不完全神性機関イリス〈1〉 154cmの最終兵器

stars お行きなさい。どうか、あなた自身の未来にも希望がありますように。

世界の四分の三が死んだ世界――。
宝条軍学校の傭兵科に通う貧乏生徒である俺・凪は、機械工学科への転科に悩む機械マニアだ。ある日、俺は廃材の山の中から少女の姿をした家政婦ロボを発見し、早速家で修理することに。「おはようございます凪」――そう言って目覚めた彼女・イリスは、だけど、家政婦ロボのくせに家事も何一つできないダメ家政婦で、しかもその正体は軍事用の人型機械体!? 嘘だろ!?
――トラブルだらけの同居生活&大暴走な学園生活。そして迫り来る正体不明の侵攻者『幽幻種』――。人類の最終兵器『神性機関』として覚醒したイリスに、世界の命運が委ねられる!!

[tegaki font=”crbouquet.ttf” size=”36″ color=”Crimson”]最終兵器はダメダメです![/tegaki]

既存シリーズ『氷結鏡界のエデン』から遡ること1000年。シェルティスのパートナーであるイリスをヒロインに据えたスピンオフストーリー始動。というか、これは完全に、エデンのネタ晴らしというか、補完小説といっても差し支えがないのかも。あちらを知っていれば様々な情報が穴埋めされている感覚を得ることができます。

けれど、幽玄種という世界の天敵と戦い続ける世界なのは変わらないけれど、まだ、『イリス』の世界には比較的余裕が感じられますね。いや、世界の75%がすでに死滅させられているとか、本来ならシャレにならない状況なのは確かなのですが、登場人物たちのノリが、進退窮まった『エデン』のそれに比べればまだコメディしてる余裕があるというか。

はい、ぶっちゃけラブコメ成分の比率が非常ーっに高いですね。いいぞもっとやれ!

偶然か運命か、スクラップ同然に廃棄されていたイリスの機体を拾ってしまったことから始まる主人公・凪の物語。軍用で、スペックは高いはずなのに、梶に関しては壊滅的。ダ家政婦メイドという名をほしいままにするポンコツだけれど一生懸命なイリスと凪の絡みが非常にラブでコメって大変です。『エデン』の主人公のシェルティスも自分が心に決めた相手がすでにいるとはいえ、他人の自分に対する好意に鈍感なところがありましたが、本作の主人公・凪はそれに輪をかけて典型的なラブコメ主人公していてもうね、爆発しろ! 挿絵の担当も同じカスカベアキラの手によるもので、世界観の繋がりが実感させられるキャラ造形ですんなりと本作が『エデン』の前史であるということを受け入れることができますね。ほら、凪の造形も目つきの悪いシェルティスみたいだし。そうしてみると、イリスが新たな主人としてシェルティスを見なすのもしっくりくるかも。1000年の時間が過ぎてあんな性格になってしまったとしたら、それは誰の教育が悪かったのか、なんて突っ込みを入れたくなりますが。

そんなこんなのラブコメ展開の後には、終盤を盛り上げるための対幽玄種戦。人間にとって強大すぎる天敵に対して抗う術もなく、人型機械体アンドロイドであるイリスも倒れ絶体絶命の窮地! そこで最後の希望を託すのは、これまたなじみのある名の禁断水晶。他、もろもろどこかで聞いたことのある言葉の乱舞で世界観の繋がりを実感しつつの逆転劇。てっきり、最初から最終兵器として造り上げられていたのかと思ったら、そうではなかったんですね。この流れで、禁断水晶の祝福を受けた機神ではなく、さらにその上位となる『神性機関』として覚醒することになったとは。なるほど、『エデン』の時代においても規格外のハイスペックを見せてるとは思いましたが、まさにオーバーテクノロジーの粋を結集して生まれた希望そのものだったんですね。

力を失いつつある禁断水晶から、その力の代執行を任されたイリス。普段はダメダメでも、ピンチの時に見せる姿の凜々しさがまた彼女を魅力的に見せますね。どちらかというと、天然なのか計算なのか凪の心をざわめかせるような無防備な姿の方が可愛らしく思うのですが。単なる戦いを描くだけでなく、彼らがどう生き、そしてどういう思いで未来に希望を繋ぐのか、それが描かれていくことに期待したいですね。

hReview by ゆーいち , 2012/11/25

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