されど罪人は竜と踊る〈0.5〉 At That Time the Sky was Higher

stars 今では俺も分かっている。ジオルグ事務所には、かけがえのない愛や優しさ、仲間との強い絆があった。だが、その絆ゆえに俺たちを永遠に分かつことになったのだ。

皇暦494年11月、流浪の攻性咒式士、ガユスはエリダナの街にたどり着く。そこで出会ったのは、荒々しき剣士、雷の女、絶望する少年。エリダナ四大咒式士である師のもとで、若き仲間たちが生きていた。街角を駆け、互いに背中を預け、血を流した。笑い涙し、苦悩し憤慨し、憎み愛した。誰にでもあり、誰にも存在しない青春時代。美しくも残酷な始まりと崩壊の記録――「Assault」が、大幅改稿と新章追加で完全真説版として新生。ジオルグ事務所時代、ガユスたちの秘められた過去を描く『されど罪人は竜と踊る』始まりの物語。

12巻の発売が待たれる「され竜」がここに来て「Assault」を投入とはッ……! ぐぬぬ。

あ、そういえば11巻の感想書いてないな。忘れてた。

ともあれ、すべてのはじまりの0.5巻登場です。「Assault」で半ばまで語られていたジオルグ事務所壊滅のエピソードなどがこの厚さを見てついに語られるのか、ヒャッホウ! と喜び勇んでいたらそんなことは無かったんだぜッ! ぐぬぬ。むしろ、ガユスがエリダナへ流れてくるシーンから始まるこの本を読むと、彼が彼となるまでのエピソード、いうなら0巻を読んでみたくもなってしまうのですよね。

彼にとっての最大のトラウマである、クエロへの裏切りとか、事務所の壊滅とかと同様に、いまだに心の中で癒えぬ傷となり血を流し続けている妹との物語や少し掘り下げられてきた彼の兄弟のことについてなども知りたくなってしまうのです。現在進行形の本編ではすり切れてやさぐれて使い潰されてしまった残りカスのようなガユスの、新人時代のなんと青春していることよ。戦闘狂のギギナも、復讐鬼と化してしまったクエロも、もはや出番がなさそうなストラトスや故人のジオルグが勢ぞろいしていた全盛期。作中の言葉でいうのならまさに「黄金時代」の眩しくも胸を締め付けられるような日々よ。

いったい彼らが崩壊することになった事件の真実はどこにあるのか。血の祝祭編で語られているように、パンハイマが絡んでいることは間違いないのだろうけれど、一体何がどうなったら、この最強に強まっていたメンバーで構成された事務所の面々が壊滅へと追い込まれるのか。そこでのガユスの選択が、すべてを決定的に歪めてしまったのだと自身が語っているけれど、そこにはどのような絶望が、苦痛が、懊悩があったのか、想像することしかできないのがもやもやです。そして、往々にしてそんな想像を軽く飛び越えてさらに絶望的な理由がそこにはあるんだと確信していたりするのが、さらに救いようがないわけで……。

物語は焼き直しながら加筆が大幅に施されているため、彼らの黄金時代の短くも密度の濃かった期間をしっかりと描いているように思います。ガユスがクエロに惹かれ、難攻不落の彼女へとどれだけ必死にアプローチかけていたのかとか。ジオルグが、あの若さにしてあの強さを得るに至った理由も、先代、先々代までも引っ張り出して語って説得力を増していたりとか。くぐり抜けた死線がどれほどのものだったのかとか。苦しみを得ながら生きていても、どれだけ幸せだったのか。

今だからこそ分かる取り戻すことのできない懐かしき日々。絶望の底でもがき続けているからこそ、輝ける日々で生きていたときとの落差に救いようのないものを感じます。作品の世界はループしていても、ガユスの運命はここに至るまで転換点を見つけられないでいるような流れ。救いらしい何かを求めて生きているようなガユスではないけれど、その生が後悔にまみれ終わるというのはどこまでもやるせないではないですか。何も変わらないかもしれないけれど、もしかしたらどこかで未来へのルートが変わっているのかもしれない。いまだ訪れない未来のエピソードがどうなるのか見当も付かないまま、起点となる物語はこの世界でも同じ展開を辿ったことがこの0.5巻で確定しちゃいましたね。さて、この先の絶望的な戦いも気になりますが、さらにその先、ガユスを中心としたかつての事務所の面々との因縁もどのような形で決着を向かえるのか、そのゴールは果てしなく遠くて影も形も見えません。

はるか高い空を見失ってしまった彼らは、地べたを這いずり回ったまま。いつかまた、その青さを思い出すときが訪れることを、この物語を読んでしまうと願わずにはいられません。

hReview by ゆーいち , 2012/09/23

されど罪人は竜と踊る 0.5

されど罪人は竜と踊る 0.5 (ガガガ文庫)
浅井 ラボ
小学館 2012-09-19