ストライク・ザ・ブラッド〈1〉 聖者の右腕

stars さあ、始めようか、オッサン――ここから先は、第四真祖オレ戦争ケンカ

“第四真祖”――それは伝説の中にしか存在しないはずの世界最強の吸血鬼。十二体もの眷獣を従え、災厄を撒き散らすといわれる幻の吸血鬼が、日本に出現したという。
その“第四真祖”監視と抹殺のため、政府・獅子王機関は“剣巫”と呼ばれる攻魔師の派遣を決定。しかしなぜか監視役として選ばれたのは、見習い“剣巫”少女、姫柊雪菜だった。
対真祖用の最強の霊槍を携え、魔族特区“絃神市”を訪れる雪菜。そこで彼女が遭遇した“第四真祖”暁古城の正体とは――!
洋上に浮かぶ常夏の人工島で繰り広げられる、学園アクションファンタジー!

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″ color="DarkRed"]わたしたちの聖戦[/tegaki]

このご時世に吸血鬼ものの新シリーズを立ち上げるというのはなかなかにチャレンジャーであるというか、さすがにある程度ネタ被りな部分はあるものの、この作品ならではの要素もしっかり見せてくれていて、見飽きた物語というわけではないのはさすがベテラン作家といったところですね。

気怠げな様子でも、お日様の下を自由に歩き回る他称・最強の吸血鬼・第四真祖の主人公・暁古城。冒頭から最強の吸血鬼と称されながらも、そんな無敵さどこ吹く風の無気力さを存分に発揮して見てる方もだるだるな感じになってしまいますね。

そして、周囲を固める妹キャラやツンデレ同級生とか、ロリ教師とか、もう、ギャルゲ学園ものでいいじゃないな鉄板の布陣に、転校生にして見習い“剣巫”という肩書き付きの戦う女の子、姫柊雪菜が古城のお目付でやってくるところから物語が大きく動き出します。

メインヒロインである雪菜は肩書き通り、実力は一定以上のものはあるものの見習いの域を出ないまだまだひよっこ。獅子王機関のお偉方に悪い意味でハメられたかたちで古城の監視に絃神市へとやってきた雪菜。年相応の世間知らずさと、無鉄砲さが同居する冒頭の様子はまさに危なっかしいの一言で、それに加えて古城の行動にいちいち反応してみる人慣れしてない様子が挿絵から受けたクールな雰囲気とは正反対で新鮮に感じますね。古城のフレンドリーな態度を下心と感じて警戒してみたり、そのくせ自分以外の女の子に優しくしたりすると拗ねてみたりと、意外に喜怒哀楽を豊かに表現してくれる可愛さを持ってます。機関のお偉方の見る目が確かだったのか、あるいは彼女自身が男性に免疫がないのか、その両方な気がしますが、姫柊さん、ちょっとチョロすぎませんかね。出逢ってあんまり時間も経たないうちにあっさりと攻略されてるような……。

古城の方は吸血鬼の本能が身に刻まされているせいもあって、健康な青少年ゆえの若さ溢れる衝動を鼻血として放出してみたりと朴念仁タイプじゃないのが割と好感。でも、分かってない感じで周囲の子からの好意を華麗にスルーしてしまうのはいただけませんねえ、それでどんどんマイナスポイント稼いで、どこかで爆発させそうだし、この作品に登場する女の子は物理的にも手強そうだし、今後本当に痛い目を見そうな感じですね。爆発しろ!

作品の世界観として、人間も魔族も、舞台となる絃神市では、同様の権利を有してるあたり一方的に魔族が迫害されるような世界でないことが特徴かもしれませんね。だから、人間=善ではなく、魔族すべてが悪と断定されるような一方的な勧善懲悪のお話になってないのが今どきな感じがします。もっとも、力関係でいえば人間の組織力が他の種族の力を抑えているという構図になっていますが、これはやはり古城をはじめとする吸血鬼たちの能力がチート級だからですよねえ。歩く自然災害を放置するなんて断じてできないでしょうから……。

まぁ、今回のエピソードにしても、主人公側の絃神市の暗部が問題の根底にあって、それは文字通り非人道的な行いがゆえの、むしろ相手側に義がありそうな事件でしたが、人間同士でさえこんな危ういバランスの上に生きているのに、ここにきて歴史の転換点に現れるという第四真祖という災厄を背負い込んでしまった古城は、もはや平穏な生活は望めないんでしょうね。

危険で可愛い監視者の雪菜ともなんだかんだで息の合ったコンビネーションを見せてくれたし、最強でも半人前の吸血鬼の古城と、半人前の“剣巫”の雪菜。二人あわせてちょうど良いと言ったところでしょうか。自分一人で戦いに望もうとする古城に、その戦いは自分の戦いでもあると言って微笑んでみせる彼女の様子は、彼女がどれだけ古城に信頼を寄せたかの答えでもあるんですよね。ただ、残念なことに信頼度はここがマックスで、その先、ダダ下がりなのはお約束でもありますが。自分の考えをストレートに口にして、さらにデリカシーがないとか、最低ですね、古城君。せっかく立ったフラグが半ば折れてしまったような気がしますよ?

そんな感じで動き出した物語。古城の第四真祖としての未完成さは、その身に抱える12の眷獣を従えられていないということとイコールな感じ。魅力的な異性の血を吸うことで、眷獣の手綱を握ることができるとか、なんて羨ましい設定なんでしょうか。吸血シーンはさすがのエロティックさですしね。この先11体の眷獣を解放していく過程でどれだけのヒロインが登場するのやら。良い意味で期待したいですよ。

古城以外のキャラクターも、まだまだ見せていない普段とは違う側面を覗かせていますが、それがどんな風に絡み合い、物語を彩っていくんでしょうか。

hReview by ゆーいち , 2012/11/28

ストライク・ザ・ブラッド〈1〉

ストライク・ザ・ブラッド〈1〉聖者の右腕 (電撃文庫)
三雲 岳斗 マニャ子
アスキーメディアワークス 2011-05-10