俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈10〉

stars もぉ……お兄さんたら、何度……わたしを助けてくれるつもりなんです?

あのバカがしばらく一人暮らしをすることになった。受験勉強に集中するためってのと、あとひとつ、お母さんが最近あたしと京介の仲がよすぎることを変に疑ってるらしい……。あたしと京介がそんな関係に――なんて、あるわけないじゃん!
で、まあ、責任の一端は、ちょっとだけあたしに……あるみたいだし、あいつもどうせコンビニのお弁当とかばっか食べそうだし、仕方ないから、あたしが面倒見てあげようかと思ったんだけど……。
ちょっとあんたたち、なに勝手に京介の家で引越し祝いパーティ開こうとしてんの!? 発案者の地味子はいいとして、黒いのに沙織に、あやせに……加奈子まで! ていうか、あんたたち知り合いだったの!? えっ? 地味子と仲直り? そんなのあとあと! あーもー、ひなちゃんは言うこと聞かないし! こんなんじゃ京介が勉強に集中できないじゃん!

[tegaki font="crbouquet.ttf" color="royalblue" size="32″]ほんとうのわたしと向き合えますか?[/tegaki]

妹との中を疑われて強制的に独り暮らしの刑でござる! な、何を言ってるのかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった……。とポルナレフが出張ってきそうな展開ですが、健全な男子高校生の独り暮らしなんて、えろげー的展開を期待するしかないじゃない! もう、冒頭の野郎三人のトークからして大変なことになっていますが、中盤以降はさらにとんでもなかったんだぜ?

この物語もついに二桁巻に突入の第10巻。いい加減、お話を畳みに入る段階な気がしていますが、ストーリー的にも新しい山場をぐぐっと用意してくれて、中だるみ感を打ち消してくれてますねー。や、まぁ、過去にあった展開の焼き直しかと思うところもありますが、ここにきてついに! というシーンなだけに、溜めに溜めた分、破壊力も抜群ですよ。

それにしても、京介。もう、お前、完全にえろげーの主人公だよ。ハーレムルート余裕だよ。みんなにお願いしたらきっと了承してくれるよ。ハッピーエンド迎えられるよ。と部外者は思ってしまうくらいに美味しい立ち位置に入るのに、この男、結局、桐乃との関係に決着を付けない限り、今いる場所から一歩も進む気はないときたもんです。そんな気持ちを知らない周囲の女の子たちは、今回の独り暮らしをまたとない機会とばかりにぐいぐいと押し込んできてるんですよ? なんというか、暖簾に腕押しな雰囲気もありますが、京介包囲網は彼の思いとは正反対にぐぐっと縮んできてるような?

将来のための発展的な関係解消を選んだ黒猫もそうだし、ここに至って加奈子も京介に接近? あらゆる子たちの頂点に立ちつつある麻奈実さんの動向は要注目。この人間関係の中心にいる桐乃も、京介への思い遣りがずいぶんと分かりやすくなって、あらあらまあまあ……。

そして、あやせ。

今回の物語を最後の最後で見事に持って行ってくれましたが、読者からすると「ようやく」という思いもあるかも知れません。でも、これまでさんざん桐乃に対してのカウンターであることを、建前とはいえ自分に任じ続けた彼女が、ここにきて京介への想いを告げたというのは、大きな爆弾の炸裂ですよ。

振り返ってみると、あやせも桐乃と同じように、京介に新しい世界を見せられた似たもの同士なのかも知れませんね。オタク趣味に対する好悪両極に立っている桐乃とあやせですが、桐乃は京介によってその趣味を通じてつながることのできる友人を得て、そしてあやせはこれまで忌避してきたその領域を理解するためのきっかけを得ることができました。そして、親友同士であるふたりの、お互いへの気持ち、言いたいけれども言えない本音の部分を理解しているのがその真ん中に立っている京介なんですよね。だからこそ、あやせに対して自分隠している趣味がバレるかもしれないという桐乃の恐れも、桐乃に対して彼女がひたすらに隠している趣味のことを知ってしまったのに理解できず言い出せずにいるあやせの葛藤も彼はこの上なく分かっているんでしょう。だから、今回の終盤に起きた事件を通じて、京介があやせの中の最後のわだかまりを取り除いてやったことで、ついに彼女は本当の自分というものをさらけ出す覚悟ができたんだと思います。

それは、隠していた京介への恋ごころだけでなく、きっとこれまで何度となく告げようとしてその都度あきらめていた、桐乃の趣味について知らないふりをしていたことも含まれるんでしょう。親友同士だからこそ、嫌われてしまうことが怖くて言い出せなかった一線。けれど、今なら打ち明けられると背中を押したのは、京介の本音。方法は間違っていても「好き」だという気持ち、それは間違いじゃないと。見栄をはって理屈で身を固めても自分を偽れば身動きができなくなると、その苦しさを解き放つ方法はそれほど多くはないのだと。

あやせは自分の気持ちが京介に届くと確信して告白したんでしょうか? おそらくそれはないのではないかと思わされます。黒猫との約束しかり、桐乃の必死な姿を、京介の必死な姿を見たら、自分がふたりにとっての一番になれるかどうかは、聡い彼女ならきっと納得の上の行動なんでしょう。黒猫のように、兄妹のどちらとも幸せになる二番手で居続けることを選ぶのか、あるいは自分の気持ちに決着を付けるための玉砕覚悟の行動なのか、それが明かされるのは次巻までのおあずけ。

これまでさんざんマイエンジェルとか脳内でキモイ妄想垂れ流してきた京介がどんな反応を見せるのか非常に気になるところですが、親友同士の修羅場再びな展開や、嫁姑問題よろしくの桐乃と麻奈実の和解イベントも控えています。ここまで盛り上げてくれると、次もさらにと期待をしてしまいますが、どんな風に見せてくれるのか楽しみに待ちたいですね。

hReview by ゆーいち , 2012/08/14

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈10〉

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈10〉 (電撃文庫)
伏見 つかさ かんざき ひろ
アスキーメディアワークス 2012-04-10