アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム

stars ミスターが変えてくれた気がするの……突き落とされたら戻れないぐらい、深くて深くてどうしようもない運命から、救い出してくれたんだ、って……そう思うの。

アリス・リローデッド 書影大

「あたしが巡り逢ったのは……最高の銃だったわ」
そう言ってアリスは逝った。わたしの名前はミスター・マグナム。偉大なる魔女によって生み出された魔法の銃だ。災厄により相棒を失ったわたしは、不思議な運命により過去の世界で意識を取り戻す。そこで出逢ったのは、少女時代のかつての相棒。だがこのアリスは、とんでもないおてんばアホ娘だったのだ……。
やれやれ。とはいえわたしは立ち上がる。かつての悲劇を起こさぬよう、新たな未来を切り開くために――。
第19回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作の、未来を切り開くマジック・ガンアクション登場!

個人的な意見ではありますが、大賞受賞作というのは他の受賞作に比べて、完成度の点では勝るけれど、逆に無難すぎて突き抜けた部分が見つからないなんて感じて、大賞作が気に入るっていうパターンはあまりないんですよね。今回も、そんな例に残念ながら漏れず、この前に読んだ塔京ソウルウィザーズとかの方がクセはあるけどピンと来たりしたわけで。

ということで、第19回電撃小説大賞【大賞】受賞作「アリス・リローデッド ハロー、ミスター・マグナム」です。

西部劇のテイスト満載の世界観。そして、物語の語り部は人ならぬ魔法によって生み出された意志ある拳銃・ミスター・マグナム。拳銃の擬人化っていのはなかなかない気がしますし、そして、そんな硬派な性格の彼を手にするヒロインのアリスはとんでもないアホアホキャラ。

いやぁ、ここまで相棒にアホアホ叫ばれまくるヒロインというのはなかなかいないですよね。もはや、彼女のアホな行動はアイデンティティとなっている風。人の話は聞かないくせに、自分の話は一方的にマシンガントーク。緊張感は続かないわ、空気を読まずに事態を悪化させるわ、こういうキャラは苦手なタイプになっちゃいますね。そのくせ、重大な場面、運命を分かつ場面では覚醒モードで素晴らしい技量を発揮するという。そりゃあ、ミスター・マグナムでなくても驚愕ですわ。

物語は悲劇的な結末を迎えてしまったアリスとミスター・マグナムの別れから始まり、気が付いたら過去に戻り幼くアホなアリスと、いつか訪れる破滅を回避し運命を変えるために戦うという流れですが、肝心要のアリスの性格がアレなわけで緊張感という部分がかなり薄まってしまっていますね。冒頭の魔女との決戦では大魔術吹き荒れ人がばたばた犠牲になる血なまぐさい雰囲気だったんですが、物語の大部分は、小さなアリスとの道中なので、そういったシリアスシーンはあんまり見られないんですよね。プロローグが失敗してしまったエンディングであるという見方をすれば、コメディタッチな本編を経て迎えるエンディングこそハッピーエンドで、事実そんな感じではあるんですが、拳銃を突き付け合う命のやりとりとはちょっとかけ離れたガンアクションだなあという印象でした。魔法の拳銃に魔法の銃弾の組み合わせで、無限連射とかチート過ぎる技とか出てくるし、それじゃあ、敵は一方的に倒されるしかないじゃないですか(笑)

アリスの仲間になる人々も、一周目と二周目で同一人物ながら年齢が違ったりで一粒美味しいのかキャラ付けが薄味になってしまうのか、意見が分かれそうですね。あれよあれよという間にミスター・マグナムに説得されて疑い持たずに仲間になるとかみんなチョロいなあなんて思ってしまうのは穿ちすぎかなあ? 順調に仲間も集まり、順調に最終目的地へと向かっていくという古き良きRPG的なストーリー展開ですね。場面転換が一気に進むので、非常にスピーディです。実際は分冊してもいいくらいのボリュームだったんじゃないでしょうかね。

ミスター・マグナム誕生に関わる秘密とか、タイムスリップを下敷きにしただけあってひねりが利いてる部分はありますが、時間を遡るのになんだか制約が少なそうな気がしたのになぜにあの人物が情報を与えなかったのかはきっと永遠の謎なんでしょうね。そして、魔女が呪いをかけた伏線が回収される日は来るんでしょうか。続編が出て欲しいような、これはこのまま終わってもいいような、難しいところですね。

復讐に身を焦がし救われなかったアリスと、たいせつなものを失くさぬまま世界を救うことができたアリス。ミスター・マグナムが最初のアリスに会ったからこそ、純粋でアホなアリスが世界を救うという偉業を成し得たんだと思えば、きっと彼の心も救われるんでしょう。過去と決別し、今を生きることを決めた彼と彼女の新しい未来がここから開けていく暖かな結末はとても気持ちのいいものでしたね。

……その後のあとがきが全部持っていった気がしないでもないですが。こういう経歴の持ち主が大賞受賞って前代未聞ですね。思う一念岩をも通す。ついに晴れ舞台に立てた作者氏の次の作品が早めに読めますように。

hReview by ゆーいち , 2013/02/12

アリス・リローデッド

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