されど罪人は竜と踊る〈11〉 Waiting Here to Stop the Noisy Heart

stars ビルの群れの向こうには、エリダナを囲む高い城壁が見える。再びエリダナへ戻り、アンヘリオと使徒どもを狩りつくす戦いが始まる。ああ、勝つさ。買って生き残ってやる。アンヘリオと使徒を倒し、君と幸せになってやるさ。

〈血の祝祭〉という殺人遊戯は、アンヘリオによって書き換えられた。アンヘリオと殺人集団〈ザッハドの使徒〉たちまでが殺しあう、無差別殺戮へと変化したのだ。使徒狩りの老猟師ロレンゾがペトレリカを強奪し、魔犬たちとともに罠を張り、カジフチが剛拳を振るう。祝祭の最前線に立つガユスとギギナたちに迫る暗殺と、二人の女の決断。皇都からの刺客。魔女パンハイマの庭で、血戦の幕が切って落とされる!!

まだまだ続くよ、〈血の祝祭〉編!

いや、さすがにこのボリュームで年1回の刊行で、そしてさらに続くだと心が折れそうです。面白いんだけど、面白いんだけどっ! すでに以前のストーリーの記憶が薄くなってしまっているので思い出すのに苦労しますね。その辺のフォローも作中の作戦会議とかでなされているんで、だいたいのあらすじは掴めるんですが、決定的な進展を見せない話運びに私の方が焦れてきたっ。

アンヘリオの手によって、全員が脱落しかねないルールへと書き換えられた血で血を洗う悪夢の殺人遊戯。アンヘリオを狙うロレンゾの孤高さは、ガユスたちにとっても共闘できる相手でもなく、パンハイマ、カジフチ、他の使徒の生き残りを加えたバトルロイヤルは参加者を少しずつ減らしながらも絶賛続行中ですね。

金剛石とまで言われた強さに少し陰りが見えたかなと思えたアンヘリオですが、今回は彼と同格で語られるカジフチ無双が炸裂。一対一でギギナを死の直前にまで追い込むなど、この戦いの参加者の強さの次元がおかしいことになっていることを実感。腕の立つというレベルでは生き残ることも難しそうなこの戦いの中心に据えられてしまったガユスに至っては何回死んでもおかしくないような修羅場の連続ですね。戦いだけでなく、離れていってしまったジヴと、ガユスのそばに居ることを選んだ、チェレシアの静かな修羅場もまた胃が痛くなるよう。ジヴの使徒の思考すら先読みするような一般人のレベルを逸脱した活躍もそうだけれど、彼女の物語における役割というのはまだまだなくなりはしないようですね。

ザッハドとの邂逅とか大きなイベントの中で、相変わらず正体の分からない、ガユスの手にある宙界の瞳の価値がさらに跳ね上がったような。この世界の超越者達の間で注目されるこの指輪、いったいどんな秘密が隠されているのよ!? 今回の相対だけでザッハドが登場しなくなるわけもないだろうから、嫌なタイミングで最悪の役回りで彼の言葉を目にしそうな予感がひしひしとしますね。希代の大量殺人者にしながら、人々の命を救う技術も同時に開発するという、極めつけの悪でありながら必要とされる存在であるザッハド。もっと話の通じない狂人じみた人物かと想像していたらまったく別の人物でしたね。殺すこともで傷幽閉するしか処遇の方法がないという超危険人物にして、悪のカリスマとはまた厄介に過ぎる人物なのですね。

終盤でこの進退窮まった拮抗した勢力図に変化が。死病を抱えながらも圧倒的な戦力を見せていたパンハイマと彼女の手下達が退場の危機? まぁ、これであっさりと敵の傀儡と化すようなら微妙に肩すかしな所ではありますが、敵の敵だった人物が単なる敵になってしまうという展開はガユスたちにとっては危険な展開。過去の因縁があり、いつか倒さなければならないと決めているパンハイマとはいえ、このような形で敵対しどちらかが死ぬまでの戦いになるとしたら不本意ではないかと思ってしまいますね。ただ、この物語的には、ガユスの望みというのは結構な確率で裏切られたり叶わなかったりするものだから、以降まったく交わることもなく別々の戦いで果ててしまうなんて流れもないとはいえないのが恐ろしいところ。

周囲の状況はより危機的になった雰囲気の中で、ここにきて登場する大賢者まで今回の戦いに参戦? もう、誰がいつ死んでもおかしくないようなエリダナの街がさらに混沌に満たされそうな流れ。勢いを増し、止まることも許されないこの濁流を、もがきながらも生き抜くことができるのかどうか。主人公なんだからなんとかなるとも思いますが、その目がまったく見えないんですよねぇ……。

hReview by ゆーいち , 2012/10/20