ストライク・ザ・ブラッド〈3〉 天使炎上

stars 神と呼ばれている連中が、傲慢で偏狭で残酷で、自分の気に入らないモノを、滅ぼさずにはいられない存在っていうなら、おまえをそんなやつらの使いっ走りにさせたりしない。

南宮那月の助手として、絃神市上空に出現する怪物“仮面憑き”の捕獲に協力することになった古城と雪菜。しかし古城の眷獣でも倒せない“仮面憑き”を相手に思わぬ苦戦を強いられる。そんな彼らの窮地を救ったのは、暁凪沙の友人だという銀髪の少女、叶瀬夏音だった。
そして失踪した夏音を追う古城と雪菜は巨大企業メイガスクラフトに騙されて、二人きりで無人島に置き去りに――!
世界最強の吸血鬼が、常夏の人工島で繰り広げる学園アクションファンタジー、待望の第三弾!

[tegaki font="crbouquet.ttf" size="36″ color="white" strokecolor1="Silver" strokesize1="5″]わたしの、しあわせの、かたち[/tegaki]

続々と新キャラが投入されてきてる本シリーズ。またしてもヒロイン級のキャラが一気に二人も登場。一人は不思議ちゃんで、一人は茶目っ気たっぷりの王女様。多種多様なニーズにお応えするヒロインのラインアップ。古城の周りは着実にハーレム化が進行していますね。新しい女の子が登場するたびに「またですか」と、心の中で溜息を吐いて肩を落とす雪菜の姿が見える、私にも見えるぞ!

ということで、今回は微妙に繋ぎのエピソードっぽい? 物語の舞台を無人島に移してちょっとしたアバンチュール。いや、本当は罠にはまって二人っきりで遭難させられた構図なんだけれど、古城と雪菜のペアで言えば遭難で命の危険がどうのってイメージできませんから、むしろ雪菜にとっては貞操の危機再び! みたいな。

そんな感じで、そういうひと夏の思い出が作れれば、甘酸っぱくもあったんでしょうけれど、そうは問屋が卸さない。もとはと言えば、ふとしたことで知り合った、下級生で、古城の妹・凪沙のクラスメート叶瀬夏音が抱えているトラブルを解決しようと首を突っ込んだのが原因で、さらに言えば、面倒事を押しつけた、担任教師で攻魔師の那月ちゃん(ちゃん付けで呼ぶな!)のとばっちりでもあるんですけどね。けれど、この事件に巻き込まれていなかったら、遠くない未来に、切ない別離があったということを思えば、この巡り合わせもまた運命であったと言えるのでしょう。

この、人造の天使を作り出すことを目的とした模造天使を巡る戦い。その裏には微妙に歪んだ、他者には理解しづらい親の愛情や、この先に待ち受けているさらに大きな戦いの為の前哨戦という意味合いもあったのでしょう。第四真祖が出現したという意味が、すでに存在している三体の真祖を持ってしても抗し得ない『何か』に対するカウンターなのだとしたら、それは生半可な戦いでないのは間違いないですからね。でも、それを間違った形で――少なくとも、古城や雪菜、そして今回登場したとある国の王女であるラ・フォリアにとってみては、人としての幸せを捨てなければ得られない押しつけの幸福なんて、願い下げだというのは共感できます。むしろ、敵方の理屈を掘り下げる前に、一気に叩きつぶされた感もあるので、終盤の戦いは少し盛り上がりに欠けたかなあという印象でもありますが。でも、夏音の、控えめだけれど、人並みに家族としての幸福を得たいという願いが叶えられた結末は、その仮定で欠けたものもあるけれど、良い終わりかただったんじゃないかと思いますね。

そんな物語の流れと少し外れたところでは、女の戦いも妙に盛り上がってましたね。前巻に引き続き登場の、紗矢華と浅葱の古城がいないところで盛り上がっている恋のさや当てはニヤニヤ。結局は自分たちが蚊帳の外で新たな恋敵の登場で、やり場のない怒りを古城にぶつけることになるんですが、しょうがないですよね。新しい女を知らないうちに作っている男なんて、爆発させられても文句は言えないですよ、いや、むしろもっと爆発しろ! 新たなライバル(?)になるのかならないのか、ラ・フォリアは余裕綽々で古城や雪菜たちを手のひらの上で転がすようにいじり倒すし、ある意味で初心な彼女たちにとっては天敵と言ってもおかしくないのかも。ひとまずは絃神島を去る王女ですが、彼女のお国が、上から下まで色恋沙汰で簡単に大騒ぎになりそうな雰囲気なんで、また無茶をして押しかけてきそうな予感がしますね。こういう他者をいじって反応を楽しむ系のキャラも動いていると楽しいんで、良い感じになったところでまた引っかき回しに来てほしいかも。

さて、冒頭で凪沙が入院していた頃の回想がありましたが、彼女の中に潜んでいる存在を考えると、その原因となった魔族による事件が深く絡んでいるんでしょうね。時系列的にその後、古城が第四真祖の血脈を受け継いだということだから、正体が語られなかった原因の魔族もやはり第四真祖絡みあるいは本人ということなのかな? もっとも近い肉親に、気付かぬ間に共存しているそれが、どんな意味を持つのか、話が進んでいくとかなりシリアスになりそうな気がします。

hReview by ゆーいち , 2012/11/30

ストライク・ザ・ブラッド〈3〉

ストライク・ザ・ブラッド〈3〉天使炎上 (電撃文庫)
三雲 岳斗 マニャ子
アスキーメディアワークス 2012-02-10