のルークとリザの出来事の真相。リザからリサへと託されたルークを守るという強い想いは確かに引き継がれ、ルークを差さえ続けているのですから。

そこでリサが知ってしまったこと。忘れたくても忘れられない呪わしい言葉。それをルークに伝えることは、あらゆる意味で終わってしまうために、今はできないけれど、この先のことが読めない状況下、最悪の展開になったとき、それが切り札になるなんて展開は救いがなさ過ぎて勘弁してほしいところですね……。

一方の帝国軍。ただでさえ強力な戦力を、さらに補強するためこちらには安息なんて言葉は存在しないよう。新たな魔剣と、新たな使い手。そして、ついに明かされたシーグフリードの正体。アリアにとってもたらされた希望の可能性とは正反対の、絶望の具現であるシーグフリード。彼の狂気はとどまることを知らず、ますますあらゆるものを呑み込む濁流と化しつつあるようですね。そして、禍々しい新しい魔剣『ヴェロニカ』と、それを担うことになったノアの行く末は、敵方ながらも気になるところです。

エピローグ。これまたどうなるんだって展開ですが、これはいったいどういう意味なんだろう。戦力的にも、彼女的にも、痛いことになりそうな予感がひしひしですよ?

hReview by ゆーいち , 2010/05/05

聖剣の刀鍛冶〈8〉

聖剣の刀鍛冶〈8〉 (MF文庫J)
三浦 勇雄
メディアファクトリー 2010-01