氷結鏡界のエデン〈4〉 天上旋律

stars わかったか、護士ってのはお姫様のピンチに助けてくれる騎士なんかじゃねえ。そこに居合わせた奴がいつだって踏ん張るしかねぇんだよ。それが護士で、それが人間てもんだろうが!

「守るんじゃなく、一緒に戦う。……それが僕の新しい戦い方だから」
仲間と挑んだ選抜戦で、シェルティスは新たな決意を迫られる。
統政庁との会合に赴く巫女・ユミィの護衛任務。それを勝ち取るため、モニカと華宮、そして「四人目」の仲間と部隊戦に参加したシェルティスは、一人で戦ってきた己の弱点と向き合うことになる。
時を同じくして、シェルティスに宿る魔笛を浄化するため沁力の修行を重ねるユミィの前に、ツァリと名乗る女性が現れた。
「沁力が開花するキッカケ――お前の知らない旋律を与えてやろう」
そう告げる彼女は、ユミィを『ある場所』へ誘うのだが……。
変革する世界で、少年を想い少女が歌う、重層世界ファンタジー。

[tegaki font="mincho.ttf" color="SlateBlue"]今、そこにある大切なものを、守るための強さを[/tegaki]

ユミィを守る任務を得るために、必要なものは新たなる仲間。モニカ、華宮と、シェルティスのチームは着実にメンバーを増やしているけれど、4人目の仲間として、華宮が当たりをつけたのは、鬼教官をして変人と言わしめる男・ヴァイエル。半ば無理矢理仲間にした彼は、やる気も見せず、協力するそぶりも見せずと噂通りの問題児で……。

まぁ、華宮が「良いひと」呼ばわりするんだから、単なる不良少年ってワケじゃないだろうと思っていたら、その通りで。なんだ、その、ツンデレ? やる気のないところをこれでもかとアピールしていながら、その実、他人の目が届かないところでは別の顔を見せていたという、ある意味わかりやすい彼なのです。

自分の信念に生きているあたりは他のキャラと違いはないけれど、彼が戦う理由っていうのは、護士を目指す者たちの中にあって、確かに異質なものではありましたね。けれど、ユメルダ教官が言うように、彼の心の在り様というのは、決して安易に否定して良いようなものではないですよね。誰かを守りたいという根っこの部分は一緒でも、たった一人の大切な誰かのためではなく、目の前で助けを求める者がいるのなら、それが誰でも、助けられるのが自分しかいないのなら、自分の身を盾として、槍として、戦うことができる強さをもったヴァイエル。力が及ばなくても、決して諦めない。その折れない心の強さこそが、何かを諦めたり、絶望に心を打ちのめされてしまったシェルティスやモニカが、これから得ていかなければならないものの一つなのかもしれません。それを知っているからこその華宮の猛プッシュなのですが、これ、物語が終わってみると、彼女が単に彼とチームを組んで近くにいたかっただけのような……。かつてフラグを立てられ、そして彼女の方からの熱烈アピール。この物語の男連中は、揃いも揃ってその辺の機微に鈍感なところがあるから、華宮もまた、ヴァイエルにややきもきさせられることが多そうな予感。

一方、強さだけならとびきりのシェルティスも、自分一人だけの強さを追い求めるだけでなく、チームとしての強さを引き出すための、これまた別種の強さを求められてくることに。ユミィを守るという彼が最終的に目指す場所では、個人の強さが何よりも求められることは確かだけれど、そこへはどれだけ強くても、決して一人では至ることができないという事実。その矛盾に苦悩しながらも、これまで経験したことのないチームというくくりの中で、変わり、強くなっていく姿を、きっとこれから見ることができるのでしょうね。何しろ、次は、待ちに待ったユミィ護衛の任務。その責任は重いけれど、彼の夢が一時的にでも叶うのだから、その幸せをしっかりとかみしめ、そして、足りないものをまた自覚していくのかな。

そういう意味では、ユミィはそれを一足先に経験したのかも。未熟なれど、通用すると思っていた自身の沁力が、強大な幽玄種にはまったく歯が立たないという事実。過去の映像は決してまぼろしではなくて、誰も気づいていないけれど、つねに氷結鏡界の外には確かな脅威としてあり続けるという確信。相変わらず正体不明な主天・ツァリが彼女にそれを見せた目的ははっきりとはしないけれど、ユミィが見た過去は、いろいろな情報を伝えてきていますね。前シリーズ『黄昏色の詠使い』とのリンクがさらに密接になり、世界そのもののつながりまで予感させられますが、どういった形で設定が明かされてくるのか、それもまた興味深くあります。

仲間も揃い、これからようやく動き始める雰囲気を感じさせる物語。次巻は予告を見る限り、さらなる新キャラの登場と謀略のにおいを感じます。今回はあまり大きな動きがなかった物語ですが、そろそろエンジンかかって疾走を始めてほしいところですね。

hReview by ゆーいち , 2010/11/13

氷結鏡界のエデン4 天上旋律

氷結鏡界のエデン4 天上旋律 (富士見ファンタジア文庫)
細音 啓 , カスカベ アキラ
富士見書房 2010-08-20