生徒会の八方―碧陽学園生徒会議事録8

stars 幸せになりたいなら、努力する。幸せは、自分の手で掴む。私も、そう、信じている。

ようこそ、私立碧陽学園生徒会室へ! 美少女役員四人+おまけ一人、生徒諸君のため、今日も何かと戦っております!!
今、すべてに決着をつけるため、アイツが帰ってきた。
「何も傷つけたくないなら、今すぐ死ね。死にたくないなら、何かを傷つけることを躊躇うな」
あばかれる本当の想い、互いへの疑心、失われた言葉、開かれる記憶の扉――そして、少女は決意する。
「この気持ち……確認させて……くれない、かな」少年少女の日常をみずみずしく描いた青春小説の傑作「生徒会の八方」――NOW ON SALE!! ……う、嘘は言ってないもん!

いや、もう、どこからツッコんで良いものやら…… to あらすじ。

割とシリアスな引きで終えた7巻。あそこからどうやってお話を進めるかと思ったら、予想通り――あるいは予想通りのぬるい展開。いや、まさ今さら《企業》なんて前期の遺物が引っ張り出されてくるとは思いませんでしたよ。主に枯野的な意味で。いやぁ、いけ好かない小物臭ぷんぷんだった退場回から、ずいぶんと人間が丸くなったような彼。根本的に、作中に、完全に悪と断じることができるキャラの登場しない本作ですが、そんな中でも杉崎と明確に対立するおとなの論理で動く彼の再登場というのは、この物語においては大きな意味があるような気がしますね。

幼なじみの飛鳥から突きつけられた二者択一に対して、杉崎が返す答えはやっぱりそれしかないんだろうなあというものでしたね。それが実現できるかどうかはともかく、そしてそれに付き合ってくれる相手がいるかどうかはともかくとして、自分の幸福のために他者を幸福にしようとするのは恋物語ではよくある我が儘。まぁ、その対象がどこまでも広がっていきそうな人格の持ち主が主人公なだけに、彼の道行きに待ち受けている修羅場やら何やらは想像以上のものでしょうけれどね。そりゃ、単なる純愛ギャルゲーが、寝取られ陵辱ゲーに変わるくらいの勢いでさ! まぁ、そんな無謀な選択に対して、杉崎を否定しまくった枯野が、ある種の肯定をしたのが意外な展開。なんだこのひと、いつのまに人格変わったの。自分の幸福を最優先にして動くという行動原理だけ共通して、その目的は正反対なふたり、似てるなんて言えないふたりだけれど、反目していた敵から投げかけられた意外なアドバイス。これまで、杉崎に対して見守る以外のアプローチをしてきたおとなって他にいなかったような気がしますが、こういう展開が出てきたりすると否応なしに終局が近づいていると感じさせられます。ただただ、居心地の良い空間に居座って停滞しているわけにはいかない、歩みを進めるときが来ているという実感。というか、一応作中ないでは卒業式直前じゃないですか……。

お話的にはほとんど進んでないけれど、肝心要の杉崎の心に、明確な芯が生まれたことで、その結末はポジティブな方向で行くようにしか思えなくなりましたね。ドタバタの積み重ねで築いててきた関係は、切れることなく次へとつながっていくのでしょう。

……って、何を真面目に書いているんだろうか、そんなノリの作品じゃないのにね!

各種短編はいつものノリでしたが、やっぱり時間の経過とタイムリミットを思わせる部分がそこかしこに。別れが訪れるのを気づかないようにはしゃいでいる、くりむだったり、もはや本音を頭空っぽにすることでしか隠せなくなってしまった千弦さんだったり、おいおいどう見ても今回はアナタがメインヒロインですよな深夏だったり、相変わらずかげ薄いですよな不遇な真冬だったりと、立ち位置が微妙に変わりつつもやっぱり中心にいるのは杉崎か。このハーレム野郎め、天罰下れ! な具合に、恵まれた環境にいるくせに、気づけない気づかない。エロゲーたくさんやってくるくせにこの鈍感スキルは度しがたいなあ! あ、シリアルコードの話は笑えたけど、管理はちゃんとしておこうぜ!

と、まぁ、いつも通りの短編ですが、完結近くなると感慨深いものがありますね。どこまで保つかと思ったこの形式のお話が、見事完走しそうな雰囲気なので、あとはその結末を見届けるだけというところですね。

hReview by ゆーいち , 2010/06/20